夢幻なる絆
□6.四神を救え
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「御家老、そろそろよろしいでしょうか?」
「いいよ。それで何?」
いっこうに戻らなかった私達に痺れを切らしたのか一人の藩士がやって来て、異様な空気を感じ取りながらも恐る恐る帯刀さんに声を掛け承諾を取る。
藩士も何かと大変だ。
「我が方の藩医の手はずは整いました。それで南方の名乗る医師が訪れて、自分も手伝いたいと申しております。御家老に言えば分かると言っておりますが………」
「そうだね。南方先生は私と夕凪の大切な知人。彼の指示を良く聞いて、民達の治療を優先にしなさい。きっと会津は自分達のことで精一杯だろうから」
「はっ、まったくもってその通りであります」
「救うべきは身勝手なこの戦に巻き込まれた民だと言うのに、なんでそう言うことが分からないんだろうね?」
「帯刀さんは優しいんですね。さっきだって長州が置いていた米俵を民に配るとか言ってましたし」
「その方が薩摩の人気取りになるでしょ?」
「・・・・・・」
藩士との話に感心して思わず口を挟みますます自分の夫を尊敬し感心すると、いかにも帯刀さんらしい合理的過ぎる裏がある真相に再び言葉をなくす。
そんな真相出来れば、聞きたくなかったです。
だけど江戸にいるはずの南方先生が、京に来ていたなんてなんたる偶然。
咲ちゃんも一緒だったら嬉しいな。
さすがに咲ちゃんなら面会禁止じゃないだろうから、会ってまたいろいろ話したい。
「それでは神子殿。私達は失礼します。また会う機会があればその時はもう少し神子らしい行動を願いたいものですね。夕凪、行くよ」
「え、あはい」
最後は思いっきり皮肉を言い捨てる帯刀さんに手を引かれ、私は藩士と一緒に西郷さん達を待たせている場所に向かう。
背後からそのやり取りのことで言いたい放題言われていて、やっぱり帯刀さんのイメージは最悪に近い冷血で自分勝手なドSになっていた。
それは私が帯刀さんと出逢ってからすぐの時と同じイメージだったから、なんだか懐かしい思いが込み上げてくる。
懸命に自分はドMじゃないと否定していたあの頃。
それが今じゃぁ完全に私はドM。
帯刀さんのバッサリのいじわるな反応が、愛されてるって実感できて心地よい。
「夕凪、何がおかしいの?」
「帯刀さんも私と同じで、良く付き合ってみないと良さが分からないですよね?まぁ帯刀さんの場合は、外見だけでも好感度抜群だと思いますけれど」
「外見だけで好まれても、まったく嬉しくないよ」
詳しいことは言わずにそれだけ言って帯刀さんの顔をのぞき込み微笑むと、帯刀さんはちょと厳しい意見を言いながらも微笑み返し繋いでいる手を強く握った。
何が言いたいのか少しだけ分かる気がする。
「ですね。私は帯刀さんの外見よりも人柄が大好きですよ」
「私もそうだよ。夕凪」
「あの〜、御家老。今そう言うことはちょっと・・・」
すっかり私達だけの世界に入り込んでいると、藩士は困った様子で小声で呟くのだった。