夢幻なる絆

□その後
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凪、宮ちゃんと遊びに行く。

江戸の町並みを自分の足で歩き見てみたい。

そんな宮ちゃんの望みを叶えるべく、四神達の協力のもと決行した。
しかし今日は私の検診日でもあり、あっけなく南方先生に見つかってしまった。
あまりのことに言葉を失い、しばらく硬直したまま動かない。
真面目すぎる南方先生には刺激が強すぎたようだ。

・・・当たり前か。

「凪さん、このことは帯刀さんは知ってるんですよね?」
「いいえ、全く知りません」
「私は家茂公にだけは話しています」
「え、そうなの?なら私も話しとけば・・・死ぬほど怒られるよね」

ようやく南方先生が口を開き質問するけれど私の答えに青ざめ、私は宮ちゃんの答えに驚く。
将軍様はこのことを知っているのに、許可をくれた。
それは宮ちゃんを信用しているのか、私と四神を信頼しているのか、あるいは両方なのか?
どっちにしろ帯刀さんとは違う。

「まぁ将軍が知っているんであればいいんですが、本当に二人だけで大丈夫なんでしょうか?」
「その点はクロちゃんとアオちゃんの護衛があるから平気です」
「そうですか。くれぐれも気を付けて下さいよ」
「わかってます」

少しだけ安堵する南方先生にこれ以上刺激を与えないように、詳しくは言わず胸を張って答えた。
そして検診が終わった私は南方先生と別れ、宮ちゃんと私は港町まで行くことにした。
そこにしたのは私なりに理由があってのことで、それは・・・。





「ここは異人がいますね。こんなにたくさんの人初めてみました。それにここは港町なのですね」
「そうです。この辺は異人との交流が頻繁なんです。ですから珍しい物がたくさん売っています。まずはお茶にしましょうか?」
「はい」

外人との交流が少ないと思われる宮ちゃんは物珍しげに辺りを見回し問い、私はわかりやすく教えて提案すると嬉しそうに頷く。
将軍の正妻に異人文化に触れさせたら特に新撰組に殺されると思うけれど、宮ちゃんには異人だって私達と同じ人間だってわかってもらいたい。

「おや、これは凪さん。あなたは本当に神出鬼没ですね?」
「あ、アーネスト。今暇?」
「えまぁ、予定は特にないですが」

そこへアーネストに呼び止められ、私はあることを閃いた。
運が良く暇らしい。

「凪ちゃん、お知り合いですか?」

アーネストに驚いた宮ちゃんは、私の後ろにサッと隠れ小声で問う。
初対面の異人に警戒するのは無理もない。
でもアーネストは皮肉屋だけど良い奴なので、話してみれば少なくても知人ぐらいにはなれるだろう。

「はい。私の友人で外交官のアーネストサトウ。アーネスト、私の友人の宮ちゃん」
「初めまして宮さん」
「初めまして。佐藤って日本に関係があるのでしょうか?」

二人の紹介を簡単に終えると、やっぱり聞かれると思った禁句を聞かれてしまう。
アーネストがムッとして、毒舌を言いそうになる。

堪えて下さい。
相手は、お妃様です。

「英国にもサトウさんと言う名字はあるんです」
「そうなのですね。なんか親しみやすいですね」
「そう言ってもらえると、光栄です」

絶対迷惑だと思ってるだろう? と突っ込みたくなるような口調に、私はもう冷や汗かきまくりで宮ちゃんの様子を伺う。
幸いなことに宮ちゃんは、ニコニコしたままだった。
きづいていない。

「アーネスト、宮ちゃんは言えないけど私より身分が高い人妻なんだから猫がぶっててよ」
「凪さんはそんなに身分が高い方なのでしょうか?」
「え、一応薩摩家老の正妻なんだけど」
「あ、そうでしたね。忘れてました」

宮ちゃんの正体を教えるわけにもいかず小声でやんわりとそれだけ言えば、しらを切られて挙げ句の果てには馬鹿にされた。
今度は私がムッとして、アーネストの足を思いっきり踏む。
宮ちゃんに失礼なことをしたら、大英国に迷惑がかかるのに。

「凪ちゃん、どうかしましたか?」
「別に。ただアーネストが素敵なティータイムに招待してくれるって」
「なっ?」
「何?」
「いいえ、何でもありません」
「?凪ちゃんと佐藤さんは仲が宜しいのですね」

無言の睨みでそう言う話に無理矢理決まらせ、宮ちゃんは気づくことなくそう言って微笑む。
アーネストが完全に佐藤さんになっているかも知れないけれど、この際もうなんでも良いか。





「さぁ、宮さん。これが私の母国のお茶とお菓子です」
「甘い良い香りですね。これが前に凪ちゃんが言っていた紅茶とすこーんと言うものなのでしょうか?」
「はい、そうです。スコーンはこうやって二つにわって、これを好きなだけ塗って食べるんです」

