夢幻なる絆

□イベント短編
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凪、お正月を迎える。





「夕凪、あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます帯刀さん。今年もよろしくお願いします」


今まで見たことがない程の豪華なおせち料理が並ぶ広間に来た私達は、向かい合わせになって新年の挨拶をしあう。
朝起きて一番最初にもしたけれど、正装してする方がお正月らしくて気持ちも改まる。


「私の方こそ、宜しく頼むよ。夕凪、はいお年玉」
「・・・・・」


すると何を思ったのか帯刀さんはまんべんの笑みを浮かばせ、あろうことか私にポチ袋を差し出した。
何年かぶりにもらうお年玉に、私はどんな反応をしたらいいのか悩む。

まさかこの歳にもなってお年玉をもらうとは思わなかったし、年下からもらうお年玉なんてさすがにカッコ悪い。
お小遣いを散々もらっていた人が、今さら思うことじゃないけど・・・。
でも旦那様からもらうお年玉だったら、まだあり得る話だよね?

・・・・・・。
・・・・・・。


「夕凪、どうしたの?」
「自尊心と欲望が争ってるので待って下さい」


なかなかお年玉を受け取らない私に帯刀さんは不思議そうに首をかしげ問うので、私は懸命に考えながらそう真実を答えてみる。
するとニヤリと帯刀さんは笑う。


「夕凪に自尊心なんてないでしょ?こう言う時はありがたく受け取ればいいの」
「それ私を馬鹿にしてますよね?私にだって自尊心ぐらいありますよ。お年玉なんていりません」


あまりにも私を馬鹿にしたいい方でしかもあざ笑われてしまったため、私はヘソを曲げプライドを優先し突っぱね断った。
こればかりはプライドって言うより、意地なのかも知れないが。
でも私にも少しぐらいはプライドだってあるのに、即答で全否定するなんてあまりにも酷すぎる。


「そう?まぁ夕凪にお金で不自由させてるわけでもないしね」
「そう言うことでもありません。もうこの件はいいです。新年早々喧嘩なんてしたくありませんから」


これ以上話しても拉致があかない所か喧嘩が勃発しかねないと判断したため、自らこの話を強引に終わらせる。
血が上った私は例え最愛の人であっても私は平気で傷つけてしまって、もう後には戻れないかも知れないから。
それにもうすぐ龍馬達が新年の挨拶に来るから、二人仲良く出迎えたい。




「旦那様、奥様。龍馬さんとサトウさんがいらっしゃいましたのでお連れいたしました」「ありがとう、梅。いいよ通して」

グットタイミング言うべき梅さんが嬉しい知らせを持ってきてくれ、帯刀さんもそれどころじゃなくなったご様子。
そして梅さんは障子を開け梅さんの後ろから、のしを付けた魚を持った龍馬とアーネストが入って来た。
二人とも当たり前のように袴姿。
アーネストも和服もなかなか決まっている。


「龍馬、アーネスト。ハッピーニューイヤー」
「は、どんな意味なんだ?」
「我々のあけましておめでとうです。ハッピーニューイヤー小松婦人小松さん」
「そうか。なら俺もハッピーニューイヤー凪帯刀。いい寒ブリが手に入ったら土産だ」


外国の物にはなんでも興味津々の龍馬は早速その言葉を使い、帯刀さんに持っていた寒ブリを渡す。
お正月と言えば、寒ブリ。
龍馬のことだから脂の乗った上物の寒ブリなんだろう。

見てるだけでも、美味しそう。


「あけましておめでとう。これはなかなかだね。梅、早速調理してくれる?」
「はい、かしこまりました。それでは皆様ごゆっくりしていって下さい」


って帯刀さんは梅さんに寒ブリを渡すと、梅さんはそう言って障子を締める。
龍馬とアーネストは席につきその瞬間新年の宴会が始まりを告げた。


「それじゃぁまずは夕凪、みんなにお酒をついで。この場合誰からつぐのが正しいと思う?」
「普通は客人からですよね?」
「違う。家長の私からだよ」
「え、そうなんですか?」


突然のマナーの問題に昔の記憶を頼りに合っているだろう答えを言ってみるけれど、物のの見事に間違っていて帯刀さんの機嫌を少しだけ損なわす。
しかし私の答えは合っている気がして、納得いかずに逆らう発言をしてしまう。
それがどんな意味なのか知らずに・・・。


「夕凪、それはちゃんとした席での話。今は気の知れた集まりなのだから、それが常識なの。お仕置き」
「え・・・?」
「帯刀、お前相変わらずだな・・・」
「新年早々見せつけてくれますね」


