夢幻なる絆

□イベント短編
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凪、帯刀さんを祝う。



今日は帯刀さんの誕生日だから朝からデートをしたかったのだけれど、帯刀さんは天下の家老様で忙しい人。
あっさり私の提案は却下されてしまい、仕方がないので秘書のまね事をしている。



「夕凪、夕方まで龍馬の所に遊びに行ったらどう?」
「行きたくないです」


真剣で凛々しい愛しき旦那様の横顔に見惚れて幸せを感じていると、いきなり意地悪な問いを投げかけるけど私はすぐに否定し大きく首を横に振る。

今日はずっと帯刀さんの傍にいたい。
でももし帯刀さんが私を邪魔に思っているのなら私は・・・。


「そう。ならお茶を持ってきてくれる?少し休憩にするから」
「紅茶でもいいですか?」
「ああ、構わない」


不安に思うのも束の間でどこか満足そうな帯刀さんの新たなる要望に、私は胸を張り聞き入れる。

どうやら私は例の如く試されていたらしい。
もし頷いて龍馬の所に行っていたら、夜は恐ろしいお仕置きが待っていただろう。




「いかにも旦那様らしいですね。それで奥様の愛情を計るなんて」
「やっぱり私ってまだまだ帯刀さんを愛しきれてないのかな?」


勝手場には梅さんがいたから今あったことを話すと、梅さんは笑いながら答え私は自信をなくしため息をつく。
自分なりには愛情を注いでいると思うんだけど、帯刀さんはそれでも物足りないとたまに言ってくる。


「そんなことないですよ。旦那様はわがままで独占力が強いだけですから、常に今以上の物を求めてるだけです」
「それならいいんだけどね」
「この誕生日ケーキを食べたら、きっと旦那様は素直になられます」


しかし梅さんは前向きに言ってくれて、あんまり触れてほしくないケーキの話題になる。
何がなんだか分からないグチャグチャに近い抹茶ロールケーキ。
あげないで一人で食べてしまうとも考えもしたんだけれど、アーネストにそれでも帯刀さんは喜んでくれたと報告してやりたい気持ちが強かった。
私達の愛は無限だって言うことを証明するためにもあげることにしたんだ。


「ねぇ本当にそう思う?私のこと幻滅しないかな?」
「しませんよ。旦那様の心をますます鷲掴みです。頑張って奥様」


と梅さんに応援され、見送られる。




「・・・夕凪、その得体の知れない物体は何?」
「ロールケーキって言う洋菓子で、誕生日ケーキとして私が作りました」
「夕凪の手作りね。なら仕方がないね。食べさせて」


やっぱり嫌そうに聞かれてしまい私はガックリしながら答えると、なぜかやたらに納得され急に甘えられてしまう。
それは私を馬鹿にされたかもしれないけれど、私を分かってもらえて嬉しかった。
やっぱり帯刀さんはアーネストと違って、私のことを分かってくれている。
何も心配する必要はなかった。


「もうしょうがないですね。はい」
「・・・すごく甘い。これが夕凪の私への愛情なんだね」
「そうですよ。私の愛情がたっぷり入った誕生日ケーキです」


そう言いながら食べさせてあげると、喜んでくれてニッコリと笑う。
幸せそうな笑顔にホッとすると同時に、帯刀さんが愛しくてたまらなくなってしまい唇をさっと盗みキスを交わす。
いつもより甘いキスの味。


「・・・これが夕凪の私への愛情の深さ。随分深く成長してるね。でももっと私を深く愛しなさい。これだけじゃ物足りないよ」
「・・・わがままですよ」


梅さんの予想がはずれやっぱり帯刀さんは満足してはくれなくてそれ以上を請求され、私はそう言って再びううん今度は帯刀さんを押し倒してディープキスをする。

今日ぐらいは十分満足したと言わせたい。
私がどんなに帯刀さんを愛しているのか、分かっていないのかも知れない。
世界で一番自分の命よりか大切で愛しているのに、なんで帯刀さんはいつもそう言う意地悪ばかり言ってくるのだろう?
私の愛は海より深いって分かって欲しい。


