夢幻なる絆

□番外編4
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凪、帯刀さんに琵琶を習う。




「あれ、なんかいい音色がする」
「ニャン?」


部屋で猫ちゃんと遊んでいると、どこからか美しい音色が聴こえてくる。
優雅で優しくもある音色が私は気になり猫ちゃんを抱き、どこで誰が何を弾いてるのかを探そうとすることにした。
誰だか知らないけれど、こんな音色を奏でられる人は心がきれいな人なんだろうね?




「帯刀さん?」
「夕凪、どうしたの?構って欲しいの?」


捜索することしばらくして音色が奏でる部屋を見つけそっと戸を開けると、なんと帯刀さんが琵琶を弾いていた。
驚きを隠せず帯刀さんの名を呼び立ち尽くしていると、帯刀さんは不思議そうにしながらもクスッと笑い問われる。


「帯刀さんって琵琶をやるんですね」
「若い頃一時期熱中していてね。やるべきこともほったからして、朝からばんまで弾いていたもんだよ。だからある時封印していたのだけれど、今になって久しぶりに弾きたくなってね」
「そうなんですか?また熱中しすぎませんか?」


わざとイジワルな答えを言って、帯刀さんの反応を待って見る。
もしそんなことになったら、薩摩藩士の人達が困って西郷さんが怒鳴り込みにくるだろう。
私も少し困るかな?


「しないよ。今は琵琶より妻の方が魅力的だからね」
「・・・・・・」


迷いもせず堂々と言い切る帯刀さんに、なんて言ったらいいのか分からず困り頬を染めた。
魅力的なんて私とは無縁な言葉だから、余計に恥ずかしい。


「ほらね。夕凪のそう言ういつまで経っても初な反応が愛しくてたまらない。琵琶も弾く度に新しい発見が出来て、それが面白かった。弾いても弾いても物足りない」
「・・・もう。だけど帯刀さん本当に琵琶か好きだったんですね?」

でも楽しげに昔話をする帯刀さんを見ていたら、私も琵琶を少しやって見たい思えてきた。
そこまで帯刀さんを熱中させる琵琶なんだから、きっとすごい魅力があるに違いない。
滅茶苦茶飽きっぽい私でも、夢中に慣れると思うんだ。


「夕凪もやってみる?」
「はい。教えて下さい」
「いいよ。ならここに座りなさい」
「はい」


また私の心を読んだかのように帯刀さんはそう言って自分が座っていた場所を譲ってくれて、私が座ると琵琶を渡し背後に座り手を絡める。

帯刀さんの大きくて温かい優しい手。
絡め馴れててもやっぱり最初はドキドキしてしまう。


「夕凪、指の力を抜いて私に任せなさい」
「はい。なんか嬉しいです。こうやって帯刀さんに教えてもらえるなんて」
「私も夕凪が興味持ってくれて嬉しいよ。無事に弾ければもっと嬉しいけれどね。夫婦で琵琶の演奏出来たら素敵でしょ?」
「そうですね。頑張ります!」


いつもと違ってどこか少年のような帯刀さんの姿を見ているだけでも幸せで、そんな願いを叶えてあげたくなりつい軽はずみな返事をしまった。




しかし音楽の才能の欠片もない私には、琵琶をマスターするなんて最初から無理な話だった。




「夕凪、何度言ったら分かるの?ここはそうじゃなくって、こうだとさっきも言ったでしょ?」
「うっ・・・すみません」


あまりの覚えの悪さに最初は優しく教えてくれていた帯刀さんはいつしか鬼になり、間違えるたびに溜め息をつかれ厳しい指導が入り最初からやり直し。
二つの作業を一度にするなんて、私には無理難題過ぎる。

だけどそれでも止めるなんてけして言わない。
私もいつなら簡単に諦め放り投げるんだけれど、こればかりは絶対に諦めたくなかった。
帯刀さんの好きな物は、私も好きになりたいから。


「ここまで物覚えが悪いと、ある意味才能だね。教えるのが私じゃなければ、才能がないと言われてすでに見捨てられてるよ」
「帯刀さんは見捨てませんよね?」


いくら帯刀さんでもいい加減に痺れを切らしたのか真実過ぎるきつい現実を叩きつけられてしまい、私は帯刀さんの顔を伺いながら恐る恐る最悪事態を問う。
ここで止められたら私は絶対に後悔する。


「見捨てて欲しいの?」
「いいえ。それだけはけしてありません。見捨てないで下さい」
「だったらそんな顔で私を見つめない。・・・教えるどころじゃなくなる」
「えあ、ごめんなさい」


どうも無自覚のうちに誘惑してしまったらしく、帯刀さんは頬を赤く染めなにかに耐え堪えている。
それで意味に気づいた私まで恥ずかしくなり、反射的に謝って視線を下に向けた。
普段どんなに誘惑しても効果がない帯刀さんは、私の何気ない行動に弱く効果抜群だったりする。


「・・・夕凪のやる気が感じられる限り、私はけして見捨てないよ。ある程度弾けるだけで十分でしょ?」
「はい。せめてこの一曲だけでも弾きたいです」


気を取り直しありがたいことにそう言ってくれたから、私は真面目に意思を伝え再び最初からゆっくりと弾き始める。
あまりにも頼りない耳障りに近い音で何を弾いているのかさえ分からなくなりつつあるけれど、帯刀さんは何も言わず手拍子でテンポを合わせてくれる。
そんな優しさが更に私のやる気を引き出されて、絶対弾いてやろうと言う思いが強くなっていくのだった。






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