夢幻なる絆

□9.白龍の神子の娘
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「あの咲さん、我々も入ってよろしいでしょうか?」
「凪さん、すみません。デリカシーのないことを聞いてしまいました」

すっかり反省気味でやたら言葉が改まった二人の声が戸の向こうから聞こえるのと同時に、抹茶と安道那津のいい匂いが漂ってくる。
もともと恥ずかしいだけでそんなに怒っていなかった私の頭の中は抹茶と安道那津のことで一杯になってしまった。
しかし咲ちゃんはそうじゃない。

「凪様、お菓子などで簡単に許してはなりません。軽い女だと思われてしまいます」
「うっ・・・もう思われています」

私のことなのにお怒りぎみで私の愚かな行動を指摘するけれど、それは今さらと言った感じですでに時は遅し。

私は食べ物には弱い女。
帯刀さんからもことあることに注意されているのに、未だになおらないお馬鹿な奴。

「咲。あんまり凪に一般常識を教えるなよ。帯刀は凪のそう言う単純な所も好きなんだからな」
「りょ、龍馬さんそれは火に油ですよ」
「でも本当のことだろう?な凪?」
「すごく馬鹿にされているのに、真実過ぎて言い返せない・・・」

反省して大人しくしていた龍馬は余計な酷いことを咲ちゃんに警告し南方先生先生はそれを止めるのだか、図星でしかない私は悔しく思いながら認めるしかなかった。
でも帯刀さんは今の私が一番好きって言うけれど、きっとしっかりした私でも好きと言ってくれるはずだ。

「凪様・・・。小松様とどのような生活をしてるのでしょうか?」
「昼間は厳しいけれど、夜は甘くなって優しいよ。夫婦仲はすごくいいから、そんな顔しないでね」

なぜか私を哀れんで見つめそんなことを聞く咲ちゃんに、私は笑顔をひきつらせて仲が良いことを最大限にアピール。
龍馬のせいで変な誤解を招きそうになった。
私と帯刀さんは相思相愛なのに・・・。

「それならいいのですが・・・。仕方がないですね。二人とも凪様に免じて今回は許しますが、少しは女性の気持ちを考えてください」
「ごもっともです。咲さん、ありがとうございます」
「そうだよな。いくら俺と凪は親友でも、凪は女性。これからは気をつけるよ」

ようやく咲ちゃんのお許しも出て二人はそれぞれの反省を言いながら、戸を開け部屋に入ってきて私の目の前に抹茶と安道那津を置かれた。
やっぱり美味しそう。

「いただきます。わぁ〜前よりさらに美味しくなってる」
「凪、聞いて驚け。この安道那津は今度皇女和の宮様に献上することになっているんだぞ」

口を大きく開け被りと食べ幸せいっぱいになっている中、龍馬は自慢そうに誇らしく言葉通り驚くことを教えてくれる。

和の宮と言ったら徳川家茂の皇族出身の妻。
つまりあの菊千代さんは、忠実通り結婚してたんだ。

「それはおめでとうございます」
「ありがとうございます。最初は私なんかがと思ってお断りしようと思っていましたが、帯刀さんの推薦と言うこともあって引き受けたんです」

とにかくそれは大変名誉なことでありおめでたいことなので食べることを中断させ祝福の言葉を言うと、恥ずかしそうにも嬉しそうに謙遜しながらそう答えた。
いかにも南方先生らしい。

「何を言ってるんですか?南方先生は江戸で一番の名医でもあり、薩摩藩の名誉藩医なんですよ。自信を持って献上してきて下さい」
「凪さん、ありがとうございます」
「凪様、小松様とまったく同じ台詞を言ってますよ。やはり二人はおしどり夫婦なのですね」

だから私は当たり前のことを言って激励すると、咲ちゃんは微笑みそう言って誤解を解かれたのか安堵する。
そう言われて、私も嬉しかった。
だってそれは私と帯刀さんの心が繋がっている意味にも取れるから。




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