夢幻なる絆

□イベント短編
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凪、祝ってもらう。




「夕凪、朝だよ。起きなさい」
「んぅ?・・・おはようございます」


帯刀さんに珍しく優しく起こされ、私は眠い目を擦りながらゆっくりとあける。
すると当たり前だけれど帯刀さんの笑顔がまず一番最初に飛び込んできて、私の顔も自然と笑顔になり帯刀さんの顔を触り存在を実感した。

今日も私は帯刀さんの傍にいられる。
それだけで私は幸せだから、それ以上は何も望まない。


「おはよう夕凪。そしてお誕生日おめでとう」
「え、あそうか。今日は私の誕生日だった」


言われてそのことを思い出し、完全に目が覚める。
別に忘れていたわけではなく今日と言う日を数日前から楽しみにしていたんだけれど、目覚め直後と言うこともあり一瞬だけ忘れていた。

今までの誕生日は良くて友達にお祝いされるぐらいだったから、愛する人にお祝いされる誕生日はもちろん今年が初めて。
おめでとうのたった一言だけでも、こんなにも嬉しい物なんだね。


「龍馬達が祝いたいと張り切っているから、寺田屋で宴をする予定になっている」
「本当ですか?楽しみだな」
「私に祝られるよりも?」
「そんな意地悪言わないで下さい。そんなの帯刀さんに祝ってもらった方が、何十倍も嬉しいに決まってます」

思ってもいない誕生日になりそうで胸躍らせていると、お決まりの問いを問われこれにはなんなく答え難を逃れた。

いくら私でもその問いの正しい答えはもう学んでいるし、龍馬達には悪いけれど本当に帯刀さんに祝ってもらった方が幸せだと思ってる。
だって愛しい旦那様だからね。


「そう。それなら良かった。夕凪のためにいろいろ用意しているから、楽しみにしていなさい」
「はい」


いつもより張り切っている帯刀さんはそう自信ありげに言うと、私をギュッと抱きしめてくれて本日最初の口づけをくれる。

帯刀さんがそう言うからには私なんかの凡人には到底考えられない、サプライズが用意されているんだと思う。

それともいつものようにお金に糸目を付けない豪華なプレゼントなのかも?
そう言われると期待しないでいようと思っていたのに、やっぱり期待して滅茶苦茶楽しみになってしまう。

今日は私の誕生日だもん。
期待したって罰は当たらないよね?


「ならこれは贈り物。私の手作りだよ」
「帯刀さんの手作り・・・。ありがとうございます」


と帯刀さんは言って私にプレゼントを手渡してくれ、思ってもいない物に驚きそして喜びギュッと抱きしめる。

まさか帯刀さんのプレゼントが、手作りだとは夢にも思わなかった。
私にとっては宝石よりも高価で価値がある物。

そしてすぐにワクワクしながら箱を開けると、薩摩切子だろうか細かい細工の綺麗な緑色のネックレスが姿を見せる。
手作りだと言っていたはずなのに、売り物になってもおかしくない出来前。
しかも薩摩切子なんて滅茶苦茶高級な品。
さすが帯刀さんというべき物だろうか?


「どう気に入った?」
「もちろんです。・・・付けてくれますか?」
「いいよ。ならこれからは付けるのも外すのも私の役目だよ。毎日やってあげるから、勝手にやったら駄目だよ」
「・・・はい」


調子にのって甘い声で甘えてみると快く承諾してくれたけれど、ペンダントを付けながらとんでもない約束を拒否権なく交わされる。
でもそれはすごく恥ずかしいことなのに、すごく嬉しいことでもあり反対する理由もない。
これは帯刀さんの物である証みたいだ。

ひょっとしてそれが目的で、私にくれたのかも?
帯刀さんなら十分ありえる話である。







『凪、お誕生日おめでとう♪』
「ありがとう」


龍馬の言われた刻限に帯刀さんと池田屋に行き中居さんの案内され襖を開けると、みんなの声がハモりお祝いしてくれる。
四神達と龍馬とアーネストだけでなく、梅さんや西郷さんまでも揃っていた。

みんな忙しいのに、私のために集まってくれたんだね?

