夢幻なる絆
□番外編4
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凪、林檎遊びに夢中になる
帯刀さんと久し振りに温泉地に訪れ露天風呂に入ることになった。
度々一緒にお風呂を入ったり夜だって一緒なんだから多少帯刀さんの色っぽさにくらとくるだけで、それ以外はさほど恥ずかしくもなく特にタオルで隠すことはせずにいた。
まったく慣れって言うのは時に恐ろしいもので、そのうち私は帯刀さんに何も感じなくなるんだろうか?
今はまだ帯刀さんを男性と見て私自身のことを女性として見て欲しいと思っているから、身だしなみを気にして綺麗になろうと一応は努力している。
まぁ元が凡人以下だから、効果はあまりないけれど・・・。
「うわぁ〜、林檎風呂だ」
「夕凪、待ちなさい」
露天風呂に行くと沢山の林檎がプカプカと浮かんでいて、私の目にはそれだけしか映らなくなり帯刀さんをそっちのけでタイピング。
林檎を手に取り匂いをかぐと、甘い美味しそうな香り。
自然とよだれが出てきて思わずかじりたくなったけれど、いくらなんでもそれは意地汚ないと思い我慢する。
林檎は後で帯刀さんに買ってもらおう。
ぽちゃん
林檎を温泉に落とすといい音がして、なんとも言えない絶妙な浮き方をする。
他人には理解しがたいことでも私の壷にハマり、なんどもなんども繰り返して一人遊びに夢中になって行く。
そのうち林檎同士を当てるとナイスな音がして面白いことも分かり、いつしか私はあろうことか帯刀さんの存在そのものを完全に忘れてしまった。
ぽちゃん
ドボン
ボスン
飽きることなく年甲斐もなくはしゃぎ夢中になっていると、
バシッ
いきなり林檎が頭に直撃してきて踏ん張りきれず、湯船の中へと大きな音をたて撃沈。
あまりの突然のことに溺れかけるけれど、どうにか体制を持ち直しガバッと立ち上がる。
死ぬかと思った。
「帯刀さん、何するんですか?」
「夕凪は林檎が大好きみたいだから、林檎の気持ちを味あわせただけだよ」
「だからって溺れる所だったんですよ?」
とてつもなくご機嫌斜めな帯刀さんにも引くことはなく、当たった林檎をみせつけ大激怒。
なのに帯刀さんは訳の分からない屁理屈を言い出して、まったく反省する様子が見られずしかも私の危機なんて興味なし。
帯刀さんの様子がおかしい?
「・・・私より林檎と戯れている方が、そんなに楽しい?なんなら私と別れて林檎と結婚でもすれば?」
「は、何を言ってるんですか?」
首をかしげしばらく帯刀さんの顔色を伺っていれば、子供より達の悪い嫉妬をされふて腐れてしまった。
よりにもよって林檎にですか?
しかも相当な嫉妬心だから、なだめるのに苦労しそう。
「まったくどうして私の馬鹿妻は、すぐに興味を旦那以外に向けるんだろうね?そんなに私は魅力ない?」
「帯刀さん、林檎なんかに嫉妬しないで下さい。帯刀さんは魅力がありすぎますよ」
「だったらどうしてそんな意地悪するの?夕凪はそれほど私を愛してないの?」
予感的中なのかわざと事態をややっこしくさせ、私を抱き寄せ耳元でそっと囁やくように質問攻め。
帯刀さんの肌がふれあって、帯刀さんのあそこが当たる。
私の顔は見る見るうちに林檎のように真っ赤に染まり、帯刀さんを意識して心臓も高鳴っていく。
何も感じなくなりかけているなんて、思ってすみません。
こんな魅力的な旦那様に何も感じないなんて嘘です。
感じなくなったら人間として終わりです。
「そんなことありません。私は帯刀さんのこと・・・」
「私は夕凪のことすごく愛してるんだよ。どんな時でも私だけを見ていて欲しい。例えものであっても私の傍で私より夢中になって欲しくない。夕凪はどうなの?」
途端に帯刀さんが愛しくなりこの想いを伝えようとする最中私を揺るぎない眼差しで見つめ出し、私が視線を反らさないさように頬に手を当てここぞとばかりの嫉妬を言われ問われてしまった。
瞳の奥が哀しそうで私が帯刀さんを傷つけてしまったことがよく分かる。
凡人以下の私がどうして帯刀さんを未だに引き留められているのかは分からないけれど、とにかく帯刀さんは今も私に夢中で、考えられないことに嫉妬もして拗ねてしまう。
「あまりよくないです。でも一緒に夢中になれる物なら、それはそれでいいかも知れません」
「夕凪、いい加減にしなさい。私ばかりこんな想いをするなんて、本当にずるいよ」
少し考えそう言う結論に達しそう告げにっこり笑った途端、帯刀さんの声は低くなり怒られたと思えば最強な捨て台詞を言われる。
本当にするいよ。
私はこれに弱くて、母性本能がくすぐられる。
帯刀さんが更に愛しくて愛しくて堪らない。
「ずるくないですよ。私だって帯刀さんのことすごく愛してます。帯刀さんがこうして私の傍にいてくれるから、私はいつでもありのまま私でいられるんです」
「だったらもう少し私を見て欲しいね?あんまり私をのけ者ばかりしてると、その自由過ぎる翼をもぎ取って・・・束縛するよ」
「これからは気を付けます」
帯刀さんになら束縛されてもいいと思いつつも、聞き分けよく聞き入れ帯刀さんに身を任せる。
これで無事に帯刀さんの機嫌は直って、後はいつものように甘い夫婦の時間。
今日はお詫びの意味も込めて、いつも以上に甘えちゃおう。
しかし
「夕凪のこれからは信じられないね。今日は罰として、私に触れたら駄目だよ。ここまですれば、夕凪にも分かるでしょ?」
「え〜そんな。意地悪しないで下さいよ」
「駄目。この林檎と大人しく遊んでなさい」
すぐには機嫌がよくなるはずもなく帯刀さんは私を拒絶して、冷たくそう言いわれ林檎をくれるだけ。
しかも私と視線を合わせもせず、半泣きする私にもおかまいなし。
ショックだけでは物足りないぐらいの、巨大なショックを受ける。
もう二度と帯刀さんをほったらかしにしないと、固く心に誓う私であった。