夢幻なる縁

□2章 偽りの婚約者
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 萬は梓にベッタリで金魚のうんちになりつつある中、律儀に私との約束通り夜は研究を手伝ってくれている。
 私の未来の知識も徐々に取り戻しているらしく研究は面白いようにはかどり、楽しくて仕方がなく夢中になってしまい徹夜が続いていた。



「……あれ?」
「シスター、おはようございます」
「おはよう萬」

 目が覚めるとそこは研究室で萬がいた。
 私が起きたことに気づくと萬は読んでいた新聞を机に置き、私の元にやってくる。

 以前より少しだけ表情が柔らかくなった気がするのは、梓ママの教育の成果だろうか?

「ゲ、もう昼じゃん? 萬は梓と一緒に行かなくて良かったの?」
「はい。御主人から今日はシスターの傍にいなさいと言われております」

 時計を見るともうお昼で急いで身支度をしながら萬に聞くと、相変わらず返答は機械的だ。
 この様子じゃ梓の命令は絶対で嫌と思っても言えない、イヤそれさえも思わないかもしれない。
 でもそのうち反抗期と言うものが訪れるだろう。
 私のことを無視するようになったら寂しいなと思いながら、いつも通りメンテナンスを行う。
 と言っても萬のボディーは本当に人間に近くてメンテナンスと言うより、ヘルスチェックと言う言葉が正しいのだろう。

 製造者である私の想い人は本当に優秀でそれでいて几帳面。
 萬のことをそれなりに大切にしていた。
 ただ一つ気になっているところがあって、萬の耳元に盗聴機のようなものが内蔵されている。 
 私達の会話を誰かに盗聴されている可能性が高いんだけど、このことはみんなに黙っていてなんにも対処していない。
 梓にだけは話すべき?

「ねぇ萬? 博士のことはまだなにも思い出せない?」
「はい、申し訳ありません」
「気にしないで。私だって忘れているんだからね? 四神達が探してくれると言っていたけれど、そんな都合良くこの時代に散らばってるのかな?」

 なんとなく犯人は博士の気がして萬に聞いてみても、落ち込んだ表情を浮かべ謝られるだけ。

 萬ってそういう表情は上手でどれだけMなんだって思う時がある。
 そうなるの博士は相当ドSで陰険で根くら?
 博士としては優秀でも人としては最悪?
 確かに科学者は人格が崩壊するとは聞いているけれど、そんな人が本当に私の想いの人なんだろうか?

「シスターは早く記憶を戻したいですか?」
「そりゃあね。萬は違うの?」
「私は御主人がいますから、必要ありません。ただシスターが私にとってどんな存在なのかは知りたいです」

 すっかり梓ラブな萬には過去の記憶に興味がなくても、私との関係にはそれなりに興味を持ってくれてるらしい。
 嬉しいけれど恥ずかしくて、頬を赤く染まり視線をそらす。

「上に行ってお昼にしようか?」

 と話題を変える。

 驚くべきことに萬には食事機能と味覚機能が備わっていて、多少なら飲食可能だった。
食べたものはエネルギーに変換してしまう。
 これが当たり前の未来の技術だとしたら、私にもそんな知識を修得してるんだろうか?

「分かりました。所でシスター、昨日御主人から命と言う物を教えてもらいました。そして私にも命があるので大切にするように言われました」
「そりゃそうでしょ? 萬の魂は本物なんだから。確かに人よりは頑丈で大半のことだったら私が治せるけれど、ここの奥には魂があるから傷つけたらダメよ。それに魂があるってことは、精神的ダメージもありえるからね」
「精神的ダメージ?」
「そう。魂は心で心は繊細なの。ちょっとした言葉でも傷つくから、時には空気を読んで慎重に言葉を選びなさい」
「善処します」

 私にとっては当たり前のことでも萬にとっては不思議なことらしく、教えても反応はイマイチで了解はしてくれるけど絶対に分かってない。

これも私と梓で根気よく教えないとね?


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