夢幻なる絆

□その後 熊野編
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「梓、少し夜の散歩に行かないか?」
「そうだね?今夜の月は一段ときれいだから」

ヒノエの誕生日会が無事に終わり後片付けも終え寝室に戻るなり、誘いを受け断る理由もないため二つ返事でうなずく。

「オレにはお前の方が綺麗だと思うけどね?」
「ありがとう」

相変わらずの受け答えに私は笑ってお礼を言うと、ヒノエは私の手を取り甲にキスをする。
ヒノエと出会ってもう二十年以上経っているのに、私達の関係は昔と何一つ変わらない。
それに長年捜索を続け心配していてた渓とマリアが帰還したことで、最大の悩みごとがなくなり最近は穏やかな日常が続くようになった。

二人ともちゃっかり相手を見つけてきて私の家族はまた増えて嬉しいことなのに、ヒノエはマリアのフィアンセである崇には複雑な思いを抱いてるらしい。
渓のフィアンセの都の事は気に入っているのにね。
父親と言うものは彼氏を毛嫌いするらしく、知美の時も最初はそうだった。
私は娘が好きになった人で嫌な奴じゃなければ祝福できるのに、男親の気持ちと言うものは複雑でよく分からない。

もし私に父親がいたら反対されていたんだろうか?
だけどそれでも私はヒノエと一緒になることを選んでいた。




私達は近くの浜辺にやって来て、肩を並べて腰を下ろす。

夜空は満点な星空に綺麗な月。
海は月の光が反射しキラキラ輝いていて、聞こえる音と言えば波音だけ。

「あのさ梓、オレもう少ししたら湛渓に棟梁の座を譲ろうと思う。そしたらオレと一緒に世界を回らないか?」
「いきなりどうしたの?」

熊野第一のヒノエの口から予想外な台詞を聞き、驚きを隠せずヒノエをまじまじと見つめてしまう。
真剣な未来を見ている迷いもない瞳が真剣に考えた結論だと物語っている。
そんな姿を見ていると心臓が高鳴り体温も上昇していく。

愛しい。

「梓、そんな表情でオレを見たら襲いたくなるだろう?」
「いいよ」
「いいよって……いくらなんでもここはダメだろう?本当にお前は昔からそう言う所は何一つ変わってないよな?無垢で馬鹿正直でそれでもって色っぽい」

ヒノエも私と同じ気持ちになってくれてここには誰もいないからそうなっても良いと思ったのに、ヒノエは困った表情になり私を抱き寄せ耳元で囁き噛む。

ヒノエの方こそ何も変わらずずーと私の傍で守ってくれるし支えてもくれる。
今の私があるのはすべてヒノエのおかげ。

「でも年老いたよ」

年を取ると女性の魅力は失っていくと聞いた事があって、朔も若い頃はお肌にはりがあって体も軽かったとよく言う。
私も最近は胸が垂れてきたり、激しい運動は前よりバテる時間が早くなってきている。
ヒノエが言う色っぽさもなくなっているも思う。

「それはお互い様だろう?それともお前は年を取ったオレは嫌いか?」
「ううん、それはない」

それだけは絶対ないから、懸命に首を横に降る。
私がヒノエを嫌いになるはずがない。

「そう言うことだ。それより話を元に戻して良いか?」
「そうだった。熊野はどうするの?」
「湛渓と愼に任せておけば、何一つ心配はないからね。オレは引退して熊野の今後のために世界を見て起きたい」
「なんだ。熊野のためか。うん。一緒に行く」

ヒノエらしい真実にホッとして、それなら私も協力しようと思う。
私も熊野が大好きだからもっと良くして行きたいし、それに一緒にってことは今よりももっとヒノエとの時間が増える。
そう考えるとワクワクして楽しみだ。

「お前もすっかり熊野の虜だな?」
「私だって熊野にもう二十年以上住んでいるし、ヒノエの奥さんなんだから熊野を大切にするのは当たり前だよ」
「ありがとう。オレ達人生の半分以上助け合いながら生きてきたんだもんな。もう二十四年も経つのか」
「いろいろあったよね?私ヒノエと出会えて本当に幸せ。だからヒノエが産まれてきた今日は私にとって特別な日なんだ」

そんな私をヒノエは自分の事のように喜んでくれ改めて今までの事を振り返るから、私も振り返り思いを笑顔でもう一度告げる。
今日はヒノエの誕生日だから初心に戻りこれからの事を考えるのも良いかと思う。

ヒノエと出会えたことで私は恋と言うものを知り、たくさんの大切な事を学んだ。
楽しいことばかりじゃなく辛いこともあったけれど、ヒノエと子供達が傍にいてくれたから何があっても乗り越えられた。
ヒノエが渓とマリアを探し出してきてくれて、諦めかけていた再会が叶った。
これからは家族……子供達はそれぞれ大切な人を見つけたから私達がいなくてももう大丈夫。
だから私はもう一度ヒノエを一番に考えて、二人手を取り生きていこうと思う。
それに家族はどこにいたって心と心で繋がってるから。

「梓、オレ達やっと新婚に戻れるな。これからもずーとオレの傍にいてくれよ」
「うん。ヒノエとならどこにだっていけるよ。危ない時は私がヒノエを護るからね」
「それは旦那の役目だと思うけど、まぁその方が梓らしいか。そんな梓に惚れ続けてるのはオレなんだからな」

久しぶりにその言葉を聞いて同じ思いだから頷き胸を張ってそう言うと、ヒノエは拍子抜けしたのか肩を落としため息をつくがすぐに納得してくれる。

そう私はただ守られるだけの女性じゃないのは、百も承知なはずなのに今更何を言ってるんだろう。
変なヒノエ。



「ヒノエ、愛してる。産まれてきてくれて私を見つけてくれてありがとう」

 そして毎年言う心から感謝を言って、私からヒノエの唇にそっと触れ強く抱きしめた。

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