ショート

This is our world!
1ページ/2ページ


…あ、おはよ。
目、覚めた?


え? 美味しそうな匂いがする、って?
そりゃあ当たり前じゃん!
だって、今日はいつも以上に腕によりをかけて朝ご飯作ったんだから。

ほら、見てみてよ。
白いご飯に味噌汁にだし巻き卵、焼き魚に沢庵、里芋の煮転がしに豚の角煮。
みーんな、アンタの好きなモノばっかりだよ?
ちゃんと栄養のバランスだって考えてるんだから。

そんなに僕の事を思ってくれてるのか、って…。
だーかーら! そんなの当たり前だって言ってんじゃん!
だってアタシ達は付き合ってるんだよ? 恋人同士なんだよ?
彼女がさ、大好きなダーリンの身体を気遣ってあげるのはごく自然な事でしょ?

んもー、やだなぁ。そんなに泣かないでよ。
いくら何でも感激し過ぎ。
…でも、アンタのそーゆートコマジで可愛いから許しちゃうけど。


てゆーかさ。
ここは、この部屋は…アタシ達の家なのよ。アタシ達はこれからここで一緒に暮らすんだから。
だから…アンタはアタシに、いっぱい甘えて良いのよ?

…ううん、家なんて表現じゃショボ過ぎるわね。
そうね…むしろここはアタシ達の『世界』、って言った方がしっくり来るかしら?
そう、そうよ。ここはアンタとアタシの、『世界』そのものなのよ!

あ、でも、心配しないでよね?
決して広くはない『世界』だけど、アンタには絶対退屈な思いはさせないから。
そのための準備はちゃんとしてあるから、安心しなよ。
……例えば、ほら。これとか。

え? それは何だって?
これはね、手枷と首輪だよ。
こんな物一体何に使うのかって?
そんなの決まってんじゃん。もちろん、アンタに使うのよ。
アンタを、ここに縛りつけておくためにね。

……は? 何言ってんの?
冗談なんかじゃないし。
冗談でこんな事するワケないじゃん?

あれ…? ひょっとして不安なの? 心配してるの?
そっかあ…それはそうよね。急にこんな事言われても驚いちゃうわよね。

…でも、心配しないで。
この手枷も首輪も、そう簡単には外れないようになってるから。
他ならぬアンタのために、アタシすんごい奮発したんだよ? だって、安物じゃすぐに壊れちゃうもんね。

まあとりあえず、品質はアタシが保証しますって。
ほら見てよ、このずっしりとした重量感! これぞまさしく拘束具って感じよね〜。
コレを付けたアンタを想像したら……それだけでコーフンしてきちゃう!


…え、仕事?
そんなの行かなくたって良いわよ。だって、アンタがそんな事する必要ないでしょ?
あんな薄汚れた、偽善だらけで下らない外の世界に、アンタを放り出すワケにいかないもん!
そんな事したらアンタの方が汚れちゃう!

だからね、アタシ、さっきアンタの職場に電話しといたんだ。『諸事情でもうそちらに勤める事は出来ないので、本日で退職させて頂きます』って。
えへへ〜。「結婚してもないのにもう奥さん気取りかよ」って電話の相手の人に思われたかもね。
なんか恥ずかしいなー。

……ねえ。そんな顔しないでよ…。
アンタは何も心配しなくて良いんだってば。
アンタの分まで、代わりにアタシが今以上に仕事頑張っちゃうからさ。
アタシのこのキュートな美貌があれば、仕事なんていくらでも入ってくるんだし。

…あ、だからってヘンな事想像しないでね?
いくら仕事が欲しいからって、加齢臭と金の臭いしかしないキモいおっさんなんかとやらしい事したりしないから。つーか考えただけで吐き気するんですけど!
頭もプライドも空っぽな、その他大勢の三流モデルと一緒にしないでよね。


