夢幻なる絆

□その後 熊野編
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私が熊野に戻り数ヵ月が経ったある日の事。

近くに住んでいるお姉ちゃんが我が家にやって来て、お母さんと朔さんと一緒に広間で何かを始めていた。
お姉ちゃんはお兄ちゃんの二児の妹で、旦那さんと二人の子供がいる。
お兄ちゃんと同じでなんでも出来て厳しいけれど、私にはとっても甘くて良くしてくれる頼りになる人。
お母さんは私達家族の事を愛していて、料理が上手な人。
お母さんと私は良く似てるらしい。
朔さんはお母さんの親友で、梅さんみたいに家のことをやってくれている。
でも怒るとすごく怖い。

「何をしてるの?」

気になって三人の元に行き覗いてみると何か飾りを作っていた。

「あ、マリア。何って明日は父さんの誕生日だから、用意してるんだよ」
「明日はお父さんの誕生日なの?」
「そうだよ。毎年あの桜の下でお祝いするの」

すぐに理由を教えてくれたけれど、それは知らなきゃいけないことだった。

誕生日は特別な日で家族とお祝いするもの。
お祝いにはプレゼントが必要不可欠なのに、知らなかったから何も用意していない。

「私お父さんのプレゼント用意してない」
「だったら明日は夕方までヒノエとデートしてくれる?」
「デート?お母さんはしなくていいの?」
「私は夜」
「梓、何娘の前で言おうとしてるの?」
「そうですよ。まだマリアには早いです。崇とそうなったらどうす・・・まぁそれはそれでもいいのか」
「良い分けないでしょ?知美まで何を言ってるの?」

プレゼントの話をしていてそれはお母さんの役目だから確認しただけなのに、何かを答えようとしたお母さんの口を朔さんが塞ぎ開き直るお姉ちゃんにも怒り出す。

私にはまだ早い?
崇とそうなったらどうする?
私と崇は婚約しているのに、それでもダメなこと?

「それって夫婦の遊び?お父さんとお母さんもしてるの?」
「そうだよ」
「マリア、そんなこと聞いたらダメよ。梓もそんなこと娘に教えない。本当に似た者親子なんだから」

予想通りの結果なのに、私まで朔に怒られため息まで付く。
これは家族でも聞いたらいけないことだったらしい。

「所でマリアはその意味なんだか知ってるの?」
「知らないけど、凪は悲鳴に似た声を出してたよ」
『・・・・・』
「?」

お姉ちゃんの問いに正直に答えたのに、そこで会話が途切れおかしな空気が漂うだけ。
それが分からないながらも、追求してはいけない気がした。

だけど交尾をして何がそんなに楽しいんだろうか?
子孫を残したい?
確かに凪と帯刀は子供が出来た時すごく喜んでいたけれど、お父さんと母さんはもう私達がいるから子孫を作る必要がない。

「とにかくマリアはヒノエ殿とデートの約束をして来なさい」
「うん、分かった」

これ以上怒られるのはイヤなので疑問は疑問のままにして、朔さんの言うことを聞きお父さんがいると思う部屋に行く。
疑問は後でお兄ちゃんかお父さんに聞こう。






「あ、マリアちゃん。ヒノエさんに用事?それとも渓兄か慎兄?」
「崇。お父さんにデートの約束をしに来たの」

部屋に行くとお疲れ気味の崇が出て来て、私の顔を見るなりパッと明るくなった。
そんな祟を見ていると、私の顔まで笑顔になる。
崇は熊野の男になるためにお父さん達にみっちりしごかれていて、認められれば私との結婚が許されるらしい。

「ヒノエさんとデートって・・・どうして?」
「明日はお父さんの誕生日でプレゼント変わり?」
「なんだそう言うことか。ヒノエさんにとって何よりのプレゼントだね?ボクは何しようかな?」
「崇もあげるの?」
「そりゃぁ将来のお父さんなんだから当然だよ」

崇もお父さんの誕生日を知らなくて言った瞬間いい顔をされなかったけれど、事情を話したらすぐに納得しプレゼントのことを悩みだす。
崇にとってもお父さんは家族と言ってくれたことが、なんだかとても嬉しい。
私の家族は崇の家族でもある。

