夢幻なる絆

□イベント短編
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私の編んだマフラーを暖かそうに巻いた帯刀さんと手を繋いで仲良く京の街を歩く。
今日は帯刀さんの誕生日。
もうケーキもプレゼントも渡し言葉でも沢山祝ってもうやり尽くした感はあるだけれど、時はまだ夕暮れ前だからまだまだ誕生日は続く。
結婚する瞬間までまったく考えられない事だったけれど、これからはこれが当たり前になって行くんだね?


「夕凪、随分ご機嫌のようだけれど、何かいいことでもあった?」
「帯刀さんと手を繋いで歩ける幸せを実感してたんです」
「それだけ?こんなのこれから普通になるんだよ」
「ですよね?だったら未来の恋人や新婚さん達の歩き方をやっていいですか?」
「いいよ」

もろ顔に出ていたんだろう帯刀さんに問われ答えると期待はずれだったのか素っ気なく言われるので、可愛らしくおねだりをして見ればクスッと笑い許可が出る。
ここだけの話帯刀さんだって、機嫌が良くいつもより表情が柔らかい。

「こうやって指を絡めて腕を組んで歩くんです」
「そう。確かに密着していて男としては嬉しいね」

腕を組むのは余計だけれどせっかくだからそう言うことにすると、帯刀さんは嬉しそうに手をギュッと握り普通に歩きだす。
少し恥じらう帯刀さんを期待していたけれどこのくらいでは動じることはなく、言い出しっぺの私の方が恥ずかしくなり離れようとするけれど許されるはずもなく余計密着するはめに。
行き交う人の視線が気になり視線を向ければ、多くの人が私達を見て微笑んで過ぎ去っている。
そんな中やっぱり感じでしまう痛すぎる嫉妬の視線。もちろん姿は見えない。

「帯刀さん、私と結婚する時男女の関係をすべて清算しましたか?まぁこの時代は入らないのかも知れませんが」
「一応、私は最愛の妻一筋だから側室や妾をとるつもりはないと伝え、今日の誕生日も家族以外の女性からの祝いの品は断ったよ」
「そうですか。それはありがとうございます」

つい小声で聞いてみれば迷いなくはっきり答えられ嬉しいけれど、だからこの嫉妬の視線を感じることに気づく。

帯刀さんを私のような普通以下の女性がいきなり現れ横取りして、それまで普通だったことが許されなくなってしまったから。
一体どのぐらいいるか分からないけれど、そんな女性達と対立しないといけないかも知れない。
もちろん愛の大きさなら負ける気はしない自身はある。
帯刀さんは私だけの夫。

「帯刀、凪」

遠くから誰かが手を降ってやってくるかと思えば、龍馬のでかい声が私達を呼ぶ。
明らかに私達に用事がありそうで、おまけに何か持っている。

「龍馬、何?今は妻と会瀬中なんだけれど」
「そんな嫌な顔するなって。今日はお前の誕生日だから、祝いの品を渡しに行くところだったんだ。誕生日、おめでとう。凪はもう渡したのか?」
「うん。手作りのお菓子と手編みの襟巻き?」

素っ気なく足払おうとする帯刀さんにもめげず、人情に厚い龍馬らしい答えが返ってきた。
私に聞いてくる辺り最初に渡すのはまずそうだったから、龍馬にも分かる言葉を選んで簡単に教える。

ケーキはお菓子。
マフラーは襟巻き。

襟巻きは格好悪いけれど、首巻きよりましだと思えるからしょうがない。

「良かったな。帯刀」
「ああ。妻の愛情がこれ以上もなく込められて暖かいよ。龍馬も妻をめとったら?」
「俺には心に決めた人がいる。お嬢は俺の運命のおなごたからきっとまたどこかで会えると信じてる」
「早く再会できるといいね?」

