夢幻なる絆

□その後
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「いきなりですが、私、四神達と寺子屋を開校したいです。やっても良いですか?」
「寺子屋?夕凪が?」

少し前から密かに四神達と計画を練っていたことを帯刀さんに打ち明けると、帯刀さんは手を止め目を丸くして私を見つめ問う。

世界の危機はなくなり新たに私も何か役に立ちたいと考えた末、未来ある子供達に最低限の教育なら教えられるんじゃないかと思った。
四神達と咲ちゃんも手伝ってくれる事になっている。

「はい。これからの世の中は身分制度も廃止され、能力のある人が上に立っていきます。だから私はその基礎を身に付けてあげられたら良いと考えてます」
「分かった。お腹の子を第一優先にすれば、やっても良いよ。私もたまには手伝うよ」
「本当ですか?ありがとうございます」

意外にもあっさり許可が降り拍子抜けになりそうだけれど、理由があって筋が通っていれば反対はされたことがない。
ただ私がいつも行き当たりばったりの出たとこ勝負だから、全力で反対されていただけ。

「それで誰が何を教えるの?」
「基本的には私が教えて四神達が手伝ってくれますが、シュウちゃんがお習字でクロちゃんが英語を教えると張り切ってます。 」
「シュウのお習字は異論がないけれど、クロが英語ね?確かに今後英語は大切になるとは思うけれど、クロがちゃんと教えられるとは思えない」

クロちゃんに思いっきり信用にないからこそ帯刀さんは不安たっぷりにそう言いい溜め息を付く。

確かに私もクロちゃんが英語を教えると言った時はどうなのかなと思ったんだけれど、何事も挑戦するべしなので任せることにした。
それに私に止める権利はない。
だからこれはスルーしよう。

「それで使ってない部屋を使っていいですか?」
「ああ、構わない。他には何を手配すればいい?」
「なるべく自分達でなんとか」
「駄目。・・・机と本棚と棚は手配する。夕凪は、けして無理をしない張り切らない。二ヶ月後はお産なんだよ?分かってる?」

力ある言葉で警告されてしまい、当たり前の事を敢えて問われる。
どうやら日曜大工は危険だから駄目らしい。
元々口にだすだけで四神達に任せる予定だったんだけれど、せっかくそう言ってくれてるんだからここは甘えちゃおう。

「もちろんです!では帯刀さんがいいと思った子供が使いやすい物をお願いします」
「任せなさい。すぐに用意させる」

子供が使う物なので丈夫であればいいからそれを強調したのに、やたら張り切る帯刀さんを見ると高級品になるのだろう。
お腹の子の物は言うまでもなくすべて一品物を揃えて、すでに準備万端だったりする。





「小松様らしいですね?」
「そうだね。でもそのお陰で後は生徒をスカウトするだけ」

咲ちゃんと買い物中昨日の帯刀さんとのやり取りを話すと、いつも通り微笑みながらの回答が返ってくる。
私達を知る人は、やっぱりそう言う。

「その候補は喜市くんとお菊ちゃんなのですね?」
「そう。喜市くんは以前から興味があったらしく、周囲の人達には教わってるみたいだよ。喜市くんが大人になった頃はきっと今よりも選択肢が増えてると思うんだ。お菊ちゃんの夢はお医者さんらしいからね」
「そうなのですか?それは応援しなくてはなりませんね」
「それが大人の務めだからね」

咲ちゃんも私と同じで子供の未来は無限大だと思っているようで、私の身近には身分をかがげてうるさく言う人はいない。

強いて言えばチナミちゃんだろうか?
マコトのおかげで大分柔らかくなっては来ているようだけれど。

「あ、凪お姉ちゃんと咲お姉ちゃんだ」
「本当だ。こんにちは」

そこへグッドタイミングでお菊ちゃんと喜市くんが私達の元に近づいてくる。

「二人とも、こんにちは」
「こんにちは。今日は喜市兄ちゃんが休みだから、浅草に連れてきて貰ったの。凪お姉ちゃんちに後で行こうとしてたんだよ」
「そうなんだ。私もお菊ちゃんちに行こうとしてたから、すれ違わなくって良かったね」

私に抱きつきお菊ちゃんは嬉しそうに言ってくれるので、私も嬉しくて抱きしめ答えを返す。
私達は相思相愛。

「遊びに?」
「ううん。私今度寺子屋をやるなら、生徒にならない?喜市くんもどうかな?」
「凪お姉ちゃんが先生?あたい、生徒になりたい」

遊びに行くかのなノリで誘えばお菊ちゃんは笑顔で二つ返事をしてくれるけれど、なぜか喜市くんは悲しそうな表情を浮かべてしまう。

私は何かおかしな事を言ってしまっただろうか?
それとも私が先生だと不満?

「菊、駄目だ。おいら達にそんなお金ないだろう?」
「そんなのいらないよ。寺子屋は私の趣味みたいなものだからね?」

子供ながら自分のおかれている立場が分かっている親思いの優しい二人だから、余計に学問を教えて立派な大人になって欲しい。
最初っから月謝をもらうことなんて考えていなかった。
月謝なんてもらったら完璧を求められるから、素人の私には無理なんだろう。
すると喜市くんの表情はパッと晴れる。
私に不満じゃなくって良かった。

「流石凪様だな。だったら母ちゃんに相談してみる」
「あたいも。でも母ちゃんなら絶対に良いって言ってくれるよ」
「良かったですね?二人共」
『うん!!』

本当に嬉しそうな笑顔を浮かべるから、私も咲ちゃんと顔を見合わせ笑い合う。

月謝は子供達の満天の笑顔で良いかもね?


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