夢幻なる縁

□本編前
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『姫ちゃん、久しぶり。そっちの暮らしにはもうなれた?』
「お姉ちゃん、久しぶり。なんとかね?」

 久しぶりのお姉ちゃんからの電話でテーションが上がる。

 博士の人使いの荒さは日々エスカレートしてきて、最近は部屋に戻ればすぐベッドに直行。
 それでも仕事の合間を見つけては、個人的の勉強は怠らない。

『それなら良かった。所で尚哉さんは優しい?』
「博士は鬼。恭介さんとは真逆のタイプだよ。私には怒ると怖いしチャラいし」
『そうなの? 優秀で心優しい可愛い弟だって恭介からは聞かされてるわよ。私は数回しか話したことがないけれど、その時は知的で紳士的な人だったわよ』
「まぁ、博士としては尊敬はしてるんだよね? 怖いけれど理不尽に怒ることはないし、評価もちゃんとしてくれる。それに気まぐれで普段も優しくしてくれるよ?」

 博士の事を尋ねられ最初は愚痴をこぼしお姉ちゃんを圧倒させるけれど、後でお姉ちゃんが心配しない程度の良さも言って安心させる。
 そうでもしないと博士には預けられないと判断されて戻ってきなさいと言われるかも知れない。

 そんなの絶対いやだ。
 私は博士の傍にこれからもいたい。
 もっと色々学びたい。

 それにどうやら博士はお姉ちゃんに恋心を抱いているらしいから、悪口ばっかり言ってたら印象が悪くなり可愛そうな気がした。
 お姉ちゃんと恭介さんは相思相愛で勝ち目なんて博士にはまったくないんだけれど、ただ想うのは個人の自由なのだから私は何も言わずにそっとしておく。
 だけど博士がお姉ちゃんに恋心を抱いていると気づいた時、心の奥でチクリと痛みを感じ悲しくなったんだよね?

『姫ちゃんは尚哉さんが好きなのね?』
「え、私が博士の事が好き?」
『だって悪いとこも良いとこもたくさん知ってるでしょ? それに今の姫ちゃんの顔恋する乙女よ』
「・・・・・」

 いきなり考えたことがないことを言われてしまい戸惑う私に、お姉ちゃんはクスクスと笑いながら嬉しそうに言う。

 博士が好き。
 それは絶対にあってはならないこと。

『姫ちゃん?』
「そそれは今私の目の前には博士しかいないから、錯覚しているのかも知れない。ほら人って長い間異性と行動してると、高い確率で恋をするって言うでしょ?」
『まぁそれはあるかも知れないけれど、それってつまり尚哉さんも姫ちゃんを好きに』
「なるわけないじゃない? だって博士は」
『? 尚哉さんがどうしたの?』
「なんでもない。私もう寝るからおやすみ」
『・・・・おやすみ』

 誤解を穏便に解こうしたつもりがややっこしくなり、過剰反応してしまった私は博士の秘密を暴露しそうになりこれ以上は危険を感じ電話を強引に終わらせる。
 お姉ちゃんはますます誤解したようで、悲しげな表情の残像が消えずにいる。

 何も悪く・・・少しは悪いとは思うれど、あそこまで強く言う必要はなかった。
 せっかくお姉ちゃんからの電話だったのに、悪いことをしちゃったな。
 明日は私から電話してちゃんと謝ろう。






「え、お姉ちゃんと恭介さんが死んだ?」
「はい。話によれば爆撃に恭介様が神子様を護ったようですが、その直後の爆撃に神子様が」
「なんで? 兄さんは夢見の力でこのことは分かってたはず。なのにどうして?」
「二人とも政府の命令には逆らえず」
「嘘。そんなの絶対に信じない」

 珍しく人が来たかと思えばいきなり面白くない冗談を真顔で言ってきて、あの冷血の博士の顔が見る見るうちに真っ青になり冷静さを失い話を続ける。
理解したくない私は呆然とその光景をしばらく眺め、これ以上聞きたくなく耳を塞ぎそう言い捨て部屋を飛び出した。
信じたくない現実を拒否する。




