夢幻なる絆

□その後
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日本大好きなアーネストの要望と私のお願いで、帯刀さん引率で浅草寺の節分祭に訪れた。

最近アーネストは意地を張るのを辞め日本好きであることを表に出すようになり、すっかり町の人達とも打ち解けらしく頻繁に遊びに来ているそうだ。
ただ何か行事がある度に付き合わされている帯刀さんはうんざりしているけれど、かと言って私も行事が大好きなので付き合ってくれている。
今日もずーと手を繋ぎ離してくれないから、せっかくの屋台はお預け。

「サトウくんも、そろそろ彼女でも作ったらどう?なんなら私が一人でも二人でも紹介してあげるよ?」
「それぐらい自分で探せるので、ご心配に及びません」
「そう?それならさっさと作りなさい。そろそろ夕凪を貸せなくなるからね。なんならこれからは龍馬をお供につけたらどう?」

今日も今日とて似たような言い合いが繰り広げられ、しかもここにはいない龍馬の名が上がる。

私の物なのかは帯刀さんにしてみれば自分の所有物だからもういいけれど、龍馬にとっては迷・・・案外歓迎されて名コンビになったりして。
今日だって絶対に来ていて、ひょっとしたら豆まきするかも・・・。

「あ、龍馬と喜市くん」

思った矢先人混みの中からお揃いの色違いの法被を着た龍馬と喜市くんを発見したので呼び止めると、二人は同時に振り向きこちらにやってくる。

「やっぱり凪達も来てたんだな」
「うん。所で龍馬と喜市くんは豆まきするの?」
「そうだぞ。おいらは今年年男だから」
「俺は手伝い」
「そうなんだ。二人ともがんばってね」

おおよそ予想通りの回答で張り切っているので応援する。
喜市くんが年男なのは初耳でちょっと得した気分で、やっぱ龍馬はお祭り男だね?

「凪もやるか?」
「私は年女じゃないからいいや」
「でもさ腹の中の赤子は年女が年男だろう?」
「確かに」

言われてそうだと思い帯刀さんの顔を見上げれば、 帯刀さんは何かを察したのかため息をつく。
私の考えなど相変わらずすべてお見通し。

「龍馬、三人分頼める?」
「三?あ、アーネストの分もか。お安いご用だ。ちょっと待ってろ?」

帯刀さんの意味不明な私より早く龍馬は真相に気づき、そう言って境内の方に走っていく。
アーネストを見ると少し嬉しそうな表情を浮かべているけれど、それと同時に困惑しているようにも見えとにかく複雑そう。

「あの私がやっても大丈夫なのですか?外人ですよ」
「大丈夫だって。この辺じゃアーネストさんは日本が大好きな外人だって有名だから。それに日頃から凪様は、身分も外人も鬼も悪人以外はみんな平等。だって言ってるからな」
「そうそう。それが私の座右の銘」
「そうだね。私もそうあって欲しいと願うばかりだよ」

外見だけで日頃から嫌な思いをしているから当たり前の不安を淋しげに呟くけば、喜市くんはあっけらかんとそれを全否定し嬉しいことを言ってくれる。
私の活動は少しずつ目を出し浸透してきているようで、寺子屋でもそれを座右の銘にしようと思う。
子供の頃から教えて実際に接し続ければ、未来は偏見のない優しい世の中になるはず。
さすがにすべてなくすのは難しいけれど。
それに私の願いは帯刀さんの願いでもあるから、今も嬉しそうな笑みをうかべている。

「チナミも喜市くんを見習いなさい。これからは国際交流が盛んになると、南方先生も言っているよ」
「わ分かっています」

いつの間にいたのかチナミちゃんとマコトがいて、マコトに言われ小さくなるチナミちゃん。
以前よりはだいぶマシにはなったものの、外人には抵抗があって身分にはうるさい所がまだある。
一方マコトは南方先生の影響もあってすっかり開国派になっていて、身分がない世の中が来ることを願うようになっているらしい。
チナミちゃんも近いうちに心から思えるようになって欲しい。

「二人も来たんだね?」
「はい。実は私年男なので、豆まきに参加するんです」
「オレはその勇姿を目に焼き付ける」

少し恥ずかしそうに話すマコトに、チナミちゃんは目を輝かせブラコンモードまっしぐら。
この二人は相変わらず仲良し兄弟だ。

「え、そうなんだ」
「そう言えば西郷も年男と言ってたね?」
「あ、そう言えば?なら西郷さんも来ているのかな?」

あっという間に二人目の年男が判明したと思えば、すっかり忘れていた西郷さんを思い出し辺りを見回す。
さすがにこの人混みじゃなかなか見つからない以上に、西郷さんが浅草には滅多に来ないからそもそも来てないかも知れない。
西郷さんがいれば世代別の年男が揃って縁起が良さそうだったのにな。




「はい、凪はこの法被な。これは年男女用だから」
「ありがとう」

龍馬の手配で豆まきが出来るようになりみんなと違う場所に行き準備を始めると、まずは喜市くんとマコトと同じ色の法被を渡される。
帯刀さんとアーネストは龍馬と同じ色の法被。
当たり前だけれど年男女の人と龍馬のようなお手伝いさんもいて、その人達は顔見知りが多い。


「やっぱりアーネストも来たんだね?節分の意味を知ってる?」

最近特にアーネストと仲良しの巫女さんがやって来て親切心で聞いてくるけれど、それはアーネストにとって余計なお世話で気に障ったに違いない。
きっと腹黒い・・・・。

「ええもちろんです。鬼に豆をぶつけることにより、邪気を追い払い、一年の無病息災を願うのですよね?」
「そうそうよく知ってるね。でも浅草寺には鬼がいないとされてるから『千秋万歳(せんしゅうばんぜい)福は内』と言いながら豆や餅や菓子なんかを蒔くの。まぁ凪様の言う通り私も鬼が悪いと決めつけるのはどうかと思うようになったけれどね」
「そうなんですか。勉強になります」

意外にもアーネストの表情は笑顔を絶やすことなく、黒い影をちらつかせる様子はないように見える。
しかもまんざらではない様子で、彼女の方は確実にアーネストに気がある。
あくまで私にはそう見えるんだけど・・・。

「帯刀さん、若いって良いですね?」
「そうだね。サトウくんにもようやく新しい一歩を歩み始めたようだ。今度はうまくいけばいいんだけど」
「ですよね?あの二人はお似合いだと思います」

とにかく嬉しくて帯刀さんに意味不明な問いをしてしまえば、帯刀さんも私と同じ解釈しているようですっかりお節介夫婦に成り代わっていた。
しかし帯刀さんの場合は重荷だと思っている役目を彼女に押しつけられるとでも思っているのだろう。
私としてはそう思うとちょっと残念だけれど、私とだけなら帯刀さんも文句は言わないはず。


「さぁ皆さん。もうすぐ始まるのでよろしくお願いします」

『よろしくお願いします』

神主さんがやってきてそう言い、私達は参拝者達が待っている本堂へ案内される。





『千秋万歳(せんしゅうばんぜい)福は内』

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