そう思ったら嬉しくて感動してしまい目がらしが熱くなるけれど、ここで泣いてしまったらみんなに笑われるだけだからグッと堪える。
私はこんな涙もろい奴じゃなかったのにおかしいな。


「奥様、やはりその着物を召されたのですね」
「梅から聞いたぞ。その着物はご家老からの最初の贈り物なんだってな」
「うん。だから私の一番のお気に入りなんだ」


運良く明るい話題に変わり、私は笑みを浮かべみんなの前でくるりと一回転。
今日は特別な日だから私のお気に入りでコーディネートしてみた。
かんざしも私が帯刀さんを好きだと気づいたきっかけになった物。

この二つ・・・今日からはネックレスの三つが、私の特別な宝物。


「まったく私の妻は安上がりだから困る。どんなに高級で似合うものを贈っても、この着物とかんざしが一番だと言い張るからね。今日だって手作りの薩摩切子の首飾りを贈ったぐらいで、偉く大喜びしいてる」
「帯刀そんな満足そうに批判しても、のろけ話にしか聞こえないぞ?」
「そう?別にそう受け止めてくれても構わないよ」


龍馬の言う通り批判している割りには満足で嬉しそうに見え、しかもそれを否定せずさらに笑みを浮かべ私の肩を抱き寄せる。

明らかな肯定。
それを見て私はホッとし、肩をなで下ろす。
帯刀さんがそれで良いと言ってくれたのと同じだから。


「さっさとパーティーを初めましょうか?」
「そうだな。おい凪、今日はお前の好きな料理だけを用意したから、早く上座に座れ」
「本当ですか?了解です」


突然アーネストはそう話を切り出せば西郷さんは私に誘惑言葉を投げかけ、単純な私の頭の中は一瞬で食べ物に切り替えられ言われた通り上座へと素早く座る。


「小松帯刀、食べ物に負けたな」
「そう言う素直な所が、凪の魅力だと私は思うぞ」
「二人共辞めなさい」


そんな私の姿を見てシロちゃんとクロちゃんは帯刀さんに面白そうに嫌味を言い捨て、私はすぐに我へと戻り嫌な汗が流れ出す。
笑顔が硬直する。


一瞬でも帯刀さんを忘れていた。
みんなの前で、お仕置きされる。


「夕凪、今日だけは多めに見てあげるから安心しなさい。たまにはありのままの無邪気すぎる妻を見るのも良いと思ってね」
「・・・あありがとうございます」


お仕置きに脅える私に帯刀さんは一見優しい言葉を言ってくれるけれど、それは明らかにトゲのある言い方でもあっていろんな意味で怖かった。
それはきっと帯刀さんの計算の上での言葉だと思う。
その言葉を信じて食べ物に夢中になっていたら、帯刀さんのことだから絶対夜何かをしかけてくる。

・・・いろんな意味で、気をつけよう。





「龍馬、サトウくん、そろそろ準備を始めようか?」
「待ってました」
「え、これから何が始まりますか?」
「It is secret. Please wait to pleasure. 」(それは秘密です。楽しみに待ってて下さい)


次から次へとお料理が出て来て宴会は大いに盛り上がっている中、突然帯刀さんそう言って席を立つと龍馬とアーネストも先を立ち何か準備を始めようと外に出ようとする。
不思議に思い聞いてみても、クスッと笑うだけで教えてはくれない。

英語で答えるのは、何か意味がある?
まぁ今回は分かるから、良いけれど。


「あの三人何を始めるんでしょうね?」
「なんだろうな。そう言えばここ最近藩邸に集まって、何かをしていたらしい」
「それは楽しみですね?旦那様は何に置いても妥協という物を許さない人ですからね」

残された私達三人は何をやるか気になり話し合った結果、それを念入りに計画しいて完璧に見せてくれるらしい。
私も梅さんも同じで、楽しみになってくる。





「・・・あれ、これってアマリリス?」
「アマリリス?それはこの曲の名前でしょうか?」
「うん、そうだよ」


まさかこんな所で聞けると思わなかったメロディーが流れ出しびっくりした私は思わず口走ると、この曲を知るはずもない驚いている梅さんに問われるから私は頷いてみせる。

ただヴァイオリンと琵琶の演奏はレベルが高くて安心して聞いてられるけれど、もう一つの分かんない楽器は音程に合っていない気がする。
ヴァイオリンはアーネストで、琵琶は帯刀さんだから、それは残る一人の龍馬しかいない。


「な凪、あの坂本が吹いてる笛みたいなのはなんだ?」
「あ、あれはフルート??」


三人が私達の前に現れ龍馬に注目の目を向けると、それは意外すぎる楽器フルートで目が点になる。

てっきり小鼓か横笛か鼓弓辺りかと思えば、西洋楽器であるフルート。
新しい物好きで好奇心旺盛な龍馬らしいと言えばらしいのかな?
それでも一生懸命さはすごく伝わって来て、なんでも頑張れば出来ること教わった気がする。
不思議な不思議な音色。





「凪、これは我らからの贈り物。受け取って欲しい」
「帯刀にどんなにこき使われようとも、私達は凪のために頑張った」
「きっと凪に似合うと思いますよ。それとこれは私達の力もこめましたので、厄除けになります」
「あるがとう。シロちゃん クロちゃん シュウちゃん。大切に使うね」


しばらくするとシロちゃん達は私の元にやって来て、そう言いながらプレゼントをくれる。
花柄のちりめんバックと、バックに下げられるちりめんの兎のぬいぐるみ。
どっちも私好み。

そうか。
三神が用事を頼んでお駄賃をせがんでいたのは、全部私にのためだったんだ。
帯刀さんのことだから、本当にとことんこき使ったんだろうな?


