夢幻なる絆

□5.抗う覚悟
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それからあっと言う間に数日が経ちお骨となった帯刀さんと一緒に、いよいよ明日京から薩摩へ旅立つことになった。
私の永住先。

「お前は本当に極端だな。あれ以来すっかり家老の妻として、涙を見せず凛と役目を果たしてた」
「だってそうしろって言ったのは、西郷さんじゃないですか?」
「そりゃそうだが・・・悲しい時は泣けばいんだぞ?」
「涙なんかもう枯れちゃいました。それになんでだろう?そんなにもう悲しくないんだよね」
「凪・・・」

明日の予定を知らせに来た西郷さんは最後に私を心配して、そんな優しい言葉を掛けてくれる。
この前と正反対の西郷さんに、私は明るく振る舞い少しおどけて見せる。
言葉通りもう私には涙と悲しいと言う感情を失ってしまい、葬儀や火葬の時も家老の妻としてきちんと役目を終えることが出来た。
おかげで周りからの評判がよく、帯刀さんは死んでからも評価はあがる一方だった。
なのにあんなにきちんと妻らしくしろと言っていた西郷さんと梅さんだけが、あの時以上に私のことを心配してくれる。

「西郷さん、いろいろありがとうございます」
「・・・本当に行っちまうのか?俺がこれから先の面倒」
「私は帯刀さんの傍で、一生涯小松夕凪として生きるって決めてます」

ちょっと悲しそうにそう申し出てくれる西郷さんだったけれど、私は強く首を横にふり心に誓ったことを断言した。

龍馬も死んだ今、私が京に残る意味はない。

「そうだな。・・・明日は早いから今日はもう寝ろ」
「はい、分かりました。おやすみなさい」
「おやすみ。凪」

私の熱意が伝わったのか西郷さんはもうそのことについては何も言わず、笑顔でそれだけ言い残し部屋から出て行った。



「帯刀さんそんなに心配しなくても、私はもうどこにも行きませんよ。毎日綺麗な花束を持って、墓参りに行きますからね。お掃除は大嫌いだけれど、ピカピカに墓石を掃除します。草むしりだってちゃんとやります」

聞こえるはずがないのに骨壺から帯刀さんのいじけた声が聞こえた気がして、私は笑顔を向け心配させまいとそう言い大きいことを胸を張って宣言してしまった。

そんなこと面倒くさがりな私だから三日坊主なるかも知れないけれど、最愛の夫のこととなればきっと三日坊主にはならないと思う。
ちゃんと最後まで、果たしてみせる。
だってそうしないと私がこれから先、生きていくのが・・・辛くなるから・・・。
今だって帯刀さんとの一方通行な会話をすることによって、私の壊れてしまった心はどうにか平常心を保たれている。
涙も悲しい気持ちもなくしても、寂しいと辛い感情はまだあって私を苦しめ続けでいた。

「・・・帯刀さん夕凪はずーとあなただけの物です。だからもしあの世で寂しくなったらいつでも迎えに来て下さいね。・・・あなたに呪い殺されるのなら、ちっとも怖くないんだから」

こんなこと西クさんや梅さんに聞かれたら悲しまれるだけの台詞を、私は真剣に言って骨壺を抱きしめ眠りにつく。



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