あ、そうそう。もう一つついでに言っとくけど。
アンタの携帯ね、さっきアンタが寝てる間にメッタメタにぶっ壊しておいたから。

え? …だってあんなモノ、必要ないじゃんか?
アンタはこれからずーっと、ここにいるんだよ?
アタシ以外の人間に関わる事なんてないんだから。

…うぷぷ。
でもさ、アタシね、今心底超嬉しいんだ。

さっきアンタの携帯を壊す前に一応着信履歴とか電話帳とか調べたんだけど、案の定アタシと大和田のデータしか入ってなかったんだもん。
アンタが交遊関係めちゃくちゃ狭い人間で、ホンット安心してるの。

……もし仮に他の女の電話番号なんかが入ってたりしたら、アタシ…その女を真っ先に殺しに行ってたと思うから。

あー、うーん。でもなー…。
他の女に会わせるのは絶対許さないけど、大和田ぐらいにならたまに会わせてあげても良いよ?
だってアンタと大和田は、兄弟の契りを結んだ仲…なんでしょ?

もし大和田に会いたくなったらアタシが連絡つけてあげるから、いつでも言ってね?
アタシから頼んで、アイツにここに来てもらうように伝えるからさ。
で、その時はアタシ達のラブラブっぷり、いーっぱい見せつけてやろうね?
今から楽しみ〜!


…………。「狂ってる」、ですって?


ねえ、なんでそんな事言うの? なんでそんな怯えたような目でアタシを見るの?
ねえ、なんで??

これは…アタシがしてる事は、全部アンタのためなんだよ?
アタシがアンタを好きだから、アンタを何よりも誰よりも大事に想ってるからなのよ?

…分かるわよね?
もし、分からないって言うなら……。


………うぷぷ、うぷぷぷ。
でもアンタのその表情、アタシ嫌いじゃないんだよねー。
て言うかむしろ好き過ぎて困るんですけど、みたいな?

だってそれってさ、アンタがそれだけアタシの事を考えてくれてるって証拠だもん。
アタシの言葉『だけ』を聞いて、アタシの思考『だけ』に恐れ戦いて…。
そしていずれその心も身体も、アタシ『だけ』が支配する事になる…。

はぁぁ…っ、ヤバいよ…。
今日からそんな夢みたいな心躍る甘い生活が出来るなんて、ホント信じらんない!
マジでぞくぞくしちゃうッ!


……それじゃあとりあえず、この生活を夢で終わらせないためにも。
早速この首輪と手枷、アンタにつけてあげないとね。
絶対アンタに似合うと思うんだ〜。
だってこんな首輪なんかつけたら、まるで犬みたいじゃん? てかアンタなら最高の『忠犬』になれると思うのよねー。


……あぁ…。いい、いいわ。
すごく良いわぁ…! 最っ高!


アタシね、今すっっっごい幸せなの。
自分でも驚くぐらい、心が穏やかで優しい気持ちになれるのを感じてるの。

だって…アンタがこうしてアタシだけを見てくれるから。
アタシを、満たしてくれるから。
凄い! 愛の力って、これほどまでに偉大なモノだったのね!
興奮し過ぎて、なんかもうおかしくなっちゃいそう…っ!!


……ねえ。
アタシ達、これからもずっと、ずーっと一緒よ?
アタシ、アンタを満足させてあげるから。
絶対後悔なんてさせない。

ココロも、カラダも…隅々まで全部愛してあげる。
アンタがめちゃくちゃになって、ボロボロになっても……離さないから。


今日からはここが新たな愛の巣、アタシ達の『世界』。
……アタシとアンタだけが住む事を許された、『世界』。

誰にも邪魔させない、誰にも汚させない。
だから……心ゆくまでゆっくり、たっぷり、骨の髄まで愛し合おうね?


それじゃあ、改めてよろしくね?
…アタシの大好きな、大好きなヒト。
ぷぷ…、うぷぷ…。


うぷぷぷぷ、ぷぷ、ぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ…!
















→あとがき


次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