「その花のような笑顔が見られれば、我はそれだけで十分だ」
「ええ、そうですね。苦労が報われます」
「フム、私もそうだぞ。凪の笑顔は最高だ」
「アハハ・・・あありがとう」


三神揃って恥ずかしいことを当然とばかり言ってくるから、私は恥ずかしさを通り超して困り果て苦笑する。

そんなこと言われても素直に信じられず、裏があるとどうしても疑ってしまう。
帯刀さんにだって夜と早朝に言われたら、やっぱり疑い逆に恐怖という物を感じる。
自分に自信がまったくない人間なんてそんなもんだ。


「三人ともそれぐらいにしとかないと、後で旦那様に何をされるか分かりませんよ?」
『え?うっ・・・』


グッドタイミングと言わんばかりの梅さんの助け船に助かりはした物の、帯刀さんは琵琶を奏でながら鋭い殺意ある視線で三神を睨んでいるのに気づく。
三神は一瞬にして顔を青ざめ、私からすぐに離れてしまう。

毎度毎度のことながら、本当に帯刀さんは嫉妬深い。


「奥様、これは私からです。最近奥様髪を伸ばされているのようなので、奥様に似合いそうな髪留めです」
「ありがとう。梅さん。うん帯刀さんが、髪を伸ばした私も見てみたいって言うから伸ばし始めたんだ」
「いかにも奥様らしい、可愛い理由ですね」


今度は梅さんからのプレゼント。
まだ結わえるほど長くないんだけれど、いずれ活躍する機会が来るだろう。

髪を伸ばすなんて十年以上ぶりでベリーショートだったから、伸ばすのは抵抗があって弱冠面倒臭いんだけれどね。
だけど帯刀さんのお願いだから、面倒臭がらないで頑張って伸ばすつもりだ。



「なら最後は俺だな。ご家老と一緒に飲みな」


ドン



「・・・ありがとう」


西郷さんからのプレゼントを見た瞬間、微妙過ぎる物でお礼しつつも反応に悩む。
私の目の前に豪快に置かれた焼酎の大瓶。

確かに私は炭酸以外のお酒は大好きだけれど、いくらなんでもこれはないと思う。
私は女性。


「西郷隆盛、もう少し女心を勉強した方がいい」
「ですね。女性の誕生日に焼酎の大瓶を贈るなどありえません」
「そうか?これは幻の焼酎で、うまい酒なんだ」
「駄目だ。全然分かってない」


シロちゃんとシュウちゃんが正論を指摘しても分かってないようで、三神だけではなく私と梅さんもため息をつき肩を落とすのだった。

演奏はその後しばらく続いた。









「今日は楽しかったですね」
「夕凪が楽しんでくれたのなら、何よりだよ」


誕生会が終わる頃には綺麗な夕暮れ時になっていて、藩士達を振り切り仲良く恋人繋ぎながらの帰り道。
幸せいっぱいの私はまんべんの笑みで帯刀さんに話を切り出すと、帯刀さんも笑顔でそう言ってくれてますます幸せを感じる。

私のために開いてくれた誕生会はすごく楽しい時間で忘れられない思い出になった。
梅さんの料理はどれも美味しかったし、四神達のコントは爆笑だったし、帯刀さん達のアンサンブルは最高だったからね。
だけどあんなに楽しかったのに、少しだけ残念に思う自分もいる。
これで終わりなんて、なんか寂しいな。

それはきっと・・・


「帯刀さん、私のわがまま聞いてくれますか?」
「いいよ。なんでも聞いてあげるから、言って見なさい」
「私帯刀さんと二人だけで、誕生会をしたいです」
「これからするよ?」
「え?」


勇気を振り絞って愛らしくせがんで見れば、当然とばかりの答えが返って来て驚く私。
どうやらせがまなくっても、計画済みだったらしい。

考えてみればまだ夕方なんだからまだまだ時間はある。
むしろこれからが大人の時間。


「まさか夕凪は、これで終わりだと思ってたわけ?」
「え、まぁ・・・」
「私を甘く見ないで欲しいね?今から私のすべては夕凪の物だよ。何して欲しい?」


なんて我ながら少しエロい妄想をし始めると、耳元で甘く囁かれ耳たぶを何度もしゃぶられるような口付けをされる。
それは明らかに私を誘っていた。


どうやらこれからのことは誕生会よりも、忘れることが出来ない夜になりそうです。




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