夢幻なる絆

□リアルワールドへようこそ
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凪、シロちゃんを捜す。




「シロちゃん、どこに行ったんだろう?もうすぐ帰る時間なのに」


海をとことん満喫し帰りの電車が混まないうちに帰ろうとしたんだけれども、シロちゃんが未だに戻ってこなくて捜索中。
なかなか見つからないでいた。


「あれでも一応神なのだから、一人でも帰ってこれるでしょ?」
「だと思いますけれど、もう少し捜してみます」
「・・・まったく。困った神だね」


弱冠非協力的で言い放題の帯刀さんだったけれど、完全に呆れながらも一緒に捜してくれる。
見つかったらきっと激しい言い争いは確実だろう。



「優勝者は圧倒的投票差で、エントリーbP2橘友雅さんです」


どこからともなくそんな声が聞こえた瞬間、女性達のけたたましい黄色い声援が響き渡る。
人気俳優並。
私は足を止め会場の方に視線を向ければ、観客人数も半端ではなく異様な熱気が立ち込めていた。
相当盛り上がっているのがよく分かり、帯刀さんが出なくて良かったと心の底から思った。
そう思ったら不安になって、無意識に帯刀さんの手を強く握る。
帯刀さんが、どこにも行かないように。

「私の愛しているのは夕凪だけだから、余計な心配はしなくていい」
「はい。所で優勝者って一体どんなイケメンなんでしょうね?あ、イケメンとはいけてる男子って言う意味です」
「気になるなら、ちょっとだけ見てみる?」
「え、いいんですか?」


いつもの帯刀さんなら嫉妬して絶対言わないことを問うから、私はびっくり不思議に思い首を傾げ問い返す。

実はまた試されているとしたら、迂闊に答えられない。


「いいよ。今日は特別に許してあげる」
「・・・でもやっぱりいいです。早くシロちゃんを捜して、帰りましょう」


せっかくの帯刀さんの心遣いがやっぱり少し怖い気がしたから、ちょっと考えた後断りを入れシロちゃん捜しを再開する。

確かにイケメンには興味があるけれど、私にとって帯刀さんが一番のイケメン。
だからわざわざ見に行く必要はどこにもない。


「そう?夕凪がそれでいいんなら、それでいいけれどね」

「それでは橘さん今の気持ちをどうぞ」
「応援ありがとう可愛い人達。可愛い人達のおかげで、我は優勝が出来た」
「キャ〜、橘さん素敵」
『・・・まさか』


司会者の声が聞こえ優勝者の何とも言えないキザ過ぎる台詞に、私と帯刀さんは顔を見合わせ会場をガン見する。

すごく馴染みの甘い声。


「コンテスト始まって以来の人気ですね。え〜と橘さんはボディーガードをしているそうですが、芸能人や議員ですか?」
「我は我が愛しの人を日々護っている。なのに小松帯刀は今日も我を邪魔物扱いする」

「・・・帰りましょうか帯刀さん」
「それがいいね。ほっといても帰って来るだろう」


壇上にいるのは優勝トロフィーをかがげたシロちゃんだったけれど、司会者との会話があまりのことにスルーしようとした。

ボディーガードなんて言葉どこで覚えたんだろうか?
名指しで言われなくても、それは私のことだから恥ずかしい。
それに橘友雅・・・って誰?


「やっぱり私は人間のシロちゃんは苦手だな・・・猫の可愛い姿の方がいい」


そんなシロちゃんを見ていたら、つい本心を呟いてしまった。

人間のシロちゃんはあの事件があったこともあるけれど、私にとっては苦手な分類に入るんだよね。
タラシで口説くのが上手い男性。
・・・あれ?
だったら帯刀さんも本来苦手な人種?
でも帯刀さんはあんまり私には口説かなかったか。
私って魅力ないもんな。
帯刀さんは私のことを理解してくれてちゃんと考えてもくれていたから、私は帯刀さんの内面を好きになった。


「いくらイケメンでも夕凪には不満ね。ちゃんとシロに言えば、きっとシロは二度と人にはならないだろう」
「そんなこと言ったらシロちゃん、傷つきますよ。言わぬが花です」
「こう言う時は真実を言ってあげるのが、優しさだよ。シロは人の姿をした方が夕凪に好まれると思ってるからね」
「そうなんですか?」


どこか満足そうな帯刀さんから知らなかった真実を聞かされ、私は最善の解決方法がなんなのかを考える。

確かにシロちゃんは私のために人間の姿になったとか言っていた気がする。
だったら正直に本当のことを言った方が、シロちゃんには嬉しいこと?
でもやっぱりちょっと気の毒かも。
せっかく私のために人間の姿になってくれたのに、実際逆効果なんて。


「駄目。私の傍では私以外の男のことを真剣に考えない。だからと言って私がいない時でも、私より他の男のことを多くは考えない」
「え、あはい。そうですよね。シロちゃんには後で正直な気持ちを伝えます」
「そう、それでいい。なら帰ろう」
「はい」

真剣に考えてる中軽く頭をこつかれそう忠告を受け、それは私も同感だからすぐに結論を出し帯刀さんと腕を組む。
もし私が帯刀さんだったら、同じことを言う。

なるべく私以外の女性のことは考えないで下さいって
だから


そしてその後
二時間近く遅れて帰って来たシロちゃんに私はよく言葉を選びながら真実を伝えると、ご機嫌だったシロちゃんが一気に落ち込んでしまい次の日を最後にして二度と変身することはなかった。



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