夢幻なる絆

□5.抗う覚悟
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「本当にいいの?薩摩に戻ってからも、私なんかのお世話をしても?」
「もちろんです。私は旦那様に奥様のことを頼まれておりますし、何より私自身奥様のことが大好きなんです」
「ありがとう。梅さん」

出発直後梅さんにもう一度確認すれば、迷いなくそう嬉しいことを言ってくれる。
恥ずかしいけれど嬉しくて、照れながら私はお礼を言う。

私はもう独りぼっちになったかと思っていたけれど、まだ独りぼっちじゃなかったんだね?

「梅さんが付いてれば安心だな。俺は送り届けたら、すぐに戻ることになるから心配だったんだ」
「忙しいのに、すみません」
「俺も御家老に凪を薩摩へ送るよう頼まれてるからな」

今度は西郷さんが心強いことを言ってくれて、私の背中を叩き豪快に笑う。
いつもの西郷さんだ。

帯刀さんは生きているうちに、私が困らないよういろんなことを手配してくれた。
手紙に書いてあったように、私は何も心配する必要がない。
私の旦那様は本当にすごい人なんだね。
思えば私達が一緒にいた時間は三ヶ月もなかったけれど、それでも私達は限られた時間の中で懸命に愛し合って幸せな時間を過ごせた。
この屋敷にもたくさんの想い出が詰まっている。

私達が出会ったり、不発に終わった初夜。
その後初めての体験をして、私は処女を卒業した。
どれもこれもみんな幸せな想い出。

「あれ、私泣いてる?」
「奥様、やはりお辛いのですね」

枯れて失ったとばかり思っていた涙なのに、数日振りに目から溢れ出し骨壷に次々と落ちていく。
梅さんは心配してくれるけれど、私はそんなに悲しくないし辛くない。
ただ帯刀さんとの想い出に浸ってるだけ。

そう言うことが悲しい?
だとしたらもう考えるのは辞めにしよう。

「そろそろ出発しましょうか?なんだか雲行きも悪くなってきましたし」
「そうだな。それにしてもこの天候は気味が悪いくないか?」
「言われて見ればそうですね」

さっきまで晴天で真冬なのに日差しが温かったのに、いつの間にかどんよりとした厚い真っ黒な雲が空一面広がっている。
それに辺りをよく感じ取れば、随分と嫌な感じの空気が立ち込めている。
まるでこの世界が、終わるかのような・・・。

それならそれで、私はその未来を受け入れる・・・。
だって自ら命を落とすような真似をすれば、私はもう二度と帯刀さんの傍には行けない。
でも世界の終わりで命を落とせば、帯刀さんの傍にまた行ける。
だから私は・・・そっちの方が・・・。


「・・・何か街の様子がおかしい」
「やっぱりそう思いますよね。いつもと何かが違う。世界の終わりじゃないんですかね?」
「奥様?何をおっしゃってるんですか?そんなはず・・・」
「凪、しっかりしろ。お前また・・・」

西郷さんも私と同じように異変を感じているのか警戒するから、私は平然と他人ごとのように恐ろしいことを口にした。
すると梅さんは恐怖に脅え始め、西郷さんはまた私を叱りつける。

やっぱり本当に世界の終わりなんだ。
そして私はまた平常心を失って、あの時のようにおかしくなっている。
生きる希望をなんて、もう持っていたくない。
やっぱり出来るのなら早く私を、あの人の元まで連れて行って・・・。

そして大地は切り裂かれ空は崩れ落ち、私達は抗う暇もなく闇に落ちて行く。



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