 二人が死んだなんて嘘だよね?
 私が昨日怒ったから仕返しをしているだけ。
 博士にはお気の毒だけれど、今ごろはネタバレ。
 戻ればみんな笑っていて博士から嫌みを言われて仕事をサボったから、いつも以上に罰を与えられる。
 ひょっとしたらお姉ちゃんと恭介さんが遊びに来たのかも知れない。
 だとしたら今すぐ戻ってお姉ちゃんに謝らないといけないのに、足に錘が付いていると思うぐらい重くて動けない。
 嘘だって言っている癖に、心の奥底ではちゃんと理解している。

 お姉ちゃんは死んでしまった。
 この国を守るために。
 ・・・・・・・・。
 私お姉ちゃんに謝っていない。
 それなのにどうして?

「・・・お姉ちゃん」

 ポツリと言葉にすると、涙がどっと溢れだす。

 胸が痛い。
 たった一人の家族を亡くして、頼れる人間は博士だけになってしまった。
 ・・・頼れなそうだけど。
 博士があんなショックするとは思わなかったけれど、博士だって人の子なんだら家族と片想いの人を同時に失えばそうなるよね?
 恭介さんの愚痴ばかり言っていた割りには、この国を守ることに人生注いでいたし。

 !?
 まさか後追い自殺する?






「博士!!」
「いきなり何?」

 心の整理はつかないけれど博士の事が心配になり急いで研究室に戻り叫ぶと、どんより沈んだ博士が驚き私をまじまじと見つめる。

 良かった。
 まだ生きてる。

 その姿を見た私は緊張の糸が切れ、再び涙が溢れだす。
 そして考えるよりも早く博士に抱きついていた。

「博士、後追い自殺なんてしないで下さい。私は絶対博士より先に死んだりしませんから」
「・・・・・・。相変わらず君は馬鹿だよね? 何をどう考えたらそう言うことになるの?」
「だって・・・」

 微妙な沈黙の後博士は私を拒否らず、頭をなぜながら呆れている。

 もしかしたら博士は元から自殺をするつもりなんてなかったかも知れない。
 つまり私の早とちり。

「だけど本当に君は僕より長く生きられるの?」
「はい。私は博士より若いですし、女性は男性よりも長生きだと言われてますかれね? 後は気合いかな?」

 勢い余って言ってしまった難しい約束に、突っ込みを入れられるから根拠と心の問題を答えてみる。
 気合いは意外に侮れない。
 大概のものは気合いがあればなんとかな物。

「それ熱血馬鹿が言う台詞だよ」
「熱血馬鹿上等です!! さぁてお姉ちゃん達の意思をついで研究の続きを・・・え?」
「もう少しだけこのままでいて」

 今さらこの状況が恥ずかしいことに気づき自然に離れようとすれば、強引に引き留め弱々しくそう言い私を抱き返す。

 身体中が震えていて、暖かいものが感じられる。

 涙?
 もし博士が意外に弱い人間でいつもは強がっているだけだとしたら、ますます博士を一人にさせるわけにはいかない。
 こんな博士をほっとけないと思うのは多分母性本能から来ているもの。
 私は助手として出来る限り傍にいよう。
 私だって一人ぼっちになるのは怖いから、お互い様と言う奴だ。



 その後すぐに博士は黒龍と何かの契約をしたらしく魂がやって来て、定着させる最新式の自働人形作り製造番号から萬と命名。
 本当はもっと可愛い名前にしたかったのに、博士と口論になり言い負かされてしまった。
 感情は絶対に教えるなとキツく言われたけれど、私は萬のことが気に入り弟として可愛がることにしたんだ。
 そして萬には博士が博士と呼ばせるから、私はシスターと呼ばせることにした。
 萬が来たことで何が変わるかはまだ分からないけれど、きっと良い方向に変わっていくと信じている。

 お姉ちゃんと恭介さんが守りたかったものは、私達が必ず守っていく。


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