夢幻なる縁

□1章 二代目四神の神子
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「待って」

 突然背後から必死に誰かを呼び止める声が聞こえる。尋常ではない。

 彼女とケンカでもして呼び止めるんのだろうか?

 とにかく私には関係ないことで知らない声なのに、なぜかその声をよく知っていて愛しさを感じる。
 昨日の脳裏に浮かんできた聞き覚えのない声に、似ているような気がして気になり足を止めてしまった。

「ねぇ、どうして、無視するの?」
「え、私?」
「藤堂さん?」

 手を強く握られその声は怪訝敷くなるけれど、名前は違うし振り向いても顔も知らない……多分。
 梓の知り合いなのか驚いた声で、私が知りたいと思っている人の名が上がる。

 藤堂さん?
 それって私の縁談相手?

 そう思ったらますます気になり、マジマジとガン見してしまう。
 スリムな長身でインテリ眼鏡のなんかこう他人を引き寄せる華がある。年で言うなら眞佐之お兄ちゃんぐらい?
 確かにおばあちゃんの言う通り、おじいちゃんと顔だけではなく雰囲気も少しだけ似ているかも知れない。
 それなのに瞳の奥に大きな闇を抱えているようで、どこかミステリアスな彼。

「寄り道ばかりしてないでさっさと帰るよ」
「人違いです。私は帆波です。藤原帆波」
「は、藤原帆波? それ面白くないし笑えない冗談だよ」

 しかし彼は梓の声など耳に入らないようで話は続き、否定してもなぜか信じてもらえず冗談扱いされる。

 私誰かと完全に見間違えている?
 藤堂コンシェルンの御曹司は、頭のおかしい人ですか?

「藤堂、彼女の名は間違えなく藤原帆波だ」
「? なぜ君……お姫様達まで」

 ようやく我に戻ったようで九段さん達に気づき、私の手を離し一瞬だけ悲しげな表情を見せる。すぐに手を引っ込め警戒するけれど、なぜかそれがショックでもあった。
 どうして?

「藤堂さん、こんにちは。あなたって最低な人だったんですね?」
「あ、人違いだよ。彼女があまりにも知り合いに似てたからごめん。でも冷静に考えたら彼女がこんな所にいるわけないんだ」

 千代が私を庇うように前へ立ち彼に強気に意見すると、彼は明るく弁解と軽々しく謝罪をして逃げるように去っていく。
 胸が締め付けられるようで痛い。
 こんな感情初めてだ。

「何あの態度? 帆波、彼との縁談は白紙にしなさい」
「する」
「え、どうして?」
「え、どうしてだろう?」

 あんな態度なら千代のように激怒するのは当然なのに、私と来たら迷いもせずその意見を却下してしまう。
 さっきまであんなに縁談なんかしたくないと思ってたのに、今は理由はないけれどする前提になっていた。だから理由を聞かれてもアホ丸出しの答え。
 自分でも自分の考えがまったく分からない。
 私も彼のように実は頭がおかしい人なんだろうか?




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