夢幻なる絆

□9.白龍の神子の娘
13ページ/36ページ


「ワン、ワン」

どこからか子犬の鳴き声が聞こえてくる。
それは必死その物でまるで誰かに助けを求めているようにも聞こえて、気になった私は辺りを見回し声の場所を探す。

−凪、どうした?
「子犬の鳴き声がやたらに気になるんだけれど、咲ちゃんどこから聞こえてくるか分かる?」
「そうですね。あちらの方からだと思うのですが・・・」

クロちゃんに不思議そうに問われたから私は隠すことなくそう言って咲ちゃんにも聞いてみれば、咲ちゃんは少し考え自信なさそうにもそう答えながら左側の裏路地に指差す。

言われてみれば確かに、そこから鳴き声は聞こえてくる。

−この気は・・・?行くか凪?
「アオちゃん・・・?うん、行く」

いかにも何か心当たりがありますって言うアオちゃんに不思議に思いながらも、私は二つ返事で家路の方向から声のする裏路地へと方向転換して咲ちゃんと一緒に急いだ。

それに私もなんとなく変わった気の流れを感じるから、こんなに気になっているんだと思う。
その気はゆきと似ているんだけれど、それよかもっと強くて暖かい大きな優しい物。


「大変。怨霊にやられた?」
「それにしてもすごい傷です。早く手当てをしなければ、死んでしまうかも知れません」

子犬の元に辿り着くと、可愛らしいブロンドの少女が血を流し倒れていた。
色白であるはずの顔色が真っ青になっており息も荒く、明らかに生命の危機であることが分かる。

私達は急いでその少女の元に掛けよりしゃがみ傷の具合を確認すれば、声の主であろうピンクのリボンを付けた無茶苦茶可愛い柴犬の子犬は大人しくなり嬉しそうに座っていた。

私達が来て安心した?

「咲ちゃん、応急処置をお願い。布はこれぐらいあれば足りるよね?」
「え、凪様?」

バリバリバリ


南方先生の助手である咲ちゃんになら応急処置は容易いことだと思い、それ以上は深く考えず袖付けから豪快に破き驚く咲ちゃんに渡す。

私にはそれしかできないから。






「お前はもしかして小松?」
「・・・チナミちゃん?」

咲ちゃんの事などお構いなしにすぐ南方先生を呼びに行こうと走っていると思いも寄らない声に呼び止められ、とっさに顔を見ればやっぱりお久しぶりのチナミちゃんがそこにいた。
私は信じられず耳を疑い、首を捻る。

チナミちゃんも私を覚えている?
私チナミちゃんとそんなに仲良い・・・寧ろ仲が悪いのになんで?

「小松、一体どうしたんだ?」
「なんでチナミちゃんは私のことを知ってるの?」
「は?まさかお前記憶喪失か?」
「そうじゃないんだけど。まぁいいか。ねぇチナミちゃん、力を貸して」

やっぱりチナミちゃんは私を覚えているようで混乱する私だったけれど、今の状況を思い出してチナミちゃんに半ば強制的に協力を求める。
今は何よりも咲ちゃんの応急処置が終わったら、早く少女を南方先生の元に連れて行かないといけない。
チナミちゃんのことは、後でゆっくり考えればいい。

「どうかしたのか?」
「実は怨霊にやられて気を失っている少女を見つけたの。南方先生を呼びに行こうとしてたんだけれど、ここであったのもなんかの縁だからチナミちゃん運んで欲しいんだ」
「ああ、それぐらい構わんが。にしてもお前は武人の妻の癖に、そのみすぼらしい格好はなんなんだ?」
「ありがとう。これは今私の友達が応急処置をしてくれているから、それに使ってもらってるの」
「いかにも小松らしいな。それでどこにいるんだ?」

理由を知ったチナミちゃんはすぐに了解して私の格好に眉を細めて指摘されるけれど、それも理由を言ったらそれ以上言われず笑われるだけだった。
それはムカつく意味じゃない笑われ方。




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