夢幻なる絆

□イベント短編
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凪、七夕を楽しむ



「笹の葉サラサラ のきばに揺れる お星様キラキラ きんぎんすなご」

「凪くん、さっきから一体何をしてるんだい?」

縁側で梅さんからもらった折り紙で一人楽しく歌いながら作業していると、帯刀さんがやって来て不思議そうにそう問う。

少しうるさかっただろうか?

「今日は七夕なので、七夕飾りを作ってるんです」

「君は子供?それであの近所迷惑でしかないお経は何?」
「・・・わらべ歌・・・」

機嫌良く素直に答えれば、普通なら言えないことを相変わらずズバッと言って、私を凹ます。
まだ子供だけなら軽く受け流せたんだけれど、近所迷惑でしかもお経まで言われたらさすがの私もショックで受ける。
良く家族からまったく同じことを言われている。

「未来の?」
「・・・はい」
「そう。それにしても流石凪くん。ここまでいびつに作るとは、ある意味才能だね」
「どうせ私は不器用ですよ。静かにしますから、ほっといて下さい」

けなされるだけけなされた私は悪たれをついて作業を再開させるが、なぜか帯刀さんは私の隣に座り手を私の目の前に出す。

「手伝ってあげるから貸しなさい」
「え、別にいいですよ。政務の邪魔をしたくないですし」
「忙しかったら、ここにはこないよ」
「そうですか?ならお願いします」

意外にも興味を示す帯刀さんに折り紙とはさみを渡して、私は簡単な物を作ることにした。

まさか帯刀さんとこんな風に作れるとは思わなかったから、なんだかちょっ嬉しいかも知れない。
二人仲良く七夕飾り作り。




「凪くんは、毎年七夕飾りを作って飾ってるんだね」
「作っても飾ってもないですよ。大体十五年振りかな?」

しばらくして三枚わっか飾りを器用に作っている帯刀さんから話し掛けられ、三角作りを作り終えた私は平然とばかりに否定した。

一番最後に作ったのは、確か高校生だったはず。
あれ中学生だったけぇ?

「ならどうして?」
「ここは満天の星空ですから、織り姫と彦星が本当に逢いそうだと思ったんです。そしたら応援したくなって・・・」

反射的に答えてしまった私だしからぬロマンチック過ぎる理由に、言葉をなくし言ってしまったことをおもいっきり後悔する。

よりにもよって帯刀さんに言うなんて、私はどうかしてるよ。

「凪くんも意外と女性らしいね」
「・・・意外って言うのは余計です。私だって一応・・・乙女なんですから・・・」

爆笑はされなかった物の笑われてしまい、私は頬を赤く染め視線を泳がせ小声で痛いことを囁いた。

私はまだ恋も何も知らない乙女。
こう見えてもロマンチストなんだ。

「一応そう言うことにしといてあげる。それで肝心の笹・・・まさか用意してないとか言ったりしないよね?」
「いくら私でも、そんなヘマはしませんよ。笹なら龍馬に頼んであります」
「へぇ〜、龍馬にね・・・」

どこぞのギャグ漫画展開を真顔で予想する帯刀さんに私はムッとなりそう生意気に言い返すと、なぜか帯刀さんの様子が変わり声のトーンを目茶苦茶低くくし私を鋭い視線で睨む。
怖い。

良く分からないけれど、私帯刀さんの逆鱗に触れ掛けた?
なんか怖いから、話を変えよう。

「あ西郷さんが美味しい西瓜とお酒を持ってきてくれるって言ってました。梅さんはご馳走を沢山作ってくれるって言ってたし、楽しみだな今夜の七夕」
「西郷にも伝えてるんだね?主である私に許可なく、何をするつもりでいるんだい?」
「・・・七夕の宴会。帯刀さんは政務で忙しいから、直前に誘うつもりでいました。それじゃぁ駄目でした?」
「ああ、駄目だよ。そんなことしたら」

話を変えたつもりが余計帯刀さんの機嫌を損なわしたらしく、思ってもいなかった展開に発展しバッサリ私の計画をきり捨て崩される。

酷過ぎるけれど、良く考えれば当たり前かも知れない。
ここの主は一応帯刀さんなのに、居候である私が無断で宴会を企画する。

・・・そんなのダメに決まってるじゃん。
こんなことなら西郷さんの言う通り、帯刀さんに一言言っておけば良かった。

「ええ〜そんな。せっかくこんなに飾りを作ったのに・・・」
「飾ることは特別に許可してあげる。短冊に願いを書いてつるすのもね」
「うう・・・」

駄目だと分かっていても納得はしたくなく駄目元でそう言ってみれば、飾ることと願うだけ許され後はやっぱ却下のまま。
文句を言いたくても言えず、大人しく私は我慢するしかなかった。






