夢幻なる絆

□番外編4
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凪、帯刀さんが許せない。



「奥様、おかえり・・・どうなされましたか?旦那様は?」
「梅さん、わ〜ん」

やっとの思いで帰るといつものように梅さんがいて尋常じゃない私に気づき問われた途端、堪えていた涙がどっと溢れ出し梅さんに抱き着き大泣きしてしまう。

もう何がなんだか分からない。

「奥様、旦那様と喧嘩でもしたのですか?」
「違う。帯刀さんは私との約束を破って、お琴を薩摩邸呼んでいた。それってそう言うことなんだよね?私側室なんて認めたくないけれど、もうこうなったら諦めるしかないの?」
「奥様しっかりして下さい。旦那様に限ってそのようなことは断じてありません」

もう最悪事態しか考えられない私は感情をあらわにして不安をぶちまけるけれど、梅さんは迷いもなく自信たっぷりにそう答え私を励ます。

なんでそこまで言い切れるんだろうか?

「でもでも・・・」
「旦那様の目には奥様しか入ってないんですよ。私は長年旦那様に仕えているので、良く分かります」
「・・・私部屋に戻ります。しばらく一人になって、良く考えたい」

今の私にはどんな言葉も届かなくて、私はそれだけ言って自分の部屋に戻ることに。
せっかく親身になってくれている梅さんにこんな態度を取るのは悪いと思っても、自分の事で精一杯になっている私には気遣うことが出来ずにいる。
ただこれ以上話をしていたら梅さんに酷いことを言ってしまいそうだったから、攻めてそれだけは避けたいと思い逃げる形をとった。

私ってやっぱり最低なんだな。
落ち着くことが出来たら、後でちゃんと謝ってお礼を言おう。

「夕凪、すまない」
「旦那様?」

突然いつもと違ってまったく余裕のない帯刀さんの謝罪が聞こえたと思ったら、私の背後から強く抱きしめられる。
震えていて何かあったことがすぐ分かったけれど、恐くて聞けずに拒む行動に出てしまう。
でも逃れられない。

ねぇ帯刀さんは何を謝ってるの?

「離して下さい。何も聞きたくないです」
「夕凪が怒る理由はよく分かる。約束を破ったことは事実なのだから、それについては何も言い訳など見苦しいことなどしない。本当にすまない」
「・・・言い訳は見苦しい?・・・なら否定しないんですね」
「ああ」
「帯刀さんなんか大嫌いです。しばらくほっといて下さい」

本当に申し訳なく心から謝罪している誠意は伝わるも、お琴のことについてはまったく否定されず悲しさがます。
だから私はありったけの力で帯刀さんの頬を一発殴り、そのまま部屋へとダッシュする。

浮気を肯定されて、許せるほど私の器は大きくない。

「旦那様!!」

今まで聞いたことのない梅さんの特大な怒鳴り声は、きっと屋敷中を木霊したと思う。




帯刀さんなんて、大嫌い。
私の気持ちなんて全然分かってくれてない。
私のことを愛してくれてるなら、ぶざまに言い訳でも屁理屈でも言ってくれてもいいじゃない?
だいだいお琴と密会するなら、もっとうまくやって欲しかった。
それとも私に出て行って欲しいから、わざとああなるようにセッティングしたとか?帯刀さんは意地悪だから。
だとしたら私はもうこの屋敷にはいられない。
帯刀さんの望み通り出ていく。




「夕凪・・・開けてくれないか?」
「・・・いいですよ。もう出て行く準備は終わりましたから」
「え?」


必要最低限の荷物をまとめ終わった頃障子の向こうから沈んだままの帯刀さんの声が聞こえ、私は脅えながらもそう言い障子を恐る恐る開ける。

手紙を書いたから何も言わずに出て行くつもりだったけれど、こうなったら最後ぐらいちゃんとお別れをして祝福をしよう。


「帯刀さん、短い間でしたがお世話になりました。私は幸せでした。・・・お幸せに」


涙を堪えそれだけ言って出て行こうとすると、腕を強く掴まれ強引に抱き寄せ抱きしめられてしまう。
別れるのに何かが違い戸惑うけれど、変わらない大好きな温もりに少しだけ落ち着く。

傍にいたい。
離れたくない。


「・・・行かないでくれ。私には夕凪しかいないんだ」
「え、でもお琴が・・・」
「お琴は芸者。なんでもないし興味もない。今日は本当に忙しくて、約束を忘れただけ」
「・・・・・」


さっきは理由を教えなかった癖に、今になって必死に理由を話してくれた。
でもすぐには信じられず、視線を反らしたまま。
それだけ私の心は深く傷つけられた。


「夕凪が怒るのも無理はない。一刻も待たせた揚句に、お琴の存在と来れば誰だって勘違いする。どうしたらこんな愚かな私を許してくれる?なんでもする」
「だったら帯刀さんも一刻待ちぼうけして下さい」
「分かった。じゃぁ行ってくる」


などと臍を曲げて無茶苦茶なことを言ってるのに、帯刀さんは真に受けそれを実行しようとする。
すっかりふさぎ込み頼りない帯刀さんの背中。

十分過ぎるほど帯刀さんは反省してくれてるのに、それでも許せない私はどうしてこんなに意地っ張りなんだろう?
そろそろ素直になって許してあげないと、帯刀さんが可愛そう。


「・・・行かなくて、良いです」
「夕凪?」
「もう二度と約束を破らないって約束してくれるなら、今回だけは許してあげます」
「しない。この命に掛けて約束をする」


いつもならそう思っても素直になれず意地を張り続けるのが私なのに、どう言う訳か素直になれ今度は私が引き留める。
それはきっと帯刀さんが掛け替えのない物で、どんなことがあっても失いたくないから。
そんな私の言葉に帯刀さんは驚くけれど、すぐにそう堅く私の目を見つめ誓ってくれる。
揺るぎない迷いのない強い眼差し。

信じても良いよね?


「なら許します。だけど次は絶対に許しませんよ」
「・・・ありがとう夕凪。本当に今日はすまない。・・・これからでも遅くないから出掛けないか?」
「いいですね。行きましょう」

許してしまえばもうこのことは水に流して、私は帯刀さんの提案に頷き手を繋ぐ。
まだ少し大人しく反省している帯刀さんだけれど、きっとあっと言う間にいつもの帯刀さんに戻るだろう。


さぁて、これからどこに行こう?



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