夢幻なる絆
□イベント短編
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凪、サンタの名誉を守る?
「え、マリアちゃんがサンタクロースを信じてる?」
「はい。ですから二人はマリアの話に合わせて下さい。お願いします」
「分かりました」
「私も分かった」
今夜のクリスマスパーティーの準備を南方先生としていると、渓がやって来て信じられないことを頼まれてしまい了承する。
サンタを信じてるなんていかにもマリアちゃんらしいけれど、どうやったら十四歳まで信じていられるのか不思議に思う。
一体マリアちゃんはどんな生活を・・・渓がその辺徹底的に考慮していたとか?
渓ならあり得るな。
「ありがとうございます」
「凪、これでいい?あれお兄ちゃん?」
話が終わった直後飾りつけが足りなくなり買い出しにいっていたマリアちゃんが戻ってきて、私に荷物を渡し調理担当の渓がいることに疑問を抱いたらしい。
「どんな様子か見に来たんだよ。買い物ご苦労様。ご褒美のクッキーだ」
「ありがとう」
「買い物はOKだよ!じゃぁクリスマスツリーの飾りつけをしようか?」
クッキーを嬉しそうにもらうマリアちゃんに、装飾班のメインイベントを口にする。
龍馬がどっかから持ってきてくれたツリーにちょうどいいもみの木
飾りは数日前から作り出した木彫りにお菓子で折紙で作ったオーナメント。
林檎やお菓子も飾る予定だ。
綿は普通にあったから問題ない。
「うん。それと靴下がなかったから、巾着袋も買ってきた。ここにもサンタは来る?」
「もちろんだよ。今年もお前はいい子だったからな」
靴下がなぜ巾着袋になったのはあえて聞かないことにするとして、本当にサンタを信じているようで渓の答えに嬉しそうだった。
それを見ていたら私も全力でサンタの名誉を守ろうと思う。
と言っても私と南方先生以外サンタクロース何て知らないだろうから楽勝。
「マリアちゃんはサンタに何を頼んでるの?」
「頼む?サンタから貰うプレゼントは指定できない。凪は違う?」
「え、あ私はもう大人で人妻だから、サンタはもう来ないんだよ」
「ふ〜ん。なら仁は?」
いきなり墓穴を掘ってしまったが、なんとかうまい具合に切り抜けられた。
サンタクロースは男性と言う設定だから、人妻にプレゼントをしたらまずいことにしよう。
しかしそのとばっちりを受けたのは南方先生で、答えに困り果てている。
「私ももう大人と言うかいいおじさんなので、サンタは来ないんです」
「サンタが来なくなったら、大人だって証拠なんだよ」
「ならお兄ちゃんにも、来ていない?」
「まぁな」
「そうなんだ。私にもいつかサンタは来なくなる?」
寂しそうにマリアちゃんは問うと、渓は何も言わずマリアちゃんの頭をなぜる。
いつかマリアちゃんもサンタの正体を知ることになるだろう。
でもそれはまだ先の話・・・じゃなかった。
思わぬ刺客によって無垢な少女の思いは、あっさりと打ち砕かれることになる。
そうサンタを知る人物は、私達以外にもいることをすっかり忘れていた。
「凪、サンタがいないって本当?」
「え、誰がんなこといったの?」
今にも泣き出しそうなマリアちゃんが私の部屋にやって来て、沈んだ声で私の目を見つめたまま問う。
ビックリした私は、大きめな声で問い返す。
いきなりですか?
「アーネスト。サンタの話をしたら、サンタは空想人物だって言い張った」
「ぶっ殺す!!」
「え、凪?」
答えられた名前を聞いた瞬間、私は部屋を飛び出した。
そう言えばアーネストは 、サンタの存在を知っている。
しかもアーネストは腹黒で意地悪だ。
嫌み混じりで言ったに違いない。
私だけなら許せるのに、マリアちゃんまでに言うのは最低。
それなのに私はなぜ彼を忘れて、野放しにしてたんだろう?
「アーネスト!!げっ止まらない?」
「え、凪さん?」
アーネストが視界に入り怒鳴りながらな名を呼びブレーキを掛けようとしたけれど、急には止まることは出来ず驚くアーネストに突っ込み激突。
アーネストを下敷きにして派手にこける。
「夕凪、廊下は走らないとあれほど言っているのに、どうして未だに分からないの?」
「え、帯刀さん?いたんですね」
「いた?いたらいけない?ここは私の家だよ」
無茶苦茶機嫌の悪い帯刀さんのあきれ果てた声に気づき、思わず冷たい台詞を投げ掛けてしまうとさらに悪化。
こめかみを痙攣させ当然な答えを言いながら、私の耳を引っ張り自分の元に引き寄せる。
逆鱗に触れたのですね?
