夢幻なる絆

□8.闘いの仕方
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「夕凪はここで待機してなさい。高杉には私が先に会って話をしてくる」
「はい、分かりました」

もうすぐ台場という所まで訪れたのは良いんだけれどすでに激しい戦場化となっていて、帯刀さんの真剣な眼差しを向けられて言われた指示を私は素直に受け入れ頷く。
いくら後先考えず突っ込む私であっても、この戦場を見れば無謀すぎることぐらい分かる。
生身の人間や陽炎が斬りかかっているし、おまけに玄武らしき化け物が暴れていて大砲の流れ弾に巻き込まれる危険もありそう。
気の流れも良くなく、どんよりとして重い。
それは地獄絵さながらで、イヤな予感もする。


「素直で良いね。サトウくん、南方先生、妻が暴走しないよう見張っててもらえませんか?」
「ええ、もちろんです」
「私も出来る限りのことはします」
「ありがとうございます。もし危なくなったら、今回ばかりは四神に頼るんだよ。はい、これは玄武の札」
「帯刀さんも気を付けて下さい。特にあの玄武らしき物は危険だと思います」

相変わらずの酷い言い方にも関わらずアーネストも南方先生もそこは突っ込まず話を進め、私ももう慣れっ子になってしまい帯刀さんの話に合わせ玄武の札をもらい最後に私なりの警告した。
何か分からない得体の知れない玄武の紛い物が、良くない気を流している一番の原因。
そう言うことだけなら、私にはなんとなく分かる。

「心得ておく。ならおまじないの口づけして」
「え・・・?もうしょうがないですね」

周囲がどんなにいようともお構いないのか帯刀さんからキスをせがまれてしまい、躊躇する物の今回ばかりは状況も状況なので恥ずかしさを捨てキスをする。
これがおまじないになるなんて思わないけれど、帯刀さんがいいんなら私は恥ずかしいことでもやるだけ。
それが帯刀さんの勇気に変わるのなら。



「まったくあなたって言う人は、面白いほど小松さんの言いなりですよね?小松さんは身代わりになって死ねと言えば死ぬのですか?」
「それで帯刀さんが助かるのなら、私は喜んで身代わりになって死ぬよ」

呆れ返ったアーネスト声が自分には理解しがたいと言わんばかりの問いを投げかけられ、私はアーネストの顔を見上げながら当たり前のように笑顔で答えてみせた。

私にとってそれは怖いことでもなんでもない喜ぶべき物。
それより私を残して死んでいく帯刀さんを見る方が、よっぽど怖いことでその後の人生は地獄。
ましては私の身代わりで死んだら、私はその場で命を落とすだろう。

「アーネストさん、帯刀さんは凪さんにそんな酷い事言いませんよ」
「それもそうですね。ですが小松婦人は小松さんのことになると、恐ろしいほど勇敢な女性になりますね?それが真実の愛なのでしょうね?」
「うん、そうだよ。アーネストにはそんな人いないの?」
「・・・それは秘密です。・・・Lei non nota insensibile Lei che io amo Lei e lo splendore.・・・」(私があなたに恋してるなんて、鈍感なあなたには気づくことがないでしょうから)
「は?ねぇ南方先生アーネストは、なんて言ったんですか?」

いつもなら私の知っている単語が多少あってそれでおおよその予想が付いたのに、今回はまったくそれが分からず南方先生に通訳を頼む。
私が分からなくても、英語を得意とする南方先生がいる。

しかし

「すみません、イタリア語と言うことは分かるんですが、なんと言ったかまでは分かりません」
「イ、イタリア語?それじゃぁよっぽど腹黒いことを言ったんだね」

思わぬ言語にド肝を抜かれ、本音を呟き勝手に納得。
英語ではなくイタリア語をしゃべれることの驚きより、そこまでして聞かれたくないことを言う方が驚きである。
ほらアーネストは通訳士なんだから、イタリア語がしゃべれてもおかしくはない。 

一体何を言ったって言うか、どうしてあそこで腹黒いことを言うんだろう?




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