夢幻なる絆

□リアルワールドへようこそ
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凪、帯刀さんと喧嘩をする。




「帯刀さん、まず何から乗りますか?」
「夕凪の好きなものでいいよ」


帯刀さんとぬいぐるみになっているシロちゃんと遊園地に訪れ、開園前から私はテーションマックスだった。

だって好きな人と遊園地に行くことを密かに憧れていたから。


「ならまずは人気が高いジェットコースターに乗りましょう。シロちゃんもそれでいい?」
「フム」
「シロは私が抱いてる。異論はないね?」
「ある。我を抱いていいのは、凪だけ」
「却下する。夕凪に抱かれていいのは私だけ」


いつものように帯刀さんとシロちゃんは言い合いになり、でもシロちゃんの言葉は聞き入れられずシロちゃんは帯刀さんに抱かれた。

なんかその姿はとってもラブリーで、意外にも似合っている。
この遊園地のマスコットであるぬいぐるみは連れて回るのが流行りであり、私達以外も多くの人達が持って来てるから恥ずかしくない。


「帯刀さん、そんなこと言わないで私にも抱かせて下さい。今のシロちゃんはあくまでも、ただのぬいぐるみなんですよ」
「うっ・・・」
「クッ・・夕凪は最高だね。今は落としてなくす危険性があるから、後で返すよ」


たまにはシロちゃんに加勢しようと思い言ったはずの台詞なのに、なぜかシロちゃんはガクンと肩を落とし帯刀さんは満足げに笑い快く了承してくれる。
正反対の反応を覚悟をしていたから、ちょっと拍子抜けしてしまい首を傾げてしまう。

だけどさすが帯刀さん。
良く分かってらっしゃる。


「お願いします。実は数回なくしかけたんですよね。だから今回は首からぶら下げようと思ってたんです」
「やっぱりね。でもなくすのも案外」
「なぬ?」
「わざとなくしたりしたら、離縁だって考えます。この子は私の大切な息子なんです」


冗談にも取れないことを言われ一瞬で頭に血が上った私は心にもないことを言って、ぬいぐるみを奪い返しギュッと抱きしめ歩く速度を速めた。
そんなこと言う帯刀さんが信じられない。

この子は一目惚れだった。
買った当初はよく一緒に寝てたけれど、汚れるから今は大切に置いている。
そんな大好きなぬいぐるみをわざとなくされたら、帯刀さんであってもきっと許さない。


「すまない。調子に乗りすぎた」
「知りません。そんな帯刀さんなんか嫌いです」


まさか私がここまで怒るとは思ってなかったらしくかなりのダメージを受けあっけなく自らの非を認め謝られたのに、怒り爆発の私は我に変えれず勢いあまって言ってはいけないことを言ってしまった。

それがすべての元凶・・・始まりだった。


「私もそんな素直じゃない夕凪は嫌いだよ」
「嫌いで結構です。シロちゃん行こう」
「いいのか?」
「うん、なんなら人の姿で私とデートする?」
「凪は人の姿をした我が苦手じゃないのか?」
「今日は良いの」


そんな私の態度に帯刀さんも怒り出してしまい余計私を意地にさせ、なんて自分勝手なことを言って関係のないシロちゃんまで巻き込む。

こうなると私は何をしでかすか分からない。
大切な人を平気で傷付けてしまい、私の元から離れていく。
我に戻った時は、いつももう手遅れ。


「夕凪がそう言う態度なら、私にも考えがある。謝るのなら今のうちだよ」
「あっかんべーだ」


最後の警告にも耳を貸さず、子供じみた態度を取り帯刀さんとさよならした。

私がどうして謝らないといけないわけ?





