夢幻なる絆
□9.白龍の神子の娘
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「正気ですか?帯刀さん」
しばらくのフリーズの後笑顔をひきつらせ、冗談と祈りながらそう確認する。
どう考えても納得ができないことで、私には重荷で役不足だ。
「夕凪は私の妻でしょ?それとも代役を立てていいの?例えばそうだね。マリアくんとか?」
「そんなの絶対駄目です!分かりました私がやります」
「まったく。夕凪は相変わらず、扱いやすくて助かる」
「うっ・・・」
私の性格を完全に分かりきっての罠にまんまとハマってまう私に、帯刀さんは機嫌良く笑みを漏らしながら痛い所を付いてくる。
私を愉快そうに馬鹿にしつつも、その答えで満足だったらしい。
でもなんでそこでマリアちゃんの名前が出てきて、しかもまんざらでもない表情を一瞬浮かべるんですか?
まさかマリアちゃんって、帯刀さんのタイプ?
・・・お琴のことといい、実はロリコン?
「大丈夫。夕凪は私の言う通りにしていれば問題ないよ。何があっても私がさりげなく手助けてあげるから」
「絶対ですよ。約束です」
結局最後は帯刀さんの思惑通りになって、私はただ泣くしかなかった。
こんな結末一体これで何回目なんだろうか?
でも例え嘘でも帯刀さんの妻を演じるなんて私には絶対に絶えられないことだから、きっとこれで良かったんだと思う。
「なら決まり。では近々に、薩摩藩邸でお披露目するよ。いいね?」
「はい。でもそれだったら、さっきの時でも良かったじゃないですか?」
私の記憶が多くの人にない以上そうなるのは分かっていたけれど、フッとそんな素朴な疑問が頭の中を過ぎって投げかけてみる。
あの時お披露目してくれれば良かったのに、なぜか逃げるように屋敷を出た。
だから私が薩摩邸に一晩いた事実を知っているのは、誰もいないかも知れない。
「今朝の夕凪では誰も私の妻だと認めてくれないからね。夕凪も化粧をすればそれなりに化けるから、日を改めて正装した姿でお披露目した方が良いでしょ?仕上げは四神の神子と言えば、反対する人はいなくなる」
「・・・そうですね。だったら四神もお披露目ですか?」
「場合によってわね。薩摩に四神の加護があることを知らしめれば、大いなる武器になる」
弱冠いつものように馬鹿にされたような気がしつつもグッと堪えて話題を変えると、帯刀さんはクスッと不気味に笑い恐ろしいこと言いだしお久しぶりの御家老様へと変貌する。
薩摩藩のためなら利用価値があればなんでも使う。
それが少し冷酷だけれども、優秀な若き家老小松帯刀だ。
私も最初の頃は帯刀さんの政務に使われていたから忘れていた訳じゃないけれど、今は大切されているからそう言うことはもう考えていなかっただけ。
でも四神達は帯刀さんにとって、利用できる物に過ぎない。
何回も言うようだけれど四神達は神様で、普通なら人間が使えるはずがない存在。
「お願いですから、こき使わないで下さいね。それに帯刀さんは四神の神子である私のことも利用するんですか?」
「するわけないでしょ?どうして私が夕凪を使わなきゃいけないの?」
帯刀さんを試すようにわざと何喰わぬように問うと、食事中にも関わらず帯刀さんは私を強く抱きしめ即答で当たり前のように否定してくれた。
ホッとする私だった。