結婚するまで甘い言葉なんて縁がなかったのでまだ馴れるはずもなく聞いた瞬間、恥ずかしくて耳まで赤くなり小さくなる。龍馬は聞きなれてるのか、さらりと交わす。
そこまで龍馬に想われてる相手は幸せだなと思い再会できることを願うも、これが龍馬の一方通行だったら悲しき結末になるんだろうなと天の邪鬼な考えもしてしまう。
だから私は性格が悪いと言われる。

「私もそう思ってるよ。祝いの品は梅に渡しといてくれる?ありがとう」
「ここで受け取ってくれないのかよ?」
「だから私は妻と会瀬中と言ってるでしょ?妻に何かあったらどうするの?」
「ひでぇ。でもそうだよな。凪が躓いたらとっさに受け止められないか」
「そう言うこと」
「………」

私のことを大切にしていることは伝わるけれど、何気に酷い言われように言葉をなくす。

いくら真実でも、龍馬までひどい。

「そう言うことならしょうがないか。なら梅に渡しとくな。それにしてもお前らちっと密着過ぎなんじゃないか?」
「未来ではこれが普通らしいよ」
「そうなのか?未来は本当に面白いな。じゃぁ」

龍馬が物分かり良くそんな説明で驚きながら納得し、私達が来た道を駆け足で走っていく。
帯刀さんはホッとしたようで、私は今度は恥ずかしさはMAXを通り越す。

ひょっとして私はとんでもないことを教えてしまったのだろうか?
でも未来人は今の所私しかいないからそれが誤解だとしても誰にも分からないから良いけれど、そのせいで京の恋人や夫婦の歩き方がこうなったらなんとなく気まずい。
シングルの皆さんごめんなさい。

「これで邪魔者はいなくなった。所で私達はこれからどこに行くか分かる?」
「帯刀さんの好きな場所じゃないんですか?」

わざわざプレゼントを持ってきてくれた龍馬の扱いが雑で可愛そうに思っても肩を持つことはせず、いきなり聞かれた問いに首をかしげ微妙な答えを答える。
帯刀さんとならばどこでも良いから何も考えてなかったけれど、聞かれるとそれなりに気になり頭を回転させた。

帯刀さんの好きな場所と言ったら下鴨神社。
でも結婚式をあげたばかりだからそこじゃないと思うんだよね?
思い出の仁和寺は季節外れ……桜が満開になったらまた行きたいな。
帯刀さんの秘密のお気に入りの場所?

「夕凪少しぐらいは危機感を持ちなさい。何かあってからでは遅いんだよ」
「え、だって帯刀さんは私の夫なんですよ。夫にも疑うのがこの世界の常識なんですか?」
「そんなはずないでしょ?私の言葉は疑わないで信じてくれれば良い。消して裏切らないから」
「もちろんです」

なぜか私は注意されるけれどそれは間違ったことだから指摘すれば、すぐに納得できる内容に訂正されニッコリ笑い同じだと言う。
すると帯刀さんも優しい笑顔が浮かび、私はますます嬉しくなり帯刀さんが恋しくなる。

やっぱり帯刀さんと一緒ならどこだっていいや。

「子供が出来るまで帯刀さんは私だけの人です。誰にも渡しません」
「ありがとう。そういう独占力は好きだよ。愛されているのが良く分かる。そして私も独占力は強いからね?夕凪を誰にも渡すつもりはないよ」

思わず口に出してしまっても帯刀さんは嫌がらないどころか、同じことを言ってくれ抱き締めてくれる。

帯刀さんとマフラーの重なりあった温もりは最強で目をつぶり幸せを噛みしめるも数秒、ふと我に返り目を開ければ人々の注目をさらに浴びていた。
さっきとは違い冷たい視線だけが向けられていて、これには帯刀さんも真っ赤に顔を染めパッと私達は離れ視線も背ける。

心臓が激しく高鳴って許されるなら、今すぐここからダッシュで逃げ出したいです。


To be continued……?



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