ロング
□それは、おとぎ話のような
1ページ/12ページ
──ふと、思い出す光景がある。
それは泡と消え果てた人魚姫のように儚く、一晩だけ魔法をかけられたシンデレラのように幻想的な、古びた過去の記憶だ。
もはやその思い出に触れる事は叶わぬと知りながら、それでも尚、過ぎ去りし日々へと思いを馳せる。
その度に僕は過去の憧憬へと身を投じ、同時に胸の中を去来する形容し得ない不可思議な感情を認識してしまうのだ。
…しかし、この感情の意味を僕が知る事は決してないのだろう。
何故ならあの人はもう既に、夢の世界の──おとぎの国の住人なのだから。
もはや僕などには手の届かぬ存在なのだから。
それは、おとぎ話のような──。
遠い遠い昔の思い出だ…。