「五色の短ざく 私がかいた お星様キラキラ 空から見てる」

満天の星空を眺めながら、私は一人寂しく歌を歌い肩をガクンと落とす。
本当なら今頃はみんなで楽しく七夕をしていたはずなのに、現実庭に出ているのは私と猫ちゃん一人と一匹だけ。
寂しすぎて虚しくて泣けてくる。

「ニャ〜ン」
「猫ちゃん、私を励ましてくれるの?ありがとう」
「ニャ〜ン」

そんな凹みまくる私の足下をすり寄ってくる猫ちゃんに少し元気を分けてもらい、猫ちゃんを抱き上げ飾った笹の元に行き見上げる。

人脈ありまくりの龍馬らしく、持ってきてくれたのは2m以上ある大きな竹。
その竹の笹に私と帯刀さんが作った飾りと、みんなそれぞれの願いを書いた短冊を、みんなでワイワイ言いながら楽しく飾った。
宴会ができなくなったと言っても龍馬と西郷さんはイヤな顔一つせず、快く最後まで手伝ってくれたんだよね。
本当にいい人達だ。

「そう言えばみんなどんな願いを書いたんだろう?・・・内緒で読んじゃおう」

本来好奇心旺盛な私はそう呟き、早速短冊を盗み見ることにした。

「え〜と。国の洗濯 坂本龍馬 国再建 西郷隆盛 平等社会 小松帯刀 あの三人ってやっぱ国のことしか頭にないんだね。尊敬の値に達するよね?」

予想通り三人らしい堅い願いに私は苦笑する物の、この人達のおかげで未来の日本があるんだなと改めて実感した。
そして私は、すごい人達に囲まれていることにも再確認する。

でもそれだけでは物足りず、私は他にも短冊はないかと捜す。
いくら彼らが志がある士であろうとも、それだけでは終わらないと考えた。



「お嬢と会えますように 坂本龍馬  やっぱ七夕なんだから、こう言う願い事もないとね。え〜と後は・・・○○が私だけの物になりますように 小松帯刀 何この願いは?」
「他人の短冊を読むなんて、感心しないね」

奥から見つけ出したもう一つの龍馬と帯刀さんの短冊。
龍馬のらしい願いはともかく帯刀さんの願いに頭を悩ませてると、背後から帯刀さんのどす黒い声にもっともなことを注意される。
迫力って言うか威厳があり過ぎて、血の気が引き顔を真っ青に青ざめる私。

「た帯刀さん・・・」
「凪くんの願いは、玉の輿にのれますようにと、みんなが今のように、仲良く笑って過ごせますように・・・ね。凪くんらしい単純な願いだ」
「単純だけれど、それが一番だと思います。私今が幸せだから。・・・玉の輿は書いてみただけなので、気にしないで突っ込まないで下さい」

案の定私の短冊を読まれてしまい少しだけ馬鹿にされるが、私なりに真剣なことを伝えもう一つの願いは闇に葬ろうとする。

玉の輿。
これは最早高校時代からの口癖のような物で、あまり本気に考えたことはなかった。
確かに玉の輿にのれたらラッキーだけれど・・・。

「今が幸せなんだ。私はそうじゃないよ」
「世の中平等じゃないからですか?」
「それもあるけれどね。私が一番欲しい物が手に入らないから」
「それって○○のことですか?」
「そう。触れられるほど私の近くにあるのに、なかなか手に入らなくてね。これでも結構切羽詰まって、焦り始めてるんだよ」

自ら私の知りたい○○の話をしてくれた。
○○のことを何かとまでは教えてくれなかったけれど、それをどうしても手に入れたいと言う熱意は伝わってくる。
帯刀さんなら少し努力すればなんでも手に入りそうな気も知るのだけれども、世の中にはそうじゃない物もあるらしい。

それでも帯刀さんは、それが欲しい?

「他の物じゃ駄目なんですか?」
「駄目。変わりの物なんて、私は欲しくない。 諦める気もないね」
「ふ〜ん。いつか手に入ると良いですね。私も応援しますから、手に入れたら教えて下さいね」

私にはまったく分からない感情ででも羨ましくも思えたから、心から私は帯刀さんを応援することに決めた。

代用が効かないほど、それが欲しいと言う強い気持ち。
素敵なことだ。

「・・・本当にそれは、強者なんだよ。どうすればいいんだろうね?」
「大丈夫ですよ。きっと織り姫様と彦星様が叶えてくれます」
「そう?それならいいけどね」

と私は明るく希望が持てるように言うと、帯刀さんは少し安心したらしくそう言葉を返してくれる。

そしてしばらく私達は、満天の星空を見上げて眺めていた。

本当も何も根拠はなかったけれど、こんなに星が綺麗だから信じていればきっと願いは叶うはず。



・・・そう言えば、○○って一体何?



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