夢幻なる縁

□1章 二代目四神の神子
26ページ/37ページ

「あら、姫じゃないの? しばらく見ないうちに一段とべっぴんさんになっちゃてどうしたの?」
「なんだよ。かあはまだ知らないのか? 姫はこの復興祭の主催者である藤堂社長と婚約したんだよ」
「さすが姫。良い縁談ね」
「姫、ご婚約おめでとうございます。はい、姫の大好きな芋ようかん」
「うちの焼き鳥も持っていきな」

 復活祭に足を運ぶなり顔馴染みの人達が集まり、婚約話はすでに広まっていて盛大に祝福をされる。
 祝いの品になるだろう大量に貰ってしまった食べ物。
 こんなに祝福されて嬉しいけれど、偽りの手前罪悪感がある。

 しかしどこで仕入れた情報なのか?

「帆波は、人気者なのね?」
「この辺は幼い時からよく遊んでいたから、ここの人達は顔馴染みなんだ。……姫って言うのは、小さい時のあだ名だから気にしないで」

 当然一緒に来た全員に聞かれていて、呼び名だけは誤解をされないよう先に言っておく。

 浅草六区は小さい時は毎日のように、おばあちゃんにつられ訪れていた。
 おばあちゃんとここの人達とは昔からの付き合いで仲が良く、お母さんはお嬢と呼ばれていたらしく私は姫と物心付く前から呼ばれている。
 普段は違和感も恥ずかしくないんだけれど、知り合いに聞かれるとやっぱ恥ずかしい。

「姫か私も呼ばれてみたいかも?」
「それなら僕が呼んでるじゃない?」
「え、藤堂さん? ……そう言えば」

 こういう時は強い憧れを抱く梓だけれど、尚哉さんの声がそれを訂正する。尚哉さんに驚きつつも思い出す梓。
 私も思い出す。

「まったく姫さんは酷いね? 僕は君の事こんなに思ってるのに」
「え、あ?」

 酷いと言いつつ構うように梓の手を握り、梓の頬は赤く染まり困らせる。

 あれ?
 胸が痛い?

「藤堂さん、あなたには帆波がいるでしょ? あんまり他の女性にいい顔していると、痛い目を見ますよ」
「千代、別に良いよ。私そう言うのにはこだわらないし、そもそも偽りだしね?」

 自分の事のように激怒する千代に、私は止め小声でそう言う。

 偽りの婚約だから、恋愛は今まで通り自由。
 女遊びが激しくても、私には関係のない事。
 それにひょっとしたら尚哉さんは梓の事を好きになりかけているのかも知れない。

 …………。

「そう? でもまあ可愛いフィアンセの前では、なるべく控えるようにするよ。だから帆波もそうしてくれる?」
「私ですか? 私は研究が彼氏みたいなものだから、そう言うことはしないです」

 別にそう言うこともしてくれなくても良いと思いつつ、世間体の問題があるのだと思い私は心配ないと伝える。
 複数の異性と恋愛すると言う考えがまったくない。
 そりゃぁ異性の友人なら複数いるけれど、そこまで制限されることはないだろう。
 でもなんだか気分が軽くなった。

「研究が彼氏ね。面白いこと言うね? ならそんな君に今からとって置きの場所を見せてあげるよ」

 多分お子様過ぎでバカにされたようだけど呆れることはなく、私の手を取り楽しそうにどこかへ連れて行こうとする。

「じゃぁ、また後でね」

 合流できるか分からないけれど、それだけ言い残し後は尚哉さんに任せる。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