夢幻なる絆

□イベント短編
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凪、帯刀さんを祝う2




「今日は政務を休んでくれて、本当にありがとうございます」
「その分この数日寂しい思いをさせてすまなかったね」
「いいえ。私が頼んだ結果なので、そのぐらい予想してました」

帯刀さんの二度目の誕生日。
今年は少しワガママを言って帯刀さんに休んでもらい、私の提案で思いきって遠出してお泊まりをすることに。
帯刀さんの言う通りここ最近深夜帰宅が続いていたけれど、今回は理由が理由だけに嫉妬することもなく平穏に過ごせた。
そりゃぁ寂しかったけれど、その分一杯甘えればいいだけ。
遠出したかったわけは、以前から龍馬と教室で習っていた乗馬技術を初披露したかったから。
運動音痴の私でも、一年でようやく人並みになったんだよね。

「それにしてもどうして私に黙っていたの?言えばいくらでも私が教えたよ」
「ビックリさせたかったんです。それにこれ以上帯刀さんに負担をかけさたくなかったから」

それについてちょっとご機嫌ななめな帯刀さんに、小声で申し訳なく訳を話す。
帯刀さんにはすでに琵琶を習っているんだけれど、悲しいほど上達しない。
だからこれ以上教えてもらうのは悪いと思ったし、そもそも私には危ないと言って教えてくれない恐れがあった。

「今さら負担が一つや二つ増えても問題はないよ。龍馬に教えてもらっていたことが、何よりも面白くない。夕凪にとって龍馬はなんなの?」
「異性の親友。それ以外に考えられません」

何度となく聞かれた嫉妬でしかない問いに、私はその度に同じ答えをはっきり答える。
うんざりして解決策は龍馬と会うのを控えることだと思うけれど、きっとそれはそれで帯刀さんはよく思わないだろう。
私の交流関係を制限させたくないはずだから。
矛盾だけれどね。

「そう、それならまだいい。今日は私のことだけを考えなさい」
「はい、そのつもりです。ですから早く行きましょう?」
「そうだね。でもあまりはしゃぐんじゃないよ。落馬したら大変だから」

今日はいつもより機嫌が早くなおりそんな約束をして、私はなずなを強く叩きペースを早める。
早く行きたい気持ちが先回りして帯刀さんの忠告など聞かずにいると、馬までもがドジなのか何かに躓きバランスを崩しそのまま落馬。
何もかもが一瞬の出来事で、意識は突然消えた。







「あれ?」

次に意識が戻った時は、我が家だった。
頭がズキズキして、ふあふあもするし変な気分。
回りには帯刀さんと南方先生。
それから咲ちゃんが、不安げな表情で私を見つめている。

「夕凪、良かった」
「我々が分かりますか?」
「え、あはい」

意味不明な南方先生の問いに、訳もわからず頷く私。

分からないはずなんて・・・そう言えば私落馬して意識をなくした?
だからみんな私のことを心配してるんだ。
落馬する寸前で意識をなくしたから状況が分からないけれど、走り出した落馬だから多分大事になっていたと思う。

「夕凪、私の誕生日を妻の命日にしたかったの?」
「帯刀様、そんなこと凪様がするはずないですか?」
「そうですよ。落ち着いて下さい」
「私は落ち着いてるよ。夕凪にはきつく言わないと、また同じ過ちを繰り返す。私がどんな思いでいたか、教えないと分からない」
「・・・私達は一度席を外しますね。咲さん、行きましょう?」
「はい」

問答無用で雷を落とす帯刀さんに最初は咲ちゃんと南方先生が仲裁をしてくれるが、事情を知り理解したのかそれ以上なにも言わずに潔く身を引く。

私もどうして帯刀さんがこんなに怒っているのか分かっているから、何も弁解せず心に刻み聞いている。
滅茶苦茶心配させたんだ。
私が怨霊に襲われた時と同じ。

そして南方先生と咲ちゃんがいなくなった瞬間、私は帯刀さんにきつく抱き締められる。

「私は愛する妻を失いたくない。だから乗馬は今後禁止。いいね?」
「分かりました。心配かけて、すみません。今日は帯刀さんの誕生日なのに、私ったら何をしてるんだろう?」

それしかもう言えなくて、いつの間にか綺麗な夕日が沈みかけている外を見て悔やむ。

本当なら今ごろ横浜を観光して、美味しい夕食を景色をしていた。
まぁ梅さんの料理だって美味しいから、それだけなら別にいいんだけれど。
私はいつも肝心なとこでドジを踏む。

「まったくだよ。本当に君が張り切るとろくな結果を生まないね」
「ごもっともです・・・」
「でも今回は私を喜ばそうとしてやったことだから、多目に見てあげる。それから私の喜びは、夕凪が感じる平凡な幸せでいいんだよ」

私の反省を感じ取ってくれたのかいつものように優しい帯刀さんに戻り、それかららしくない言葉を言いそっと口づけをくれる。

平凡な幸せ。
それはこうして二人だけで時を過ごすこと。
場所なんて、どこだっていい。

「ありがとうございます。帯刀さんがそう言ってくれて嬉しいです。なら今日はずーと私の傍にじゃなくて、私が帯刀さんの傍にいますね」
「今日は・・・一生じゃないの?夕凪はもう私の物なのだからね」
「それはそうですけれど、この場合の傍にいるのは片時も離れないと言うことだから」

絶対構っていると分かっていてもまともに答える私を、帯刀さんは可笑しそうにクスクスと笑う。
私は帯刀さんの物はあっているから、今さら激しく動揺はしない。

「知ってる。なら今日はけして離さない」
「え、そう言うことでもないんですが・・・」
「駄目。それは認めない。今日は私の誕生日なのだから言うことを聞きなさい」
「分かりました・・・」

それも冗談と思い反論してみたけれど、卑怯すぎる言い訳をされ頷くしかなかった。
どうやら本気らしく、私を抱いたまま明日まで過ごす気でいる。
そのどこが楽しいのか疑問だけれど、本人の希望なのだから仕方がない。
でもトイレとか食事とかはどうするんだろう?

「それで、誕生日プレゼントは何をくれるの?」
「今年は万年筆です。私の世界で高級な物を買いました。・・・あげたいのですが、これではあげられません」
「なら明日で良いよ。ありがとう夕凪」

早速不可能が生じどうにかしようと思えばあっさり先送りされてしまい、一応お礼は言われ私と一緒に横になる。
怪我人の私を気遣ってくれる優しさで、これではどちらかの誕生日なのだがわからない。

・・・それでも帯刀さんは楽しそうだから、まだいいのかもしれないけれど・・・

「来年は期待してて下さいね。今年の分も精一杯お祝いしますね」
「来年・・・ね。期待してるよ」
「はい、任せて下さい。帯刀さん、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。・・・少し休みなさい」

期待してもどうせろくな結果にならないと分かっているのにそれでも帯刀さんは期待してくれ、私はますます張り切ってしまい来年もまた期待ハズレになるおそれが大となる。


だけど今はまだそこまで考えられず、帯刀さんの心地よい温もりの中で眠りにつくのだった。




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