夢幻なる絆

□番外編4
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凪、帯刀さんと待ち合わせをする。



「ルンルン。やっぱこれを着て行こう」
「奥様、どうしたのですか?鼻歌混じりでお召し物をお選びになられて。とても楽しそうですね」
「あ、梅さん。帯刀さんと待ち合わせして、デートするの」


数え切れないほどある着物からハイテーションで選んでいると、梅さんがやってきて不思議そうに問われるのでニコニコで答える。
しかしデートって言葉を知らない梅さんは、余計に分からなくなったのか首を傾げてしまう。


「あっ、デートって言うのは逢瀬のこと」
「そうなのですね。ですがなんで待ち合わせを?」
「待ち合わせデートを一度でいいからしてみたかったんだよね。ほら私すべてに置いて、帯刀さんが初めての人だから」


現代用語で簡単に説明するけどそれでも本意が分かってもらえず、詳しい理由を必要以上に説明する。
帯刀さんも同じ反応をして、同じような説明をしたら分かってもらえた。

待ち合わせデート。
恋人と無事に逢えるまでの、ドキドキ感を味わいたい。
きっとそう言うのって、楽しいんだろうな?


「だったら私も是非協力させて下さい。旦那様が意地悪出来ないほど、奥様を絶世の美女に変えて見せます」
「そんな大袈裟な。でもよろしくお願いします。梅さん」


ようやく梅さんにも私の気持ちを理解してくれたらしく、笑顔に変わり張り切って手伝ってくれることになった。
どこまで本気なのか分からないけれど、少しぐらいは美女に近づけたらいいな。





「さぁ奥様、出来上がりましたよ。これなら旦那様も、意地悪は言えないでしょう?」
「わぁ〜この人私じゃないよ」


化粧と髪のセットが終わりご満悦の梅さんから眼鏡を渡され掛けて鏡を除き込むと、そこには私じゃない強いて言えば綺麗な女性が映っている。

これが私?
今まで結婚式や新選組訪問でいろいろしてもらったけれど、今日のは一段と清楚で綺麗。
自分なのに見とれてしまう。


「気に入って頂けましたか?」
「もちろん。梅さんは魔法使いだね」
「魔法使い?」
「うん。凡人以下の私をこんな綺麗に変身させちゃうんだもん」
「奥様は可愛らしい人ですよ。だから今も旦那様は奥様に夢中で、これからもそれは変わらないと思います」


興奮しきっている私は答えとは言い難い答えを言うと、梅さんは楽しげにちょっと恥ずかしいことを言う。
嬉しいことでも、これは恥ずかしい。
頬を赤く染まらせ、下を向きモジモジしてしまう。

そんなに帯刀さんは私に夢中だろうか?
私はありえないほど夢中だけれど。


「・・・だと嬉しいけれど」
「自身を持って下さい。では着替えをしましょ?この着物でいいのですね」
「うん。帯刀さんに始めてもらった着物だから特別なんだ」


確認する梅さんに、私はそう言って頷いた。
と言ってもこの時はまだお互いに恋愛感情なんてなかったから、帯刀さんが選んでいないと思うけど特別は特別。


「そうでしたね。私も良く覚えてます」
「え?」
「呉服屋のご主人を呼んで、この反物を選ぶのに一刻は掛かってました。その時の姿は、柄にもなく純情で微笑ましかったですよ」
「うそ・・・」


初めて知った信じられない真実に、私は耳を疑う。
でも確かに今考えると、思い当たる節が山のように沢山ある。

凪くんはどこまで鈍感なの?
どうして、凪くんはいつもそうなの?本当に気づいてない?

それってつまり二回目に来た時には、もう帯刀さんは私のこと・・・。


「本当ですよ。それなのに奥様はなかなか旦那様の気持ちに気付かないんですもの」
「そうだったんだ。それなのに私ったら、帯刀さんに悪いことしてたんだね。私みたいな凡人が帯刀さんに相手なんかされないと思ってたから、わざと気づかないふりをしてたんだ。気づいても想いを告げるつもりはなかった」

もう過去のことで今さら悔やんでもしょうがないと思いつつも、帯刀さんのその時の心境を思えば思うほど残酷なことをしてしまったと後悔する。
本当に私って鈍感で滅茶苦茶疎い。

「ですが早く想いが通じ合って良かったですね」
「うん。今日はいっぱい帯刀さんに甘えちゃおうかな?」
「それがいいですね。旦那様も喜ばれると思いますよ」

それが今の私に出来るせめてもの償いだった。

あんまりいつもと変わらないと言われればそうかも知れないけれど、これでもある程度は控えているつもりだ。
そうじゃないと帯刀さんは、私の欲しい物をなんでも買ってくれる。
それは嬉しいんだけど、そう言うのってあんまり好きじゃない。
私は馬鹿だからなんでも買ってくれるのが当たり前だと思って、ますますわがままになって物の価値が分からなくなってしまう。
でも今日だけは特別だよね?



帯刀さん、待ち合わせの時間は、この時計で5時ですからね。
分かってるから、大丈夫。あんまりしつこいと、黙らせるけれどいいの?
え、どうやって?
相変わらず夕凪は、鈍いね。こうやってだよ。
!!


昨夜そう時間の確認をして今朝は早朝に出ていったため確認してなかったけれど、あの帯刀さんが私との約束を忘れるはずがない。
だから30分遅刻してるのはきっと仕事が急がしかったからで、今急いで向かって来てる所なんだよね。

そう前向きに考え懐中時計と周辺を交互に見ながら、私はまだ来ない帯刀さんを今か今かと待ち続けている。



しかし



二時間経っても帯刀さんは現れず、私はすっかりふさぎ込んでいた。

帯刀さんに何かあったんじゃないかと思ったりもしたけれど、そんな胸騒ぎは一切なくだったらシロちゃんが知らせに来てくれる。
辺りもすっかり真っ暗になり一人でいるのは危ないからそろそろ帰らないといけないのに、帰るのがすごく怖くて足が動かない。
帯刀さんと会いたくないから。

「あら凪様ではありませんか?」
「あ、お琴。これから仕事?」

すっかり後ろ向きになっていると一際綺麗な姿をしたお琴に声を掛けられ、私は落ち込んでいることを悟られないよう受け答えする。

「はい。小松様に呼ばれまして薩摩藩邸へ」
「帯刀さんに?」
「ええ。なんでも大切なお客様がいきなり来るそうで」

あまりにも衝撃的な真実に大ショックを受け、その後のお琴の言葉など聞けずに立ち尽くしていた。

私との約束を破って、帯刀さんはお琴と何するの?
帯刀さんは私よりお琴の方が好きなの?
それってつまりもう私には興味ないってこと?

そんなはずがないのに今の私にはマイナスのことしか考えられなくって、どんどん闇と言う深みにはまる一方だった。
わが家には帯刀さんがいないことが分かり、私はお琴と別れ一人淋しくトボトボと家路を歩いて行く。


私はこれからどうすれば良いんだろうか?




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