夢幻なる絆

□5.抗う覚悟
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「ねぇ帯刀さん、いい加減に起きて私を抱きしめて下さいよ。私にとって四ヶ月ぶりで、帯刀さんにとって二年ぶりなんですからね。それとも帯刀さんは私にこうやって抱きしめてもらった方が好きなんですか?」
「・・・・・・」
「まったく帯刀さんは甘えん坊ですね。私のこと言えないじゃないですか?」
「・・・・・・・」

今夜も帯刀さんを精一杯笑顔を浮かばせ語りかけているのに、何も返事もなく何もしてくれない。
だから私の心は冷え切って、いつまでも癒されずにいる。

私の愛情が足りないから・・・
私が二年間帰って来なかったから・・・
帯刀さんは怒って、未だに寝たままなの?
全部私がいけないんだね。
もう私はけして帯刀さんの傍から離れないって約束するから、早く目覚めて下さい。

「あ、そうだ。子作りましょうよ?私帯刀さんに似た息子が欲しいです」
「・・・・・・・」
「きっと可愛いんだろうな?」
「・・・・・・・」
「いい加減に何か返事して下さい。私のこと嫌いになっちゃったんですか?・・・私は帯刀さんのこと愛してます」
「・・・・・・・」

何度必死に話しかけても、やっぱり返事は返ってこない。
寂しくて虚しくて私は涙を堪えながら帯刀さんの懐に顔をすくめ、どうにか不安の心を落ち着かせようと目をつぶる。
でも帯刀さんの体は完全に冷たくなっていて、以前のような心地いい温もりが一切なくもう安心出来る場所じゃなかった。

・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・。

本当は最初っから、すべて分かっている。
帯刀さんはもう死んでいるから、何をやっても蘇らないって。
でもそれを認めて受け入れるのが怖くて、わざと現実から目を背けていた。

「私もう限界です。・・・どうしてこんな危なっかしい私を、一人残すんですか?例えどんな理由があっても、一人で逝ってしまうなんて卑怯ですよ・・・」

ついに私は逃げていた現実を言葉にして受け入れてしまい、梅さんが置いていった帯刀さんの私宛の手紙を手に取り開く。
そこには確かに帯刀さんの文字で何かが書かれていた。

愛する妻夕凪へ


夕凪がこの手紙を読んでるってことは、もう私はこの世にいないと言うことだね。
まずはお帰りなさい。そしてどうして今頃になって、こっちに戻って来たの?
私はずっーと君の帰りを待っていたのに、君と来たら一行に帰ってこない。
私の気持ち分かってる?
もしかして意地悪のつもり?
まぁ君に対する愚痴はこのぐらいにしてといて、これから本題を書くからよく読むんだよ。

君が以前教えてくれた薩長同盟。あれはいろいろあって、決裂したよ。
それが原因で私それから龍馬は狙われるようになり、恐らく奴らに殺されたんだろうね。
そうそうシロのことなのだけれど、龍神の神子に託して以来どうなってしまったか分からない。
きっと私は君を失ってやけを起こしていたかも知れないね。
本当にすまない・・・・。

人一倍危なくってそそっかしい君を一人残すのは、私にとって最大の心残りだよ。
出来ればこの手紙を読まず、未来で幸せに暮らして欲しい。
でももしここに帰ってきたとしたら、私のふるさと薩摩でひっそりと暮らしなさい。
その手筈はもうしてあるから、何も心配することはない。
けして私の敵を取ろうなんてことを思ったりしたら駄目だよ。
どうせ君が行ったって、あっさり殺されるだけなんだから。
いいね?分かった。

私はいつまでも夕凪のことだけを考え想ってる。

小松帯刀



「・・・帯刀さん」

読み終わると私の目から、涙が溢れ止まらない。
核心には一切触れていなく、私への愛が書かれていた。
やっぱり帯刀さんの愛はとてつもなく深くて、私は今まで幸せだったことを実感する。

・・・帯刀さんの言う通り私は、薩摩でひっそり暮らす。
それが帯刀さんの最後の望みだから・・・。



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