夢幻なる絆
□イベント短編
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凪、英国公使主催のパーティーの意味を知る。
「さきほどは、すみませんでした。まさかあなたが小松婦人だとは思いもしませんでした」
「気にしなくていいよ。さっき結婚したばかりだしね」
会場に戻るなり心配そうにしたアーネストがやってきて謝罪されるけれど、私は帯刀さんがいる手前そう答え笑ってみせる。
謝ってわかってくれたんなら、それで良い。
「ありがとうございます。今夜は楽しんで行って下さい」
「そうさせていただくよ。確か今夜はクリスマスなんだよね?」
「ええ。今夜はイエスキリストが産まれた日で、大切な人と過ごしたり、このようなパーティーします」
「そんな習わしがあるんだね」
ここで初めてこのパーティーの意味を知り辺りを見せば、庭に大きなクリスマスツリーがあるのに気づく。
この時代にはまだイルミネーションがないのは残念だけど、それでも月明かりで輝いているようで綺麗だった。
そうか。
今日はクリスマスなんだ。
「どうやら小松婦人は、クリスマスツリーに興味がおありのようですね?」
「そのようだね。近くに行って見る?」
「え、あはい。是非」
ついその光景に見とれていると帯刀さんたちもクリスマスツリーに注目し、私の心を読むように言ってくれ私は嬉しくて帯刀さんの腕をつかむ。
「綺麗ですね」
「ああ、そうだね。未来の日本にはクリスマスは常識なの?」
「はい。アーネストの言う通り大切な人と過ごすのがほとんどです」
クリスマスツリーの前に来た私達は、仲良く肩を寄せ合い眺めながら会話は弾む。
でもそう答えてみた物の、私のクリスマスは毎年いつもと変わらない日だった。
年齢=彼氏なしの実態なんてそんなもの。
だけどそんな生活も昨日でおしまい。
だってこれからは・・・。
「ならこれからは、私と過ごすだね?」
「はい。もちろんです」
「私が幸せにしてあげるから、こうして私の傍にいなさい」
「・・・はい」
以心伝心かのように帯刀さんも私と同じことを思ってくれたらしく、そんな約束を堅くしてくれて私を抱きしめ微笑む。
寒い冬の夜なのに、心も体もすごく温かい。
これが幸せと言う物。
凡人以下の私が帯刀さんにこんな愛されているなんて、本当にこれが現実で良いのだろうか?
「帯刀さんは、私のどこが好きなんですか?」
「それは秘密。教えてあげない」
「本当に私のこと好きなんですか?後で冗談とか言ってなかったことにしないで下さいよ」
「するわけないでしょ?そんな馬鹿げたことをやって、私になんの得があるわけ?」
「うっ・・・なんにもない・・・」
自分の異姓の魅力がどうしても分からなくて聞いて見ても答えてはくれず、でも愛してはくれていて冗談でもないらしい。
確かに冗談で結婚もキスも、こんな公共の場には連れてこないだろう。
「だったら夕凪は、私のどこを愛しているの?」
「帯刀さんが教えてくれたら、私も教えます」
「夕凪にしては頭を働かせたね。でもその手には乗らないよ」
私の考えなどすべてお見通しらしく簡単に交わされ笑われるだけだった。
でももそれは楽しそうで怒る気がしなく、私まで笑みがこぼれる。
私今女性としても幸せなんだな。
いきなりの結婚だったけれど、間違えないよね?
私は一生この人について行こう。
何があっても、私はこの人を信じよう。
「私帯刀さんのすべてが大好きです」
「すべてね。いつから?」
「そそれは内緒です」
固くそう決心したら言ってしまったけれど、更なる核心の問いは秘密にした。
私だけそこまで言うのは、さすがに恥ずかしい 。
あまりにも私が帯刀さんのことをベタぼれしていることに気づかれたら、それを重く感じて私への愛が覚められたら凹むどころでわない。
いくら結婚出来たからと言ってもハッピーエンドではなく、あんまりだらけていたら愛想をつかれて離婚される可能性も十分にある。
って言うかこれからも、ありのままの私でいてもいいの?
帯刀さんは私のすべてを知って愛しているって言ってくれたけれど、それって本当に本当なの?