アーネストの案内されたとある家の一室で私ご要望のアフタヌーンを用意してもらい、宮ちゃんに正しい食べ方を指導する。
何もかもが初めての宮ちゃんは目を輝かせ熱心に聞き、私の真似をしてお上品に一口かじる。
その瞬間幸せ一杯の笑顔を浮かべ、明後日を見つめた。
聞かなくてもすべてを物語っていて、私の計画は大成功。

「お菓子も紅茶もすごく美味しいです。気に入りました」
「お気に召したなら何よりです。さすが凪ちゃんのご友人ですね。異人に対しても偏見はないのですね」
「だってあなたは凪ちゃんのご友人なんでしょう?だからあなたはいい人だと思います」

アーネストには奇妙だったのか驚いたように宮ちゃんに問えば、キョトンとして首をかしげ当然とばかりに答える。
警戒心はまったくない様子だった。
それは私のことを信頼しているから言えることで、そう言ってくれるのは嬉しい。

「ありがとうございます。類は友を呼ぶとは本当のことですね」

これにはアーネストも嬉しかったようで、滅多に見せない年相応の笑みを浮かべた。
これで少しは日本人を好きになってくれれば良いんだけれど、アーネストのことだからそれは難しいんだろうな。
素直じゃない奴は、骨がおれるよ。

「宮ちゃん、今度遊びに行く時は、スコーンを焼いて行きますね?」
「本当ですか?嬉しいです」

本当はそんなアーネストをからかいたかったけど泣きを見るので、宮ちゃんとの楽しい会話で一時を過ごす。

しかしこんな優雅なティータイムはそんなに長くは続かなく、悲劇は突然訪れる。




「夕凪〜!!」

世にも恐ろしい声が私の名を呼んだ瞬間、悪寒が走り血の気がサッと引く。

なぜあなたがここに来て、すでに怒っている?

扉が乱暴に開かれ真っ赤に顔を染めたその人は、私めがけ突進してきてまずゲンゴが堕ちる。

ガチン

「夕凪、君は大馬鹿なの?宮様を護衛を付けずに連れ出すなど前代未聞。処刑されても仕方がないことだよ」
「小松殿、落ち着いて下さい。私が凪ちゃんに頼んだのです。それに護衛なら四神達がいます」
「そうですよ。私だって少しぐらいは、考えて行動してます」

特大な雷も落とされあまりの痛さにうずくまり頭上を押さえる私の前出て、宮ちゃんはしっかりした口調で庇ってくれた。
だから私も情けないながらも、小声で反論する。
二神がいるから、何があっても大丈夫。

「四神は誰を護衛役にしてるのですか?」
「え?クロとアオですが?」
「残念ですが、彼らは使えませんよ。夕凪だけしか頭にないのですから」
「それの何が悪い?」

しかし納得してない帯刀さんは、溜め息を付き二神を馬鹿にする。
これには気分を悪くしたクロちゃんとアオちゃんは実体化し帯刀さんを睨み付けるが、

「なら聞くけれど、あなた達は夕凪より宮様を優先できますか?」
「愚問。我の優先第一位は凪だ」
「私も凪が一番」
「やっぱり使えないね。それで宮様は誰が護るの?」
『・・・・・・』

あんなに威勢が良くきっぱりと断言する二神に、再度同じ問いを投げ掛ければ黙り札に戻ってしまった。

二神揃って逃げたか。
私も帯刀さんの言っている意味が分かり、脂汗をかき何も言えない。
神選を間違えたと言うか、最初に決めとけばよかった。

「ですから、もう帰りましょ?護衛に西郷を用意しましたから」
「帯刀さんが護衛をするんじゃないんですか?」
「私も四神と同じで夕凪を優先してしまうから、護衛などできないよ」
「え、あありがとうございます」

思わぬ名前に驚き聞いてみればいかにもらしい答えに、私の頬は赤く染まりお礼だけ言い言葉をなくす。

嬉しいけれど、恥ずかしい。
あんなに怒っていたのに、当然とばかりに言うなんて不意打ちだ。
そんな私を宮ちゃんは微笑ましそうに見てていて、アーネストはなぜか唖然としていた。
珍しい反応。

「分かりました。今日は凪ちゃんと佐藤さんのおかげで十分楽しめました」
「素直で良いですね。それではサトウくん、私達はこれで失礼するよ」
「あの〜、宮さんは一体何者なのでしょうか?」

随分諦めの良い宮ちゃんは無理している様子もなくこれで終わりだと思っていたら、アーネストがようやく口を開きそう尋ねる。
ここで私にもアーネストが静かだったことに気づく。

・・・宮ちゃんの正体に感づいた?

「ここだけの話だけれど、将軍の奥方和宮様だよ」
「・・・・。聞かなかったことにします。・・・宮さん、さようなら」
「はい、さようなら」

正体を知った瞬間アーネストはなかったことにして、今度こそ宮ちゃんのお忍びは終了した。

江戸城へと帰り際に、宮ちゃんは私に楽しそうにこう言った。

「今日は本当にありがとうございました。小松殿には悪いのですが、またこうやって江戸のことを見て回りたいです」

って。



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