夢幻なる絆

□イベント短編
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凪、バレンタインに苦労する。


※本編とは関係のない帯刀さんに片想い設定です。
  2章と3章の間ぐらいと考えて下さい。


十数年ぶりに恋をしている。
だけど彼は性格はともかくすべてにおいてパーフェクトであって、失恋しかしたことのないなんの取り柄もない私には高嶺の花。
告白したって玉砕して傷つくだけだから、この想いは言わないつもりでいる。
私はただ彼の声を聞けて顔がみられるだけで、幸せを感じていた。
大切に大切に育てていきたい。
そう思っている中、バレンタインは訪れた。
幕末ではまだないバレンタインだから日頃の感謝のする日と称し、私は勇気を持って彼に手作り菓子を渡すことにした。
もちろん勘がいい彼だから勘づかれないように、龍馬と西郷さんも一緒にあげる計画である。




「今日は一体どうしたんだ?みんな集めて昼間から宴会するきか?」
「用事ってなんだ?」
「もしくだらないことだったら、ただじゃおかないよ。龍馬はともかく、私と西郷は忙しいんだからね」


約束通り三人とも私の部屋に来てくれたのはいいけれど、とくに帯刀さんの機嫌が悪く私は思わず後退してしまう。
相変わらず帯刀さんは容赦がない。


「今日は未来で日頃お世話になっている男性に、女性が感謝を込めてお菓子を贈る日なんです」
「へぇー、さすが未来。洒落た行事があるもんだな」


計画通りの理由を教えれば、まず龍馬が興味を示してくれた。
西郷さんも言葉にはしないけれど、それなりに興味を持ってくれてる表情を浮かべる。
ただ帯刀さんが珍しく無反応。


「三人には日頃からお世話になっているので、これは私からの感謝の気持ちです。いつもこんな私に良くしてくれて、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」


と照れながら私は感謝して、ラッピングした箱を三人に渡す。

昨日半日がかりで作ったチョコレート大福。
私にしては珍しく大成功で、結構いけている。
バレンタイン時期だと見越して、未来から板チョコを数枚持ってきて正解だった。
ここまでは順調に物事は進んでいて、誰も私の行動を怪しむ人はいないだろう。
我ながら本当にいい方法を思い付いたもんだ。


「悪いな凪。ありがたく貰っとくよ」
「凪くんの手作りね?・・・食べられるの?」


西郷さんとは正反対の答えに、胸にナイフがぐさり刺さりと傷つく。
でもそれは序の口で更なる酷いことを言われる。


「帯刀、それは失礼だぞ。せっかく凪が一生懸命作ってくれたんだ」
「だから?いくら一生懸命作っても食べられなかったら、まったく意味がないでしょ?そんなものもらっても、はっきり言って迷惑だよ」
「!!」


本当に迷惑そうに冷たく言い捨てられ、更に包みを興味なさそうに床に置く。
あまりのことに私はどうすればいいのか分からず、頭の中が混乱する。
何が起こったのか分かりたくなくって、現実逃避してしまいそうだった。
だって理解してしまったら、怖い現実だから。


「御家老、貴方らしくないですよ。そんなはっきり言わなくても、いいでしょ?」
「凪くんは馬鹿だから、ここまで言わないと分からないんだよ。・・・そんな感謝の仕方など欲しくない・・・」
「何子供見たいな我が儘を言ってるんですか?」
「私はいつもと変わらないよ。行くよ。西郷」
「御家老」


完全に機嫌を損ねた帯刀さんは言いたいことを言い捨て、たじたじの西郷さんを連れ部屋から出ていってしまった。
せっかく帯刀さんのために作ったのに、置いていかれてしまった私のありったけの想い。

また私失恋してんだ。
ここまで全拒否されたら、さすがに諦めるしかない。
ただ想っているだけでも迷惑・・・。
なんで私はこんな人を好きになってしまったんだろうか?


「大丈夫か凪?」
「・・・帯刀さんの馬鹿」
「確かにいくらなんでも、あれはないよな?」


理解してしまった瞬間涙が一気に溢れだし、私の想いを知っている龍馬は優しくしてくれ同情される。
龍馬は帯刀さんと違って、いつだって私に優しくしてくれる。
それは私だからじゃなくて、龍馬はみんなに優しい。


「私、龍馬を好きになればよかった。そしたらこんな最悪な失恋しなかったのに・・・。でも龍馬は私にとって親友でしかないよ」
「・・・。俺にとっても凪は親友だよな」


自分でもよく分からないことを言って、龍馬を困らせた嫌な思いをさせてしまう。
龍馬には想いの人がいるんだから、私なんか好かれてもめいわくでしかない。
分かっているのに何私言ってしまったんだろう?
それでも龍馬は夕方まで私の傍にいてくれた。






泣いても泣いても涙が止まらず、私は昼食も夕食も取らず布団の中で小さくなっていた。
今まで何度となく失恋はしているはずなのに、この例えようもない胸の痛みは味わったことがない。
悲しすぎてお腹もまったくすかない。
これが本当の失恋の痛み・・・。
私はこれからどうすればいいんだろう?
帯刀さんと顔を合わせずらくても、私は帯刀さんに面倒を見てもらうしかない。
でも私が帯刀さんに好意を抱いていると知られたら、きっと疎まれて追い出されるだろう。





「凪くん、具合はどう?」
「帯刀さん・・・?」
「お粥を持ってきたから、少しだけでも食べなさい」
「え?」


帯刀さんの声が戸の向こうから聞こえてきたと思ったら、返事をする前に襖は開けられ鍋を持った帯刀さんが入ってきた。
帯刀さんにしては珍しい誤解で、しかも私を心配してくれている。
どうして帯刀さんはそうやって気まぐれで私に優しくしてくれるの?
単なる面白いから暇潰し?


「後であいすくりーむも持ってきてあげるから」
「・・・・・」
「それからさっきはすまない。我ながら大人気なかった。・・・でもそれは凪くんが悪いんだよ」
「すみません。迷惑でしたよね」


さらに私に優しくしてくれる帯刀さんでさっきのことも謝られるけれど、小声で私が悪いとも言われてしまい私は声を振り絞り謝り返す。
やっぱり迷惑だったんだ。


「違うそうじゃない。あれは龍馬達と同格だと思われてたのが気にくわなかっただけ。凪くんにとって私とはそんな程度の存在なの?」
「え?」


しかし返った答えはまったくの予想外のことで、理解しがたいものだった。

凪くんにとって私とはそんな程度の存在なの?

それってどう言う意味?
期待しても・・・言い分けない。


「凪くん?」
「同格ではないですよ。だって私は帯刀さんに養ってもらってますから、大切なご主人様です」


私の想いだけは知られたくない一心で答えたのは、危なすぎるどう考えても間違えなくどM発言。
自分でもびっくり発言に涙はぴたりと止まる。
訂正したくても訂正するネタがなく、このままでやり過ごすことにした。
それにそう言うことにした方がまだましだ。


「そう分かった。だったらこれは、ありがたく貰っておくよ」
「え?」

とさっき置いていった贈り物を受け取ってもらえたことにびっくりした私は何が起こったか分からず、布団から顔を出し帯刀さんの顔をまじまじ見つめてしまった。
なんだか知らないけれど、すごくご機嫌で嬉しそうに見える。
それはひょっとして私の妄想と願望が、少し入っているかも知れない。


「それからもう私以外の異性には、贈り物を贈ったり貰っても駄目だよ。これはご主人様の命令だから、破ったらきついお仕置きだからね」


・・・私の片想いは、もうしばらく続けられそうかな?




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