夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
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「萬、もう一度聞くよ。なんで人を襲うの?」
「私は黒龍の神子を捜しています。それがあなたです御主人」
「え、私? あなたは一体?」

 もう一度青年に理由を問うと梓に視線を合わせそう答えるから、見に覚えのない梓は目をぱちくりして不思議げに確認する。

 どうやら本当に黒龍の神子を探していたらしい。

「はい。私は西暦2144年の未来から黒龍に選ばれ遣わされました。黒龍の宝玉に選ばれた「黒蓮」そして最新型の自働人形です」
「え、黒蓮?」
「ずいぶんぶっ飛んだ話になったわね? 未来から来た黒龍の神子を護る従者。梓、良かったじゃない?」
「帆波くん、彼の話を信じるのですか? 黒蓮なんて聞いたことがないですよ」

 青年の話を疑うことなく信じ気楽に考える私を、秋兄は驚きまともな突っ込みを入れてくる。

 確かに黒蓮など聞いたことがないけれど、萬が嘘をつくはずがない。
 それに驚きもあまりない。

「だって千代には八葉。私には四神がいるけれど、梓にはいなかった。強く願ったから黒龍が用意してくれたんだよ」

果たして四神が八葉と同格にして良いのかだけど、彼らは私を護る気満々だからそう言う意味では同格なんだろう。

「そう言われれば納得できるような?」
「ん? おい、お前の武器に付いてるのは宝玉か」
「はい」
「なら確定ね」

 梓だけなら言いくるめるのは簡単で、さらに虎がマシンガンに付いている宝玉を見つけてくれ疑う余地はなくなった。

「じゃぁ私が願ったからあなたは未来から来たんだ。名前は萬で良いの?」
「はい、私の個体番号が萬だったのでそう呼ばれていたと思います」

 答えに引っ掛かる。
 その名付け方を私は知っている。

「随分雑に名前をつけられたんだね? それで萬は帆波先輩の知り合いなの?」
「それが分からないのです。私は黒蓮になる際黒龍から最低限の記憶以外を消されておりますが、彼女は私の大切な方と言う認識が残っております。しかし今の私の一番は御主人です」

 外見は人と何一つ変わらなく見えるのに、受け答えは感情を持たない自働人形その物だった。

 未来であっても自働人形に心を持たせることは無理なのだろうか?
 それとも今は初期化状態になっているだけ?

「しかしどうしても昨日と良い自働人形とは信じがたい」
「有馬は昨日からそればかりですね。帆波くんに講習会を頼んでみてはいかがでしょう? 私も聞いてみたいです」
「それ面白そうね? 私も是非参加したいわ」
「そう? ならそのうちね?」

 一番興味の無さそうな有馬さんが萬を興味津々の眼差しで見るので、秋兄提案と千代からも絶賛され講習会をすることになる。

 私の得意分野に興味を持ってくれるのは嬉しいんだけれど、説明するのは気合いが結構いるんだよね?
 何も知らないから専門用語は使えないし、飛んでもないことを聞かれることがある。
 無知と言うは何よりも怖いけれど、まれにヒントになることもあるからあなどれない。


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