「・・・お帰りなさい。あなた」
「駄目だよ。今さらそんな甘い声を出しても、遅いよ」
「うっ・・・。だってアーネストがいけないんです。マリアちゃんに意地悪を言うから」
いつもなら効果抜群であるはずの必殺技が通用せず、余計冷たい視線で見られ私の悪い癖が発症してしまう。
悪いのは私なのに、他人のせいにする。
まぁでも今回ばかりは、そう言えなくもないけれど。
「私ですか?私はただマリアに真実を教えただけですよ。いくらなんでもサンタクロースを信じる歳ではありません」
「いいじゃない?マリアちゃんの心はピュアなの。アーネストが見たいに性格が歪んでないんだからね?」
「言いますね?まさかあなたもサンタクロースを信じているのでしょうか?」
自分が悪いなど思っていないアーネストはきついお言葉だけでは終わらず、忠告する私のことをみくだしあざ笑う。
頭に血が上る。
これは本気で言っているのだろうか?
「んなわけないでしょう?あんまり私を馬鹿にしないでよ」
「・・・やっぱりサンタはいないんだ・・・」
「え、マリアちゃん?」
「・・・・・・」
勢いあまって声を上げ否定した瞬間、背後からさっきよりも更に悲しげなマリアちゃんの声が聞こえた。
ハッとして振り向けばコロを抱きしめたマリアちゃんがいて、口を塞いでみたけれどすでに遅し。
アーネストではなく私がマリアちゃんを傷つけてしまった。
マリアちゃんは無言のままどこかに行ってしまう。。
どこか淋しそうな後ろ姿に、私までなんだか悲しくなる。
「どうやら私達はとんでもないことをしてしまったようですね?まさかあそこまで落胆するとは思いませんでした」
「私は関係ないから二人でどうにかしなさいと言いたい所だけれど、そう言う訳にもいかないから協力してあげる。それでサンタとは、一体何?」
ようやくアーネストも自分のしでかした過ちに気付いたようで気を大いに落とし、毒牙を吐く口を黙らせ柄にもなく反省しだす。
唯一この中で関係のない帯刀さんさえにもこれには緊急事態を感じたらしく、ため息交じりでもありがたい言葉を言ってくれる。
しかしサンタを知らない帯刀さんは、まずはそこからの説明をしないといけない。
「サンタと言うのはクリスマスイブの深夜にトナカイが引いている空飛ぶそりにのってよい子にプレゼントを配る、恰幅の良いひげを生やしている赤い服を着たお爺さんのことです。でもそれはお話に出てくる人で、本当はサンタは両親なんですよ。普通は十歳までにはばれるんですが、マリアちゃんは未だに信じて疑わなくって・・・」
「そう・・・。サトウくん、マリアくんに無粋なことを言って、傷つけたという訳ね。マリアくんは夕凪と違って、繊細で傷付きやすいのだから気をつけなさい」
「そうですね・・・・。口は災いの元とはこう言うことですね。反省してます」
「・・・そこで私と比較しないで下さい・・・」
簡単な説明をさらりと終わって帯刀さんも納得してもらったのは良いけれど、私と比較されしかもアーネストはそれで納得する。
帯刀さんがマリアちゃん傷つけた時も、やっぱり私をダシにされたて悲しい思いをした。
真実なだけにそう言うことは言わないで欲しいのに、いつもいつも・・・私って損で可愛そうな役割だな。
「こうなった以上、マリアくんにすべてを話しなさい」
「やっぱりそうなりますよね・・・。アーネスト、お願いだからこれ以上腹黒発言は辞めてよね?」
「分かっています。もうマリアには、本音で話しません」
「英語も禁止。マリアちゃんは英語も分かるんだからね」
「・・・努力します」
アーネストに釘を刺し二次被害を事前に防ぐのだけれど、あんまり期待の出来ない心細い答えに不安は積もるだけ。
それに私も無自覚で余計なことを言いそうで、説明をするのが怖かったりする。
説明するのは苦手だ。
「マリアには俺から説明します」
「・・・渓?」
「渓、すみません」
「いいんです。いつかこう言う日が来るのを予想していましたから・・・」
運悪く渓にも話を聞かれていたようで怒られると思いきや、怒ってないどころかショックを隠せず沈んだ受け答えをするだけだった。
こうなると更に罪悪感が増して、そう言う訳にはいかなくなる。
確かにサンタの正体を教えるのは渓が適任だとは思うけれど、その後のケアーは私達にも出来るはずだと思う。
何がマリアちゃんにとって一番良いケアーなんだろう・・・・あっ?
