夢幻なる絆

□番外編4
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凪、表札を作る。




「やっぱ殺風景だよね?」


門を見ながら、フッと思う。

シンプルででかい小松と言う表札が上に飾られているんだけれど、私から見ればお店見たくてなんだか馴染めない。
表札と言えば可愛らしい物と、私の中では相場が決まってる。
当然フルネームで小松帯刀・夕凪と書いてある奴。


「そうだ。なかったら作ればいいんだ。シロちゃんとシュウちゃんにも手伝ってもらおう」


突如閃いたグットアイデアに、私はルンルン気分で屋敷の中へと戻っていく。





「あまた失敗した。なんでうまくいかないんだよ!キー」
「凪、落ち着け。のこぎりで指を切ったらどうする?」
「そうです。痛いだけじゃすみませんよ」


表札作りのため板を斬ってる中なかなか思うようには行かず半ギレ仕掛かっていると、シロちゃんとシュウちゃんは顔を真っ青にしてブレーキをかけ私からのこぎりを取り上げる。

懸命な判断だ。
確かにこれ以上やったら手を切ると言うか指を無くす知れない。
でも諦めたくないな。


「凪、そこで一体何をしてる?」
「あ、西郷さん。いらっしゃい。可愛い表札を作るので、板を斬ってたんですが・・・」
「止めとけ。俺が切ってやる」


そこへ西郷さんがやって来て訳を話し失敗した板の残骸に視線を向けると、きっぱりと言われてしまうけれどそうも言われのこぎりを手にする。
西郷さんも優しい人だ。


「助かります。なら下書きするんで、よろしくお願いします」


断る理由もないから元気良く頼み、ボールペンで切ってほしい大きさに印を付ける。

初めっから誰かに頼めば、問題はなかった。


「任せろ。未来では表札は可愛いのか?」
「みんながみんなじゃないですけれど、結構多いいですよ。こんな風なの」


さっそく豪快だけれど丁寧に切ってくれる西郷さんに問われたから、私は残骸の一つにイメージを書いて見せる。

ハートと四つ葉のクローバーを縁に描いた可愛い表札。


「未来とは面白いんだな。良し出来た。次は何を切ればいいんだ?」
「もう切るのはないです。後は筆で書いたり貼ったりして、はげないよう仕上げにニスを塗るの」
「そうか。なら俺は行くな」
「うん。本当にありがとうございます。仕事頑張って下さいね」
「おう」


少なくても一時間以上掛かっても切れなかったのを、西郷さんは数分で終わらしてしまい本来の用事へと戻っていく。
それを心から感謝のお礼を言って、私も自分の部屋へ戻ることにした。





「夕凪、何を・・・」
「あっ帯刀さん、見て下さい。この可愛い・・・帯刀さん?」


表札がほぼ仕上がった頃仕事が一段落付いたのか帯刀さんがやって来たけど、途端に顔が引き攣り少し引き気味で様子がおかしくなる。
こう言う時は絶対に私が何かやらかし呆れるパターンが多い。


「・・・髭が生えてるよ」
「え、髭?あ〜本当だ」


ため息混じりで教えられ手鏡で顔を見れば、墨の立派な髭が生えている。
それに着物も墨で汚くなってるし、シロちゃん達もが全身墨だらけ。

足をスタンプがわりにしたから無理もない。
無我夢中で取り組んでいたから、気にもとまんなかった。


「まったく私の妻はどうしてこう面倒ばかり起こすの?洗ってあげるから風呂場に行くよ!」
「もう少し待って下さい。後もう少しで終わりだから」


いつものように呆れながらも私のことを考えてくれて言ってくれるけれど、私は薄情にもそう答え表札作りの続きを再開させる。

本当に後もう少しで完成する。
完成したら、帯刀さんと楽しいお風呂。
そうとなったら、頑張らないと。

「・・・しょうがないね。私も手伝うよ。まずは名前を掘り直すから、貸しなさい」
「はい、どうぞ」


と見かねた帯刀さんは私の隣に座り表札を請求するから、私はニコニコしながら惜しみなく渡す。

名前の文字がイマイチ気に食わなかったからちょうど良かったし、帯刀さんが手伝ってくれたらこの表札は夫婦の共同作業で出来た物。
なんかそう言うのって良いかも知れない。
帯刀さんが私が彫った上から丁寧に掘り直すと、みるみるうちに頼りなかった文字が立派になっていく。


「さがですね。帯刀さん」
「このぐらいのことどうってことないよ。それにしてもこの足形はなんだい?」
「シロちゃんと猫ちゃんとシュウちゃんです。なかなかいいでしょう?」
「なかなかね。今回は頑張った夕凪に免じて、そう言うことにしてあげる」


いつもなら訳を言えばヘソを曲げる帯刀さんなのに、今日はヘソを曲げることもなくそう言って頭をなぜられる
本当にそう言うことにしてくれるのかは不安だけれども、帯刀さんが言ってくれているだから取り敢えず今は信じよう。
あんまり訳を深く突っ込んだり逆らったりしたら、機嫌が悪くなってなかったことにされたら困る。


「約束ですよ。完成したら、表札に飾りましょうね」
「それは駄目。裏門になら良いけどね」
「え〜!!一生懸命作ったんですよ」


と思ったのも束の間で私の願望はあっけなく却下され、私は反射的に声を上げ頬をプクッと膨らませそう訴える。
そんなこと言ったらどうなるか分かっているのに、それでも言わずにいられない。

正門に飾らなきゃ、表札の意味がなくなる。
ここだけは譲るわけには・・・


「駄目って言ったら、駄目。あんまり聞き分けがないと、その口を黙らせるよ」
「え・・・?」


しかし帯刀さんの必殺技と言える突然のキスをされてしまい、私は口黙り折れるしかなかった。




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