夢幻なる縁

□短編集
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 今日はおじいちゃんの88歳の誕生日。
 誕生日は毎年一族全員が自主的に盛大に祝うことになっていた。
 おじいちゃんとおばあちゃんの誕生日は、お正月よりお盆よりも大切な日。

「なんかすごい光景なんですが……。本当に私達がいて大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。二人は今家に下宿しているんだから、もう家族みたいなもんだよ」
「そう言ってくれると嬉しいわ。でも梓の言いたいことも良く分かるわ。現役総理大臣と軍の官僚。おまけに日本初の女性外交官。他にも有名な人ばかりじゃない?」
「だよね?」

 私にとっては極々普通な光景でも特別参加の梓と千代にとってはそうじゃないらしく、緊張していて明らかに堅かった。

 言われて見れば確かに初めて見たらすごい光景には違えない。
 多くのおじさんそしていとこ達の名前が世の中に知れ渡っている。
 でもそれはおじいちゃんとおばあちゃんの育て方が良かったんだと思う。
 梓の世界では普通になりかけている男性の子育ても実践していたらしく、お母さんとおじさんおばさんにはおじいちゃんとの子供の時の思い出がたくさんあるみたい。
 私にもお父さんとの思い出はそれなりにあるけれど、たぶんおじいちゃんとの思い出の方がたくさんある。
 そうお父さんに言ったら泣くから言わないけど。

「それで帆波は帯刀さんに何をあげるの?」
「よくぞ聞いてくれました。今年はマッサージチェアを作ったの」
「マッサージチェア?」
「それはすごい物を作りましたね? でもすごくいいと思います」

 今年のプレゼントはいつも以上に自信があったため得意げに答えると、千代は首をかしげ梓は驚くも絶賛してくれる。


「帆波、聞いたわよ。今やり手の藤堂若社長と婚約したんだってね? おめでとう」
「ありがとうございます。あ、こちら龍神の神子の千代と梓」
『こんにちは』
「こんにちは。私は帆波の伯母の叶羽です」

 そこへ今日のためだけに帰国した叶羽おばさんがやって来ていつもの調子で楽しそうに話し出す。

 お母さんの妹だけあってそっくりだ。

「私、叶羽先生の小説大好きです。本当にいろんな国に行っているみたいで」
「ありがとう。旦那が外交官なのがだから、定期的に回ってるおかげで書けるのよ」
「羨ましいです」

 以前ファンだと千代から聞かされていてこうなるのは目に見えていたため、おばさんもご機嫌なようなのでせっかくだから二人だけにさせておこう。
 ……尚哉さんのことを根掘り葉掘り聞かれたくないのもあるけれど、きっとそれは後でお母さんに探りは入れられる。

「縁側で日向ぼっこしようか?」
「ですね?」

 宴会にはまだ時間があって今の時間は気持ちが良いので、そう提案しそっと二人で部屋を出る。






 庭では幼四神とチビッ子軍団が鬼ごっこをしていて、それをおじいちゃんとおばあちゃんが幸せそうに眺めている。
 絵になるようなまったりした光……すでに友ちゃんがスケッチをしていた。

 友ちゃんは裕おじさんの三男で将来有望な美大生。

「友ちゃんは本当に絵が上手だよね?」

 スケッチを覗きこめばもうすぐ終わりそうで、優しくて温かい友ちゃんらしいタッチだ。
 それに大好きと言う気持ちが沢山込められている。

「ありがとう。これはお祖父様のプレゼントなんだ。もちろんこれはおまけだけどね」
「何を言ってるの? 私にとっては十分すぎるぐらいの贈り物。友久は小さい時から誕生日当日に私の絵を描いてくれるのが楽しみなんだよ」
「私も同じ。友ちゃんはきっと立派な絵描きになると思うの」

 孫バカであるおじいちゃんとおばあちゃんに全力でべた褒めされまくる友ちゃんは顔を真っ赤に染まり沸騰する。

 だけど立派な絵描きになるって思うのは私もかな?