無茶苦茶すぎる強引な理屈を言い捨てて、龍馬とアーネストがいるにも関わらず唇のキスをされ、その二人は呆れながらも笑顔で言ってくる始末。
顔を真っ赤に染めた私は、どうして良いのか分からず下を向く。


「帯刀さんのバカ・・・」
「馬鹿でも君に愛されているのなら、私は一公に構わない」
「・・・私、梅さんの手伝いをしてきます」


このままでは私の身が持たなくなりそうだったため、適当なこと言って部屋の外へと飛び出した。
心臓がばくばくして来て、今にも破裂しそう。

嬉しいことは嬉しいんだけれど、やっぱり他人の前だと恥ずかしい。
帯刀さんは恥ずかしくないのかな?




「凪、どうしたのですか?顔が真っ赤・・・帯刀に何かされたのですね」
「あ、シュウちゃん。・・・帯刀さんが人目を気にせず、口づけしてくる・・・」


とにかく落ち着こうと思い庭に出るとどこからか戻って来たシュウちゃんに出会い、私の異変に気づき問われるけれども意味を察したようでため息混じりで核心をつかれる。
シュウちゃんは適切なアドバイスをくれるから、今回も期待して私は小さく頷き訳を話す。
今ではすっかり私の頼りになる相談役。


「帯刀らしいですね。彼はきっと凪は自分の物だと予め宣言してるだけですよ。誰にも取られる隙を与えないように」
「そんなことしなくても私は帯刀さんだけの妻なんだから、浮気なんてするはずないよ。そもそも龍馬には好きな人がいるんだし、アーネストが私なんかを好きになるはずないじゃん」


確かにシュウちゃんの予想はあたっている気がするけれど、それだけはありえないから真っ向から全面否定。
私がもう少し性格が良くって美人だったらまだしも、今の私を好んでくれる物好きはいないと思う。

・・・あれ?
そしたら帯刀さんは物好きだから、私を愛してくれたことになるよね?
・・・・・・・。
・・・・・・・。
まぁ、いいか。


「それでも帯刀は心配なんでしょうね。そんなに嫌ならちゃんと拒否したらどうですか?」
「私に出来ると思う?」
「・・・無理でしょうね。なら少しだけお正月遊びを私として、一緒に戻ることにしましょう?」
「うん、そうだね」

シュウちゃんであっても結局今回ばかりは良いアイデアは出ずに、当初の予定通り気晴らしをして気持ちを落ち着かすことでまとまった。
それが負も可もない適切な判断かも知れない。
帯刀さんの機嫌を損なわせば、今以上に悪化するのは確実。


「なら福笑いなんてどうですか?」
「いいね。福笑いなら確かおもちゃ箱の中に入ってたはずだから」


と私は言って縁側に戻り、用意してあるお正月遊びを入れたおもちゃ箱から福笑いを探す。
アーネストも来るからいろいろ用意していて、頃合いを見計らってみんなと遊ぼうと思っていた。

日本を嫌っている癖して、本当は大好きなアーネストのために・・・。
龍馬はきっと二つ返事で一緒になって楽しんでくれるはず。


「夕凪、こんな所で何をしてるの?梅の手伝いはどうしたの?」
「・・・帯刀さん、どうしてここに?」


帯刀さんの怒った声がいきなり聞こえ、おもちゃ箱から視線を変え見上げればお冠の帯刀さんがいる。
冷や汗がたっぷりと噴射し、血の気が一気に引く。

いつもなら宴会に盛り上がって私の存在など忘れているのに、今日に限ってどうして私を探す?
しばらく、ほっとかれたかった。


「さっきはさすがに調子に乗りすぎたから一言謝るつもりで来たのに、どうして夕凪は相変わらずそんな残酷なことをするわけ?」
「私はただ心の整理をするために、遊んで気を紛らわそうとしただけです。・・・残酷なことなんてしていません」
「・・・だったらみんなですればいいでしょ?」


いつもなら訳を話しても問答無用でげんこつを喰らい怒られるだけなのに、今日はどう言う訳か怒らず意外な反応が返って来た。
拍子抜けした私は、首を傾げ帯刀さんを見つめる。


「え?でも、宴会は?」
「後でも良い・・・行くよ」
「あっ、待って下さい」


おもちゃ箱を持ってそれだけ答え帯刀さんは歩き出し、私は訳も分からずその後を追いかけるのだった。



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