夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
9ページ/38ページ

「貴方は自働人形について詳しいのでしょうか?」

 萬も私と同じで知らないけれど知っているから、興味はあるのだろう。

「それなりにね? でも流石に2144年の自働人形までは分からないから、後でいろいろと調べさせて欲しいんだけど」
「御主人の許可が降りれば構いません」
「え、なんで私の許可が必要なの?」
「自働人形は御主人様の命令に忠実なのよ」
「はい。御主人の命令は私のすべてです」
「すすべてって………。じゃぁ、帆波先輩のお願いも聞いてくれる?」
「了解しました」
「帆波先輩、どうにかできないんですか?」

 萬の至って普通の返答をしてるにも関わらず、困り果てた梓はついに私に助けを求める。

 これも萬が人と同じ外見をしているからだと思う。
 心優しい人は命令するのを好まない。

 私も萬に命令をしたくないから、ちゃんと自我を持って欲しいと思う。
 そうなると心臓部分であるAIシステムがどのぐらい優れているかにもよるんだけれど、その辺は未来の最新式に期待してするしかない。

「で萬。あなたの心臓部分はどうなってるの?」
「私の魂は黒龍から貰ったものです」
「じゃぁ心臓は本物ってことね? 梓、おめでとう。この子は根気強く育てれば人間になれるわよ」

 驚くべき衝撃的な事実のはずなのにやっぱり私はすんなり受け止められ、最早要領オーバーで呆気に取られている梓に簡潔に真実を告げる。
 梓以外の人達もそんな感じだけれど、ルードくんと虎は分からないながらも熱心な顔つきだ。

 ひょっとしたらこの二人ものちのち助手に使える?
 虎は嫌だけれど、ルードくんなら良いかも知れない。

「そ、そうなんですか? 私にはイマイチ良く分からなくって」
「要するに萬の外見は自働人形だけれど、心は私達と同じもの。今は命令通りで動いているようだけれど、自我を持つことで普通の暮らしができるわ。つまりどんな子に育つかはあなた次第」
「帆波先輩、楽しんでますよね?」

 まるで育成ゲームの謳い文句かのように誰でも分かるように説明すれば、今度は私を若干冷たい眼差しで見つめられため息をつかれる。
 しかし科学者にしてみれば当たり前のこと。

 魂はどこまでの機能が備わっているか解明できる隅の千載一遇のチャンス。

「まぁね。萬、私の事は姉だと思ってくれれば良いわ。そうね? シスターと呼んでくれる」

 なぜか萬にはシスターと呼ばれたいと思った。

「分かりました。シスター。!?」

早速呼んでもらうと思っていた以上にしっくりしたけれど、萬は呼んだ後違和感を感じたのか戸惑いを見せる。

 いくらなんでも図々しかっただろうか?

「あ、いやなら帆波で」
「いいえ。あなた様は私のシスターです。未来でもそう呼んでいたように思います」
「え、未来で?」
「は、お前達さっきからおかしいぞ? 何か隠してるだろう?」

 萬の意味深でハッキリした答えは不信感を更に煽ったんだろう有馬さんから疑いの目を向けられる。
 誤解をされる言い方をしている以上、そう思われても仕方がない。
 だけど弁解したくても、お互いに覚えてないのだからできない。

「有馬、彼女は嘘をついていませんよ。幼き頃から嘘を付くとすぐ顔に出ますからね。なんでも凪さん似らしいです」
「確かにそうですね? 帆波先輩の嘘は私でも見抜けます」
「…………」

 秋兄も梓も私を庇ってくれてありがたいと思いつつも、微妙に貶された感があり素直に喜べず泣きたい気持ちなる。
 まさか梓に見抜かれらるほど嘘が下手だとは思わなかった。
 
 少し嘘をつく練習でもしようかな?

 だけどもし私の記憶が本当に消失しているとしたら、相手にとって都合が悪い場面でも見られたから消された?
 そもそも萬の言う通り未来で私をシスターと呼んでいたとしたら、なんで私は未来になんか行ったんだろうか?

 ………梓と時空の渦に飲み込まれた時、未来に飛ばされたから4ヶ月のタイムロスが発生した??
 そう考えれば辻褄が合う。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