夢日記

□本編
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みんなが勝利を祝う中、あたしはこっそり抜け出して意味もなく浜辺を歩いていた。

光樹とヒノエ君はもうキスをしてしまったのだろうか?
そしたらあたし二人にどんな顔をして、これからすごせばいいのかな。
なんかすべてがいやになっちゃったよ。
楽になりたいな。
この世界はあたしには夢だけど、ちゃんとした異世界なんだよね。
そう言う場合ここで死んだらどうなるんだろう?
それとも死ねない?

「おい、雫。何してるんだ?」

突然怒った口調のヒノエ君の声がし、あたしの元へ駆け寄ってくるのがなんとなく分かる。
あたし何も変なことしてない。
と思ったけれど、辺りを見回すとあたしはいつの間にか海の中に入っている。
しかもすでに水の高さが肩までいっている。
無意識のうちに、あたし何をしようとしたのだろうか。
でもどうしてこんな所に、ヒノエ君がいるの?

「このバカ」

そう言ってあたしを思いっきり平手打ちする。

痛かった。
ヒノエ君の表情も険しい。

「それ以上行ったら、死んでたんだぞ。海を甘く見るんじゃない」
「ちょっと考え事してたらつい」

本気で怒ってくれている。
確かに死んだら楽になれるかもって思ったけど、自殺しようなんてこれっぽちも思っていない・・・と思う。

そしてあたしの手を握り、沖まで連れ戻された。
鼓動が高鳴って、嬉しさと切なさがこみ上げてくる。





「雫。なんの理由もないのに自害するのは、愚か者がすることなんだよ」
「そんなんじゃないんだってば。だからもう手は離してよ」

沖についてもヒノエ君は握ったあたしの手を離してくれなかった。

「いやだね。離したら、また自害しようとするだろう?」
「しないって言ってんでしょう」
「誤魔化されないよ」
「なんでそうなこと言うの?」

冷静に言うヒノエ君とは裏腹に、あたしだけが血が頭に上り必要以上に声を張り上げる。
これ以上、この状態が続けばあたしは押し殺している気持ちを言ってしまいそうだから。

「なんで?それはオレがお前を愛してるから、失うわけいかないんでね」

二度目の告白に、あたしは耳を疑ってしまった。
信じられない台詞だった。

「冗談言わないで。朔のこと好きな癖に」

涙がまたあふれ出す。

「冗談じゃない。オレは雫を愛してる。どんなに嫌われていようとも。朔ちゃんとはなんでもないよ」

と言って、背後から抱きしめられる。
ヒノエ君の温もりが全身に感じられ、鼓動が爆発してしまいそうだ。

光樹とはなんでもないの?
本当にその言葉信じていいの?

「だから雫の本当の気持ちが知りたい」
「………本当の気持ち?」
「ああ。雫はここが自分の世界じゃないから、あんなこと言ったんだろう?」

あたしの気持ちを読むかのように、ヒノエ君はそう耳元で囁いた。

「…………」
「オレはどんなに辛い別れの時が来ようとも、こうしてお前の温もりを感じていたいんだ。別れの時が来るまで、お前の一番近くに居させて欲しい」

留めの台詞に思える。

駄目だ。
こんなこと言われたら、これ以上自分の気持ちに嘘つくことなんて出来ない。



「……好き……」

言ってはいけない言葉を、ついに呟いてしまった。
耳を澄ませてないと波音にかき消されてしまいそうな声。

「そんなんじゃぁ、聞こえないよ」

本当は聞こえてるのに、わざとそう言いあたしの顔を覗き込む。
優しい笑顔に変わっている。

こうなったらもうすべてを受け入れるしかないよね。

「あたしも、ヒノエ君のことが好き」

と言い、あたしは背伸びをしてヒノエ君の唇にそっと触れたんだ。
ヒノエ君との二度目のキス。
一度目のキスと同じ涙味のキスだけど、なんだか今回は甘くてホッと出来るそんな味だった。

やっとあたし決心が出来たよ。
けして実ことがない許されぬ恋。
誰に言っても信じて貰えないかも知れない。
バカにされ祝福もされないってことぐらい分かっている。
だけどあたしは一生の平凡な幸せよりも、一瞬の最高な幸せを選ぶ。
あたしもヒノエ君が言うように、別れの時までヒノエ君の側にいたい。
ヒノエ君のこと一人いじめしていたい。
そんなことしたら多分あたしは自滅して、後悔してしまうのは百の承知。
だけど一度爆発してしまったこの気持ちは、誰にも止められないから。

「それが、雫の本心なんだね」
「うん」
「嬉しいよ。限りある時間の中でオレは、お前をどんな姫君よりも大切にするって誓うから」
「約束だよ。あたしもそれまで一生分の愛をヒノエ君に捧げる」

そしてあたし達は笑い合う。

自分の気持ちを正直に言えるって、こんな清々しい気持ちになれるんだ。


「おめでとう、雫」
「良かったね。神子」

そんな所にどこからやってきたのか分からないが、光樹と白龍が微笑みながらあたし達を祝福してくれていた。

いつからそこにいた?

「あ、朔。ごめん」

あたしはまず光樹の元に行き、頭を下げ謝る。
だってあたし応援するとか言っときながら、ヒノエ君を横取りしてしまったんだもん。
光樹に絶交されてもしょうがないことをやったんだ。

「なんのこと?」

だけど光樹は惚けてそう聞き返す。

相当怒っているのだろうか?

「ヒノエ君のこと」
「ああ。あれ嘘はったりだから気にしないで」
「へ?」
「だから私ヒノエ殿のことは好きでもなんでもないってこと」

今までとは正反対のことに、あたしはなんて言って良いのか分からなくなってしまった。

嘘はったり。
今まで散々ヒノエ君のことが好きだなんて言ってたのに、どうして今更そんなこと。
しかし光樹は嘘を付いている様子もなく、本当に平気な顔をしている。

「ちょっと意地悪しただけよ。だってヒノエ殿って私にいつも雫のことしか聞かないんだもん」

それが光樹の理由だった。
光樹らしい理由だね。

「そうだったんだ。……いろいろ心配掛けてごめんね」
「いいんだよ。神子もう少しだけ時間があるから自由に使って良いよ」
「そうね。それじゃぁ私達は行くわね」

そう言い残し二人は再びみんなの元へ、楽しそうにしゃべりながら戻っていく。

二人とも本当にありがとうね。





そしてあたし達は今日の夢が終わる瞬間まで、愛を語り合い数え切れないキスをした。



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