夢幻なる絆

□その後 熊野編
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私達が熊野に戻りようやく暮らしがなれた頃、私はあることを思い出し都の部屋に確認しに行く。
お兄ちゃんのことだから教えてると思うけれど、知らなかったらきっと大変だ。

「ねぇ都、お兄ちゃんの誕生日って知ってる?」
「は、いきなりなんだ?渓さんの誕生日?そう言えば聞いたことないな」

都を見つけ単刀直入に聞くと知らなかったようで、不思議そうに首をかしげる。
しかしどこか他人事のようで興味がなさそう。

「興味ない?」
「……あるに決まってるだろう?それで?」

頬を赤く染まらせそっけなく回答を求めてくる。

これがツンデレ。

「2月14日」
「はぁ、バレンタイン生まれかよ?しかも明後日」
「そうだよ」

滅茶苦茶驚かれ、慌て始める都。

ツンデレは崇の言うとおり面倒臭いと思うものの、お兄ちゃんの言うとおりそんな都は可愛らしい。

「マリア、頼むからそう言う大切なことは早く教えてくれよ」
「うん、分かった。どのくらい?」
「そうだな。用意もあるから、一週間ぐらい前な」
「これからはそうする。何か手伝う?」

都のお願いに理由が分かり悪いと思ったから、お詫びに手伝うことにした。

私も崇の誕生日プレゼントは一週間以上掛かっているのに、なんで私はいつも気が利かないんだろうか?
だけど今回は都に誕生日を教えないお兄ちゃんにも責任がある。
崇はすぐに教えてくれた。

「サンキュー。ならこれから市場に行かないか?今日は大きな市が出るらしい」
「うん。あ、でも私まだ馬に乗れない」
「だったら私が乗せてやるよ」
「都はもう馬に乗れるんだ。崇ももう乗れてるのに、私だけ……」

何気なく優しく言ってくれた都には悪いけれど、私だけ取り残されたようで悲しくなってしまう。
最初の練習の時馬と息が合わなくて落馬しそうになり、それ以来練習をさせてくれない。
私と相性の良い馬を探してくるから、それまで気長に待ってろと言われた。

なんで私は馬と相性がよくないんだろう?
嫌われてる?

「大丈夫だって。馬さえ来ればすぐ乗れるようになるからな?」
「そうだといいな」

事情をよく知る都に励まされそう思うことにし、市に行く支度をするため一旦部屋に戻ることに。

バレンタインだから崇には何かお菓子を作るつもりだったけれど、何か良いものがあったらそれにしよう。
お母さんと平泉にいるお母さんと朔さんの親友が広めたと言う熊野のバレンタインとホワイトデーは、
バレンタインでは好きな男性に女性が贈り物をし、ホワイトデーに男性は好きな女性にお返しをする。
義理を贈るときりがないのと誤解があったらしく、それは廃止になったそうだ。
だから好きな人と家族だけ。

都はお兄ちゃんに贈るんだろうか?





「ねぇ都はお兄ちゃんが好き?」
「は?」
「お兄ちゃんに好きって言ったことある?」
「うっ……ないかも……」
「なんで言わないの?お兄ちゃん可愛そう」

市を回りながら私なりのタイミングを見計らい聞いてみると、都はまた驚き顔を真っ赤に染め小声で答えてくれる。
でもそれは私だったら悲しい事で、気持ちも重くなってしまう。

お兄ちゃんと都は付き合っているんだから、……そう言えば手を繋いでいるとこも見たことがない。

「なんでお前がそんな顔するんだよ?ブラコンの癖に兄貴が取られても良いのか?」
「取られる?お兄ちゃんはずーと私のお兄ちゃんで、結婚は好きな人と結婚するんでしょ?」
「そりゃそうだが……」

なんでそんなことを聞かれるのか分からなくって、以前お兄ちゃんが教えてくれたことを教えるとそれは分かってるらしい。
さらに真っ赤に染まり湯気も立つ。

「アハハ、マリアは本当に母親にそっくりだな」
「あ、おじいちゃんと弁慶おじさんだ。こんにちは」

豪快に笑われなんだろうと思い振り向くと、おじいちゃんと弁慶おじさんのがいた。
弁慶おじさんはおじいちゃんの弟で、正確には弁慶おじいちゃんだと思う。
言ったら笑顔で怒られた。

「マリアさん、都さんこんにちは。二人で買い物と言うことは、・・・バレンタインの贈り物探しですか?」
「うん、そうだよ」
「そうかそうか。だったら偽物を買わされないよう気を付けな。おいてめぇら、この二人はオレの可愛い孫と時期別当の婚約者。何かやらかしたらどうなるかわかってるよな」
『はい、もちろんです』

すごい迫力と大声で市全体に聞こえるように警告をすれば、多くの人達は身震いし声をハモらせ承諾する。

お父さんの言う通り熊野の人達は団結力が強いと言うけれど、それ以上におじいちゃんはお父さんと同じで熊野の人達に慕われているんだと思う。
だから恐怖心の支配と言う感じはない。

「すげぇな。あのじぃじぃ。普段はヘラヘラしてるのにな」
「昔はすごい人でお父さんの憧れだったらしいよ。もう越えたって言ってたけど」

二人には聞こえないように都はおじいちゃんに感心するので、私はお父さんから聞かされたことを教える。

おじいちゃんは昔熊野を救った英雄。
そんな人を越えたと言うお父さんはもっとすごい?

「へぇ〜、ヒノエがそんな事を言ってたんですか?僕の事はなんと言ってました?」

弁慶おじさんには聞こえていたらしく何やら良からぬ邪気を漂わせながら、私の目線に合わせて聞いてくる。
やっぱり笑顔は怖くて、私は都の後ろに隠れ様子をうかがう。

普段は優しくていい人ではあるけれど、こう言う何か怪しい雰囲気の時は苦手。

「ワンワン」
「おいおい、弁慶。お前がマリアちゃんを怖がらせてどうすんだ?その策士の顔をするのはやめろ」
「は、お前、薬師じゃないのか?」
「元ですから。マリアさん、すみません」

コロとおじいちゃんと都が私を護ってくれたおかげで、元の弁慶おじさんに戻り申し訳なさそうに謝ってくれる。
無言で頷き前に出る。

弁慶は笑顔の裏で何を考えてるかわからない。
怪しいと思ったら距離を置け。

これもお父さんの言う通りだった。

「すっかり嫌われたな。そんじゃオレ達は用事があるから行くな。はい、小遣い」

とおじいちゃんは言って私達にお小遣いをくれ、元気のない弁慶おじさんと人混みの中に消えていく。

悪いことをした?

「じゃぁ私達も行こうか?」
「そうだね?」

そう言い合い、私達も当初の予定通り市を巡ることにした。


都はちゃんとお兄ちゃんの贈り物を見つけられるだろうか?



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