夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
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「ここが書庫」
「わぁ素敵。かなり本格的なのね?」
「図書館みたい。案内図まであるんだ」
「本屋よりたくさんありますね」

 夕食後三人を書庫に連れて行くと想像以上だったのか、驚きをあらわにして三人算用の声をあげる。
 三人にとって我が家は、驚きばかりのすごい家なんだろう。

「案内図があると分かりやすいでしょ? これから自由に使って良いから」
「ならさっそく。萬、行こう?」
「はい」

 と梓は言って萬を連れ童話コーナーの方へと行く。

 私はせっかくだから村雨さんの小説を読んで見ようかな?


「ねぇ、帆波。さっき話していた いおぱら? ってどこにあるの? 読んでみたいわ」
「え、千代が?」
「ええ。この世界にはない面白そうな内容じゃない? 」

 梓とはまったく異なる好意的で好奇心旺盛な眼差しに、ちょっとしたデジャブーを感じる。
 それは千代さんに薦めた時と同じ反応をして、なんだか千代さんと千代が同一人物に見えた。

 なぜ?

「帆波?」
「あ、ごめん。まさか千代が興味を持ってくれるとは思わなかったから。こっちだよ」

 千代が梓のおばあちゃんと似てるとは言えなくて、そう言うことにして案内する。

 千代さんは品が良く可愛らしいおばあちゃんだから面影があるって言えばいいだけなんだけれど、なんとなく聞いてはいけない気がする。
 他人の空似なんて良くありそうなのに、それだけではない?
 とにかく梓に聞いてみよう。



「え、おばあちゃんと千代が似てる? う〜んはっきりものを言うととことか?」

 本を選ぶのに夢中になった千代を残し梓と萬の元に行き梓に耳打ちをすれば、まったく考えてなかったらしくなんとも間抜けな答えが返ってくる。

 他人が気づくのに身内は気づかないってありなのか?

「梓は千代さんの若い頃写真って見たことある?」
「そう言えばないかも? 私はおばあちゃんと千代より、おばあちゃんと凪さんが似てると思いますよ。好奇心旺盛で明るい孫とは友達のような関係じゃないですか?」
「そうだね」

 どうやら身内にはそんなに似ているとは思ってないらしく、変わりにおばあちゃんの名が上がった。
 それは私も同じ風に感じてたから同意する。
 二人がもし同じ時代に生きていたなら、良き友人になってんだと思う。
 まぁだから私は千代さんに親近感を覚えたから、交流を深めて今があるんだけど。

「おばあちゃん元気になったかな?」
「大丈夫だよ。梓がもし役目を終えて帰れることになれば、同じ月日に戻されるはずだからね」
「そうなんですね? 所で帆波先輩はどうするんですか?」
「私はもちろん今まで通り。高校卒業して大学に進学する予定。梓は誰かお持ち帰りしないの?」

 みんなと別れたくない梓はそう言う話になると寂しそうな表情になり、何かとんでもない誤解をしているためそれは訂正し助言もする。
 梓は役目が終わったら私までこっちに残ると思っていた。

「お持ち帰りですか?」
「そう。未来の旦那様」
「は、何言ってるんですか? そんなのない。絶対ない」

 真っ赤に染まらせ声を裏返し全否定。

 確かに梓には八葉に対して恋愛感情はないとは思うんだけれど、私には勝手に恋人候補を立てていることに少々納得がいかない。
 だとしたら私だって。

「ならコハクくんか萬のどちらかにしなさい」
「なんでそうなる……ひょっとして私と千代に九段さんを勧められてる仕返しですか?」
「そう言うこと。二人なら梓とお似合いだと思うよ」
「すみません。もう言いませんから勘弁してください」

 そんなに嫌だったのか、泣きながら謝り出す梓。
 意外にもあっさり物事が運んでしまい呆気に取られながら、二人が可愛そうになってくる。
 まったく恋愛対象として考えられないんだ。

「萬、ファイト!!」
「シスター、おっしゃってる意味がわかりません」

 近くで大人しくしている萬に思わず声援を掛けてしまい、もちろん萬には分からず首をかしげる。


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