「夕凪そんなに心配しなくても、私は君が想っている以上に、君のことを深く愛している。だから自分に自信を持ちなさい。私が愛してるのは自分だけだとね」
「本当にいいんですか?私の愛が重すぎるとか言って、引かないで下さいよ」
「引くはずないでしょ?寧ろそこまで愛されたいね」
不安過ぎて嬉しい言葉のはずなのに信じられなくて念を押し暴露してしまうと、返ってきた答えは信じがたい言葉でしかも甘いキスをしてくれる。
・・・卑怯だ。
ここまでされたら、信じるしかない。
「その言葉絶対ですからね。イエス様の前で、約束ですよ」
そう言って私は帯刀さんの目の前に小指を差し出しお決まりの指切りをせがむけれど、帯刀さんはどう言うわけだが首を傾げて不思議そうな顔をする。
?
「何それ?」
「え、約束の定番指切りですけれど・・・知りません」
「ああ、知らないね。未来のまじない?」
「へぇ〜、幕末には指切りげんまんってまだないんですね」
初めて知った真実に、私は問題解決納得した。
「指切りはこうやって小指と小指を絡めて、歌いながら約束するんです。“指切りげんまん嘘付いたら針千本飲ます。指きった”ってね」
自分一人で納得しても知りたがり屋の帯刀さんにも教えないと納得してくれないと思い、解りやす帯刀さんの小指と絡めてやりながら説明をする。
指を絡めただけなのに、手を繋ぐよりもドキドキして意識してしまう。
これって普通?
それとも私だけ?
恋愛初心者には難題です。
「そう。しかしそれだと約束破った人より、針千本も用意する人の方が大変なんじゃない?それとも未来では簡単に用意できるの?」
「そう言うの屁理屈って言うんですよ。つまりこれは、絶対に約束を守ってね。ってことです」
どこかの悪ガキのような屁理屈を言ってくる帯刀さんに、私は頬を膨らませ本来の意味を教える。
でも本気になれば針千本ぐらい買えるかもしれない。
変人扱いされるのは確実だが。
「分かった。分かった。なら指切りしたら中に入ろう」
「なんかその言い方ムッとするんですが、そうですね」
完全に子供扱いに気にさわるけれどさすがにお腹も空いてきたのでその提案に乗り、私達はハモらせ指切りげんまんの約束をする。
これで一先ず安心?
「あれワルツの音楽。ダンスタイムかな?」
指切りが終わり屋敷に戻る途中、突然音楽が流れ始めて私は足を止める。
クリスマスパーティーにワルツ。
いかにも西洋パーティーだね。
「そのようだね。ワルツは男性と女性が組んで優雅に踊る踊り・・・夕凪は私と踊りたい?」
「踊れないからやめときます」
アーネストはどんな風に教えたのか解らないけれど、フッと過ぎる嫌な予感を断ち切るように私はきっぱり断る。
ダンスなんて踊れるはずがない。
「そんなこと言わない。私と踊りなさい」
「え、帯刀さん踊れるんですか?」
「サトウくんに手ほどきは受けたよ。なかなか筋がいいと褒められた」
「・・・・」
拒否権がないことと思っていない展開に、言葉をなくし愕然とした。
なんでもそつなくできる夫を持ってしまったことを、ほんの少しだけこれから先が重荷になってしまった。
私なんて出来ないことだらけなのに、なんでそんな帯刀さんはここまで優秀なの?
「そんな顔しない。私がちゃんとリードしてあげるから」
「だったらここでゆっくり踊りましょう?中で踊るのは、さすがに恥ずかしい」
「仕方がないね。なら今年はそれで勘弁してあげるけれど、来年は室内で踊れるようにしておくんだよ」
「うっ・・・がんばります」
泣き顔で懸命そうお願いすれば案外簡単に聞いてくれたけれど、当然と言わんばかりの交換条件を出されてしまい苦笑しながらも了解する。
普通の人なら一年もあるからラッキーなことでも、厄介事はなんでも後回しにしてしまう私にとっては真面目に難しいことだ。
そりゃぁ一年みっちり習えば話は別だけれど、私のことだから絶対後回しにして忘れるのがオチ。
そうならないように、明日から頑張ろう・・・。
「期待してるよ。ならお姫様、お手をどうぞ」
「はい」
って帯刀さんは王子様のように私の目の前に跪き手を差し伸べ、私は笑顔で手を取ってダンスはゆっくりと始まる。
「帯刀さん、メリークリスマス」
「メリークリスマス。夕凪」
・・・え?
ダンス中に何回帯刀さんの足を踏んだかって?
それは・・・ご想像にお任せします。