「今日の夕凪は随分積極的だね。まさか私への贈り物は自分自身って言うんじゃないだろうね?」
「違います。私のすべてはもう帯刀さんだけの物です。私の心も肉も血もすべて。帯刀さんになら、何をされても殺されても構いません」
「何をされてもね。・・・どうやら政務どころじゃないようだ」
「え?」
「出掛けるよ」


感極まって過激な発言を少々言ってしまい帯刀さんをその気にさせたらしく、仕事を放り投げデートをいきなりすることになってしまった。

私は秘書失格です。
でも・・・


「あ、その前にロールケーキ全部食べて下さい。・・・全部食べて欲しい・・・」
「そんな風に言わなくても、ちゃんと食べるからそんな目で私を見ない」
「もしかして帯刀さん、私に意識して興奮してますか?でしたら逢瀬しないで、私も食べますか?」
「!!夕凪、ひょっとして変な物でも、拾って食べた?」
「食べてませんよ。あっ、やっぱり帯刀さんの心臓すごい高鳴ってる。帯刀さんって可愛いですね」


がらになく私らしくない過激なことを言い続けると、帯刀さんもらしくなく赤面して声を裏返らす。
心臓も高鳴って、もう少しで爆発しそうだった。

いつもとは逆パターンになって、こう言うのも結構面白い。
私が攻めで、帯刀さんが受け。
たまにはそう言うことになっても良いかも知れない。


「・・・夕凪、それ以上したら、私の理性は完全になくなるよ。それでもいいの?」
「え、それでも良いのって・・・・」
「これでも私は夕凪を抱く時は、理性で本能を押さえてる。私の本能を晒したら、夕凪を傷つけることになるからね。それでもいい?」
「・・・よくないです。調子にのってすみませんでした」


しかしそれはもろくも崩れ去り帯刀さんの必死の問いに、恐れをなしてすぐに身を引く。
私は帯刀さんに何をされても良いと思っているけれど、なんかそう言われるとてつもなく恐くて良くなかった。

帯刀さんの本能って何?
あれ以上のことって・・・強姦?
愛されているのに、そう言うことになるの?




「帯刀さん、お待たせしました」
「それじゃぁ行くよ」


お出掛け用の着物に着替え玄関に行けば、そこにはすでに帯刀さんが待っていた。
すっかりいつも通りの余裕がたっぷりある帯刀さんに戻っていて、さっきはあんなに動揺してたとは思えない。


「はい。あその前にこれ私からのプレゼントです。首に巻くのでしゃがんで下さい」
「これを首に巻くの?何それ?」
「手編みのマフラーです。お誕生日おめでとうございます帯刀さん」


私にしてみればごく当たり前の物でもここでは珍しいのか興味津々で問われ、私はそう言って首に巻く。
帯刀さんの髪の色に合わせて、暗い緑色の毛糸で編んだマフラー。
これを作るのに、二ヶ月以上も掛かった。
最初はハート柄のペア−ルックにしようと思ったのだけれど、不器用で初心者の私には無謀過ぎる挑戦であえなく挫折。
一本が関の山だった。


「随分暖かい物だね。ありがとう。大切に使わせてもらうよ」
「喜んで貰えて嬉しいです。これで寒いこの冬も、大丈夫でしょう?」
「ああ」


すぐに気に入ってくれ満足そうな帯刀さん。
私もそんな帯刀さんが見ていると嬉しくて、今日の誕生日は私にとっても忘れられない日になりそう。


「ねぇ帯刀さん、来年も再来年も十年後も三十年後も、ずっ−と誕生日はこうやって私にお祝わいさせて下さいね」
「当たり前でしょ?夕凪は私の愛しき妻なんだからね。今日の夕凪を見て私はますます愛しくなって虜になった」
「本当ですか?嬉しいです」


恋愛小説でありがちな台詞を言って私はニコッと笑い帯刀さんの顔を覗き込めと、帯刀さんは私を優しく抱きしめてくれそっと耳元で甘い返事を返してくれる。


そして私達の唇は、重なり合うのだった。



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