良いことを思いついた。
「渓、私達が江戸の子供達のサンタクロースになろうよ!!マリアちゃんにも手伝ってもらうの」
「それはグッドアイデアかも知れませんね?」
「夕凪らしい突拍子のない思いつきだけれど、四神達に協力してもらえばなんとかなるでしょ?渓、それで良い?」
「はい。マリアも喜ぶと思います」
高い確率で速攻却下の私の提案だけれど、今回は三人とも乗り気になってくれて話は進んでいく。
そして深夜
「みんな今夜は宜しくね」
「凪の頼みならこれしきのことどうってことない」
「それに凪の心意気は私も感銘しました。さすが私達が認めた神子ですね」
「フム。それにとっても楽しそうだから、私も思う存分楽しむぞ」
「そうだな」
あれからみんなで手分けしていろいろ準備をして最後に四神達にお願いをすると、いつも通り嫌な顔せず快く承諾してくれる。
これですべての準備は整った。
四神達がトナカイ代わりにするのは申し訳ない気もするけれど、幕末らしいと言えば幕末らしいサンタかも?
「・・・私にサンタが出来る?」
「出来るよ。マリアならきっと良いサンタになれるから」
サンタの真相をすべて知ったマリアちゃんはまだどこか元気がなく、でも一生懸命手伝ってくれて今は可愛いサンタ姿で不安そうに渓を見上げる。
渓はそんなマリアちゃんの頭をなぜ優しい笑みを浮かべながらそう言う。
私もそう思う。
そしてサンタの本当の意味を分かってくれる。
「じゃぁ手分けしてプレゼントを配ろう」
「ああ、そうだね」
「よっしゃぁ、アーネスト、アオ、気合い入れて頑張るぜ」
「・・・龍馬さん、相変わらずの熱血ですね」
なぜか龍馬が加わりこの中で一番張り切っているようで、自動的に組まされたアーネストはすでにお疲れ気味のご様子。
いつもならここで英語の毒舌を吐いて見くだすのだけれど、今回はマリアちゃんがいるため大人しく当たり障りのない言葉を言うだけだった。
それでも本心はやっぱり真っ黒だろうね?
「これで私達の担当の分は、無事に終わりました。今夜は楽しかったですね」
「楽しい?私は夕凪がそりから落ちないかとか、ヘマをしないとかが心配で仕方がなかったよ。出来ることならもう二度とやりたくないね」
「あはは・・・。それはすみませんでした」
プレゼント配りが私としては何事もなく無事に終わり暢気な感想を言うけれど、帯刀さんにとってはそうでもなく正反対と愚痴を叩かれる。
言われてみれば思い当たる部分もあり、苦笑して謝ることしかできない。
この分だと来年は多分出来ずに、私の世界で言う都市伝説となるするだろう。
「それに来年からは我が子のサンタになるだけで良いでしょ?」
「あ、そうだ。私達はこれからこの子のサンタになるんですね」
そう言いながら帯刀さんは私のお腹をさすり、私もそれに気づき帯刀さんの手の上に乗せる。
来年は子供が生まれて、親子三人で過ごす最初のクリスマス。
こう言うサンタは嫌な帯刀さんでも、我が子のサンタは進んでやるらしい。
なら今年は二人で迎える最後のクリスマス。
それがサンタクロースになって、プレゼントを配った。
忘れられない思い出になったね。
・・・私だけだけど・・・
「そう言うこと。夕凪、寒くない?」
「寒くないですよ。帯刀さんに抱きしめてもらってるから暖かいです」
「それなら良かった。じゃぁシロ、もうしばらくそりを引いて飛んでいてくれる?」
「小松帯刀はいつも我を・・・凪のためだと思えば、やむをえん」
「なら私は大好きな凪のために、これをプレゼントしよう」
「え、あ雪だ!!」
クロちゃんが言ったと同時にしんしんと雪が降ってくる。
初めてのホワイトクリスマスに私は目を輝かせ、反射的に帯刀さんの顔を覗き込む。
すると帯刀さんも笑顔で顔が近づいてくるので目を閉じると、まもなく唇は重なり合った。
私達のそりの鈴はリンリンと鳴り続け、まるで童話見たいなワンシーンを体験しているんだと思う。
『メリークリスマス』
今年も私は最愛の人と、クリスマスを過ごせている。
おまけ
マリアちゃんは言うとすっかりサンタに気に入ったらしく、来年もやりたいと楽しそうに話ていた。