「ひいじい、僕達の誕生日プレゼントも嬉しい?」
「お団子がこんなつるつるになるんだよ?」
「これ私が摘んできたの」
「ああ、嬉しいに決まってるよ。ねぇ夕凪、私達は世界一幸せな夫婦だと思わない?」
「ええ、そうですね? いつの間にか私達の家族は大所帯になっていって夢のようです」

 チビッ子軍団もやって来てそれぞれのプレゼントをおじいちゃんに渡し感想を待つと、ますます嬉しそうな笑みを浮かべチビッ子軍団を一気に抱きしめる。
 おばあちゃんも幸せいっぱいって感じだ。

「私も将来こんなおばあちゃんになりたいです。孫やひ孫に囲まれて過ごすなんて素敵です」
「梓ちゃん、それには殿方が必要だけれど、一体全体誰なんですか?」
「え? そそれは……。私萬の様子を見てきます」

 誰もが憧れる夫婦像に梓も憧れを抱くけれど、小声で意地悪をすれば顔を真っ赤に染め逃げていく。

 こないだのパーティーで梓はある人と良い感じになったらしいんだけれど、なぜか誰かを恥ずかしがって教えてくれない。
 私と千代のことは聞くくせに薄情な奴。

「ねぇ帆波お姉ちゃんはひいおじいちゃまに何をあげるの?」
「え、私?」
「うん。だって帆波姉ちゃんのプレゼントはいつもすごいものじゃん。僕の時は走る機関車」
「オレももらった」
「私達はからくりの可愛いお人形」
「おしゃべりしたり歩くんだよね?」
「私の誕生日は来月だからね」
「分かってるって」

 自分達のプレゼントだけでは飽きたらず私が贈るプレゼントを目を輝かして期待してくる。
 弱冠自分達のプレゼントのことになっている気もするけれど、誉められているのだから悪い気はしない。
 可愛い甥姪達やいとこ違いが喜んでくれるなら、もっともっと喜ぶものを作りたい。

「私も知りたいね?」
「そう? じゃぁ連れてってあげるから目をつぶって私の手を掴んで」

 当の本人からの楽しげなリクエストであれば渡さない訳には行かずちょっと早いけれど渡すことにして、おじいちゃんの手を繋いでリビングに行こうとしたら手ではなく腕を組む。

 おじいちゃんがそれが良いんならそれで良いけれどおばあちゃんに……おばあちゃんは友ちゃんと腕を組んでいた。






「え、なんでみんなしてここにいるの?」
「みんな帆波の発明品を楽しみにしてるの」
「そうだよ。帆波はきっと将来帝都にとってかけがえのない大発明家になるはずだからね? そのために一刻も早く女性も社会に進出しやすくなるよう実現させるよ」
「清おじさん誉めすぎだよ。でもありがとう」

 リビングにはなぜか全員集合していて驚く、私にお母さんは楽しげに清おじさんは大袈裟でも嬉しいことを言ってくれる。
 現総理大臣が言うと重みが違う。

「清おじさん、余計なこと言わないで下さい。せっかく帆波の縁談が決まったのですから、さっさと結婚し家庭に入るべきなのです」

 お決まりの眞佐之お兄ちゃんの世間一般論を力説し、私の気分を悪くさせる。

 婚約さえすれば静かになると思ってたのに、今度はこれか?
 一度大怪我しない程度に闇討ちするか?

「眞佐之、お前本当に小松家の血縁者か?」
「そうなのよ? きっと育て方を間違えたのね? それとも私が専業主婦……でも母さんの寺子屋を手伝ってたし、眞佐之だって母さんの教え子のはずだけど。どこで間違えたのかしら?」
「母上、そこまで言ったら眞佐之が可愛そうですよ。ほらいじけてる」
「あ?」

 しかし今日は世間一般論が通じない人達ばかりで白い目で見られる上、母さんが気持ちぐらいにぼこぼこにしてくれるからスッキリする。
 眞佐之お兄ちゃんはいじけ清人お兄ちゃんを味方につけるけれど、母さんは罰の悪い顔をするだけでフォローはせず。
 眞佐之お兄ちゃんは図体がデカイ癖にメンタルが意外に脆く、いつも母さんの言葉に傷つけられていた。

「まったく眞佐之は。能力があれば性別は関係ないでしょ? 今日は私の誕生日なのだからそのぐらいにしなさい」
「……すみません」

止めとばかりにおじいちゃんの呆れきったお言葉に、眞佐之お兄ちゃんは謝り黙った。

ちょっと可愛そうだけれど、自業自得だ。

「それで帆波、目を開けて良い?」
「うん、いいよ。あのね今年の誕生日プレゼントは」

 と言いながら、マッサージチェアに掛けていた布を外す。

「マッサージチェアなんだ。おじいちゃん、お誕生日おめでとう。これからも元気でいてね」

 そしてお祝いの言葉を言った同時に、私が渡したクラッカーを一斉に鳴らし誕生日会は始まった。



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