「崇も明日お父さんとデートする?」
「マリアちゃん。それキモいから。デートは家族であっても、男女二人でするものなの」
「そうなんだ。教えてくれてありがとう。じゃぁ、お父さん誘ってくるね」
「うん」

崇も一緒に三人でデートが出来たら楽しいだろうと思って誘ったら、嫌がられて知らなかったことを教えてもらう。
私はまたひとつ賢くなる。




「お父さん、明日、私とデートしよう」
「もちろんだ。湛渓、慎増、明日の事は任せた」
「了解です。予想通りの結果です」
「ですね?マリア、僕の誕生日には、僕ともデートしてくれますか?」
「うん、いいよ」

部屋に入るなり私がそう言うとすぐにお父さんは嬉しそうに頷いてくれたけれど、お兄ちゃんは呆れたらしくため息を付き肩も落とす。
慎お兄ちゃんはお父さんとのデートが羨ましいのか、そんな先の約束をして私もイヤじゃないから承諾する。






「さぁオレの可愛いお姫様、お手をどうぞ。今日はどうやってオレを楽しませてくれるのかな?」
「お父さんはどこか行きたいとこある?」
「だったら良いとこに連れてってやるよ」

私はお父さんの馬に乗せられ行き先を聞かれるけれど、逆に聞き返すとそう答えられて馬を走らせる。
今日はお父さんの誕生日だから、お父さんの好きなことばかり行こうと思う。
お父さんが楽しんでくれるデートにしたい。

「どこに行くの?」
「お父さんとお母さんの想い出の場所。後は着いてからのお楽しみ」

と楽しそうに言われたから、私は何も言わずに頷いて見せた。









「わぁ〜、きれい」

お父さんに連れてきてもらったのは、海が見える見晴らしのいい崖だった。
今日は晴天で暖かいから気持ちいい。

「お気に召したら何よりだ。ここは母さんと大切な約束をした場所なんだ」
「大切な約束?」
「あの頃の母さんは上司の命令がすべてだと思ってた。そんな上司にオレを殺せと命令され、すごく悩んでた。オレに捨てられるんじゃないか怯えていた。だからオレは母さんに言ったんだよ。オレがもしお前を捨てなかったら、熊野で一緒に暮らそうって。所謂プロポーズだな」

と、お父さんは私が知らない二人の過去を教えてくれた。
お母さんも昔組織にいて殺し屋をしていたことと、私と同じ感情が欠けていたことは知っている。
お父さんとお母さんの相棒だったヌクと言う犬が、少しずつお母さんの感情を蘇らせたらしい。
私もお兄ちゃんと崇とコロのおかげで、色々なことが分かって表情も作れるようになった。
だからお母さんと私は似ているんだね。

「お父さんはお母さんの事今でも愛してる?」
「当たり前だろう?オレは母さんだけじゃなくってお前達も愛してるよ。それから孫達もな」
「お父さんは欲張りだね」
「ああ、熊野の男は欲張りだからな」

思っていた以上に沢山あったのでついそう言ったけれど、考えたら少しだけ分かるような気がした。
親は子供を愛していると言うから、複数いればそうなるんだと思う。
私はお父さんとお母さんに愛されている。
ここには私を利用しようとする嫌な大人達はいない。

「お父さん、私とお兄ちゃんを迎えに来てくれてありがとう。私、ここに来られて良かった」

そう思ったらお父さんに感謝したくなり、精一杯のお礼を言う。
最初は崇を苛めるならいらないなんて言ってしまったけれど、お父さんはお兄ちゃんのようにいつだって私の味方になってくれた。
私を守って支えてくれている。
今では私もお父さんのことが大好き。

「来られてじゃなくって、帰って来られてだろう?ここはマリアの生まれた場所なんだからな」
「そうか。だったらここは私の故郷なんだね」
「ああ。マリアは熊野が好きか?」
「うん、大好き」
「そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとうマリア」

私の何気ない答えにお父さんは満足したらしく、私に視線を合わせ頭を優しくなぜてくれる。
私もそんなお父さんが見られて満足だ。

「お父さん、お誕生日おめでとう。これからも私のことを宜しくね」
「もちろんだよ。マリアが結婚するその日までは、オレが守ってやるからな」
「ねぇ、私は祟といつ結婚できるの?」
「しばらくは、絶対に許さん」

せっかくいいムードだったのに、突然お父さんは殺気を漂わせて怖くなる。



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