「凪、本当にこれでいいのか?」
「うん。だって悪いのは帯刀さんだもん」


人の姿のシロちゃんと次々とアトラクションを楽しんでる途中、ちょっと困った表情して問われるもまだむくれたままの私は躊躇いもなく自分の言い分を正当化させた。
このままだったら帯刀さんに嫌われてしまうのに、ここまで来た以上後には引けないし引きたくはない。
帯刀さんから謝ってくれれば、意地なんてもう張らずに許してあげる。


「そうだな。悪いのは小松帯刀だ」
「私はちゃんと謝ったはずなのに、夕凪が強情なのが悪いんだよ」
「げっ、小松帯刀?」
「・・・帯刀さん・・・」


私の味方をしてくれるシロちゃんの言葉に、どこからともなく現れた帯刀さんが冷たい口調で反論する。
視線を帯刀さんに向けると、隣には若い綺麗で品のある女性いた。

誰?
それに結婚指輪もしてない。


「帯刀さん、この人達は誰なんですか?」
「私の妹とその彼氏だよ」
「!!」


女性の素朴な問いに帯刀さんは平然とそう答えた瞬間、私は耳を疑いその場の状況を飲み込めないほどの衝撃を受けた。

私が帯刀さんの妹で、シロちゃんが私の彼氏?
・・・・・・。


「そうなんですか?」
「妹はわがままで困った子なんだよ。いい年してたかがぬいぐるみのことで、目茶苦茶怒るんだからね。実に大人げないしくだらない」
「帯刀さん言い過ぎですよ」
「帯刀さんなんて大嫌い!!」


バシン



私の悪口を言いまくる帯刀さんに、私は再び頭に血が上り大噴火。
拳で帯刀さんの頬を殴り捨て、シロちゃんの腕を持ちその場から立ち去る。
ショックよりムシャクシャして、帯刀さんなんか本気でどうでもよくなった。

大体私は帯刀さんより年上なんだから、妹よりもお姉ちゃん。
もう謝ってきても、許してあげない。




「凪、落ち着かないか?小松帯刀のことだから、きっと何か考えがあるに決まってるだろう」
「それでも私のことあそこまで、こけにしてけなしたんだよ。私にとってはこの子は掛け替えのない子なの。そもそもあの人はどこの誰?」
「分かったから、とにかく落ち着く。凪は本当に小松帯刀と離縁してもいいんだろうか?お互いにそろそろ素直にならなければ、取り返しの付かない結果になるぞ」


少し行った所で冷静なシロちゃんに真面目な話を切り出されでも私は怒りが収まらないまま否定していれば、厳しい当たり前のことを言われ私はフッと我に返り足を止めた。

取り返しの付かない結果?
それってもう帯刀さんが、私の傍にいなくなるってこと?


「・・・わ私は悪くないもん。逆ギレする帯刀さんが悪いんだもん」


しかしこの期に及んでそんな屁理屈を言って、シロちゃんを余計困らす。
謝っても許してくれなかったらと思うと、怖くて謝ることが出来ない。


「帯刀さん、私のこと本当に嫌いになっちゃったのかな?」
「凪は小松帯刀のことが、もう嫌いなのだろうか?」
「好きだよ。さっきは頭に来て、大嫌いって言っちゃったけれど」
「なら大丈夫。何も不安がることはない」


すっかり臆病になり考えられるのは不安なことばかりで独り言のようにつぶやけば、シロちゃんは私に呆れることなく助言をしてくれ優しく微笑む。
苦手だと思っていた人の姿をしたシロちゃんが、なんだか苦手じゃなくなったかも知れない。

シロちゃんは頼りになる神様。
だから嘘なんて言わな・・・帯刀さんの隣にはもう別の女性がいた。
それにあんなに外しちゃ駄目と言ったはずの結婚指輪を外していたから、それはつまり最悪の展開を向かっているのかも知れない。


「大丈夫じゃないよ。もう何もかも手遅れだよ」
「だったら我と付き逢うか?我ならけして凪を悲しませない。凪のすべてを受け入れる」
「・・・ごめん。いくらシロちゃんが優しくても、やっぱりシロちゃんには恋愛感情は持てない」


いつもながらの告白に思わず受け入れそうになったけれど、どうにか思い止まりいつものように首を横に強く振る。
例え離縁することになったとしても、私の好きな人は帯刀さんであることは変わらない。
ましてはすぐ別の人に乗り換えるなんて、要領が悪い私には無理な話である。

