ショート

The MARK.
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「……は…ぁ……。石丸……」
「江ノ島くん……」


一糸纏わぬ姿で布団の上に横たわる彼女を、僕はじっと見つめた。
彼女のこんな姿を見るのは初めてではないはずなのに。その度に僕は、常に新鮮な感情の昂りと共にこの時を迎え入れるのだ。


「江ノ島くん…っ」
「……っ……」


その細く美しい身体に今すぐに触れたい衝動に掻き立てられながらも、僕は彼女の唇に自分のそれを重ねた。
ただ重ねるだけでは飽き足りず、彼女の中をどこまでも深く深く抉っていくように、侵していくように。
執拗なほどに絡み合った舌先と吐息は、僕の理性を見る見るうちに奪い去り、思考力を著しく麻痺させていく。

そしてもっと、もっと──彼女のより深いところを知りたくなってしまうのだ。



「……ぁ…っ! は…あ…っ! ん、っ……」


僕がようやく彼女の唇を解放すると、彼女は苦しげに大きく肩で呼吸をする。
…彼女に自覚はないのかも知れないが、頬を赤らめ、瞳を潤わせながら息絶え絶えに喘ぐその姿はひどく扇情的で。
それが原因で、僕の脳内の片隅に辛うじて残っていた理性の破片は、また一つ音を立て、砕け散ってしまう。

……だが、まだ早い。彼女の『全て』に触れるのはまだ早い。
僕の中におぼろげに存在する客観的な僕自身が、溢れ出しそうになるこの衝動を食い止めていた。

次に僕は、未だ呼吸の荒い彼女の首筋に顔を埋める。
そして、そのまま思い切り強く吸い寄せようとした……のだが。


「…っ! だ、駄目だって…! ヤバいから…!」
「……?」


突然ハッと我に返った様子の彼女は、僕の行動を制止させるように背中を強く掴んでくる。
それには僕も疑問符を浮かべずにはいられなかった。


「あ…、明日、雑誌の撮影ある、から…。だから、首はマズいって……」
「……。そうか…」


彼女の言葉に僕は頷き、身体を離した。
仕事の事で彼女を困らせるほど僕は聞き分けの悪い男ではない。

けれど、これで黙って引き下がるほど潔い男でもない。
……そうだ。首が駄目なら、場所を変えれば良いだけの話だ。


「……ッ!? あ、ち、ちょっとぉ…!!」
「ここなら、誰にも見られないだろう? …まあこんな所を見るような奴がいたら、僕は容赦しないがな」
「……っ。バ、バカ…!」


僕がそう言うと、彼女は恥ずかしそうに顔を背けてしまった。
こんな時にも時折見せる素顔がたまらなく愛しい。胸の奥がきつく締め付けられるような気がした。

僕が唇で強く吸い付けたのは、彼女の胸の頂の少し下の辺り──彼女の身体の中で特に敏感な部分の一つだ。
それを証明するかのように、その場所には白い肌にくっきりと赤い印が刻まれている。
その瞬間生まれるのは、彼女は僕だけのものだという支配欲、独占欲。そして心地好い達成感。

そしてこの唇に残った柔らかい感触は、僕の思考と身体をじわじわと、確実に狂わせていた。
もう引き返せないところまで来ている事もとうに承知している。覚悟の上だ。


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