帯刀さんは、すぐに乗り換えたけれど・・・。


「凪。・・・やはり小松帯刀の元へ行って、素直に想いを告げよう。我も協力をする」
「・・・うん」


短い時間の中で何度となく言われた言葉に、私はようやく覚悟を決めでも怖いことは確かで力なく頷く。

今さら素直になっても遅いと思っても、やっぱり最後の最後まで諦めきれない。
もうこうなったら、なるようにならないから。




「?小松帯刀は一人のようだな?しかもなんだか凹んでいて、ボコボコだな」
「・・・うん。私が殴ったのは右頬だけなのに・・・」


ベンチに一人淋しく座っているらしくない帯刀さんに、私とシロちゃんは共に不思議に思い首をひねる。
こんな凹んでいる帯刀さんを観たことがないと言う以上に、私が殴った意外にも腫れていて少しだけアザになって傷も出来ていた。
むしろそっちの方がかなりの重傷?
とにかく早く冷やさないと、アザと傷が残ってしまう。
そう思った私は何も考えずハンカチを水に濡らして、急いで帯刀さんの隣に座りまずアザを冷やす。


「・・・ッツ。夕凪?」
「帯刀さん、どうしたんですか?」
「夕凪と私のことが大嫌いなんじゃないの?」
「あれは頭に血が上ったんで、つい言ってしまっただけです。本心ではありません」
「なら本心は今も私を愛してくれている?」
「はい、世界で一番愛しています」


私のことなど見ようともせずどこか気まずそうに話す帯刀さんに気にも止めず、今回は意地を張ることなく素直に想いを告げることが出来た。
素直になることは思っていたよりも案外簡単なことで、今まで強情になっていた自分が馬鹿みたいに思える。

こんなことなら最初っから素直になっていたら帯刀さんは・・・。


「ありがとう。私も夕凪のことを愛している。・・・さっきはすまなかった」
「・・・え、どう言うことですか?」
「私には夕凪しかいない」


返ってきた言葉は思わぬ言葉でそう言いながら、私をギュッと強く抱きしめてくれる。
さっきは外していた結婚指輪が、今はちゃんと左手の薬指にはめられていた。
それは言葉通りの意味であり、まだ間に合ったという何よりの証拠。


「良かった間に合って。私の方こそ子供みたい態度を取って、本当にごめんなさい」
「今回はお互い様だから、気にする必要はない・・・いッ」
「傷口が痛むんですね。本当にどうしちゃったんですか?」


あっと言う間に仲直りが出来てホッとしたのも束の間で、帯刀さんはいたそうに傷口を押さえ私は再びハンカチで冷やす。

帯刀さんがまさか喧嘩なんてするわけないと思うけれど、私見たくドジを踏んで地面とお友達になるなんてもっとありえない。
じゃぁ一体何?


「これは夕凪を試そうとして結婚指輪を外した罰」
「え?」
「実はあの女性は私達と同じように、相手と喧嘩していてね。だから見せしめのつもりで、お互いに協力してああ言うことにしたのだけれど、私だけ夕凪には殴れるし相手にはボコボコにされてしまった。さんざんだったよ」
「そうだったんですか。帯刀さん、膝枕しますから、少し横になって下さい」
「ああ、そうさせてもらうよ。・・・ありがとう」

気になってたあの女性の正体がどうってことないってことを聞かされ、不安がなくなり安心した私はようやく笑顔が戻りそう言い帯刀さんに膝枕する。
行くゆく人がたまにこちらを見るけれど、まったく気にならない。
帯刀さんと仲直りできた方のが、嬉しいから。

「良かったな。凪。では我は先に帰っておる。後は二人だけで楽しむがいい」
「シロにしたら気の利いた判断だね。さっさと帰りなさい」


邪魔せず弱冠忘れかけていたシロちゃんが身を引く台詞を言ったのにも関わらず、帯刀さんも相変わらず冷たく突っぱね足払う。
いくらなんでもシロちゃんが可哀想。


「帯刀さん、そんなこと言ったら駄目ですよ。今日は沢山シロちゃんに迷惑を掛けたんですからね。シロちゃん、今日はありがとう」
「そう言うことなら仕方がないね。ありがとうシロ」
「フム。では家で待ってる」


とシロちゃんは言って、我が家に一人で帰っていく。


本当に今日は、ありがとう。
シロちゃん。



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