夢幻なる絆
□リアルワールドへようこそ
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凪、お仕事をする
帯刀さんと人の姿をしたシロちゃんを連れて勤務先の図書館へ行きまだ開館前と言うこともあり、敷地内の木漏れ日が気持ちいいベンチでしばらく待ってもらうことになった。
「いいですか?9時になったらあそこから入って来て下さいね」
最後にもう一度そう念を押し言い聞かせそろそろ行こうかとしたんだけれど、帯刀さんに腕を捕まれ強引に抱き寄せられる。
「まだ駄目。いってらっしゃいが終わってないよ」
「え?」
「はい、いってらっしゃい。頑張るんだよ」
って言って戸惑い見上げる私の唇にサッと重なり合わせ、帯刀さんは笑顔で微笑んた。
帯刀さんが仕事で出掛ける時、私がやっていること。
逆にやられると恥ずかしいかも?
でも嬉しい。
「いいってきます」
「いってらっしゃい凪」
顔を真っ赤に染めて言葉を返してこれ以上壊れる前に行こうと走り出すと、シロちゃんからも見送られ私は手だけ振った。
「凪ちゃん、あれは彼氏?」
「え?」
「見たわよ。外で堂々とキスしてる所」
「うっ・・・。まぁ彼氏と言うか婚約者です」
主任が不気味な笑みを浮かべこちらにやって来て見られたくなかった現場を目撃され、思わず顔の筋肉が引き攣り動揺しつつも打ち合わせ通りの答えを言う。
いくらなんでも旦那はまずいから帯刀さんと話した結果、知り合いには恋人より婚約者と言うことになった。
「それはおめでとう。随分とイケメンじゃないの?それで隣にいた人は?」
「ありがとうございます。彼のお兄さんです。夏期休暇を利用して、我が家に遊びに来たんです」
これまた打ち合わせ通りの答え。
シロちゃんは帯刀さんのお兄さん。
そうじゃないと私は周囲から悪女・・・それでも見られるか。
「そう。お兄さんもイケメンなのね。なら代理を頼んで悪かったわね。私が提案したのよ」
「そうだったんですか。まぁ事情が事情なだけに仕方がないですよ」
薄々気づいていたけれど聞きたくなかった事実に、私は気にしていないように受け答えした。
余計なことをしてくれた。
「ありがとう凪ちゃん。今日も一日頑張るわよ」
キンコンカンコン
「了解です。おはようございます」
ニッコリ笑顔で主任がそう言ったのと同時に開始のチャイムがなり、利用者達が入って来てその中にはもちろん帯刀さんとシロちゃんもいる。
そして例の如く多くの女性達を引き連れていて、言うまでもなくやっぱり近寄りがたい。
本当はいろいろ説明したかったんだけれど、説明しなくても大丈夫そう?
「おい、凪。お前もあんな男がタイプだったんだな?やっぱイケメンだから?」
「紀男くん?」
「やめときな。凪が相手にされるわけないだろう?所詮高嶺の花」
帯刀さんの元へ行こうか行かまいか迷っている中、仲良しの元気印の悪ガキ紀男くんが馬鹿にしながら率直な意見を言ってきて精神的ダメージをあたえて来る。
さすが子供。
「残念でした。あの眼鏡を掛けた人は、私の彼氏なんだからね」
「嘘だ。凪にあんなイケメンの彼氏が出来る分けないだろう?」
大人げなく胸を張って自慢してみるけれど、信じてくれずまたしても笑われるだけだった。
現場を目撃されない限り、誰も私と帯刀さんのことを信じてくれない。
そりゃぁ帯刀さんと私とじゃぁ、天地の差以上あることを十分理解している。
でもやっぱり多少は傷つくんだよね。
「いいよ信じてくれなくても・・・。それで今日はどうしたの?」
「え、あ読書感想文の宿題をするから、凪に本を選んで貰おうと思ってな」
信じてもらうまで説明するのが面倒だし勤務中だったため、本来ここに来た理由を聞くとそう言いニカッと笑う。
可愛いあどけない笑顔に胸キュンです。
「なるほどね。紀男くんはどんなのがご希望?」
「ハラハラドキドキする冒険物がいい」
「なら指輪物語がいいんじゃない?いろんな種族がパーティーで冒険する話だから」
「面白そうだな。それにする」
「ならある場所まで案内するね」
本当に大まかなあらすじしか言ってないのに紀男くんはやたらに気に入ったらしく、返事で決まり私は指輪物語が置いてある棚に紀男くんを連れていく。
こう言うことも私の仕事で、それからも何人かの子供達の相談に乗り続けた。
これだから夏休み期間中は忙しい。
「凪ちゃん、昼休み休憩取って良いわよ」
「はい、分かりました。行ってきます」
一時過ぎた頃ようやく主任から言われた私はすぐにエプロンを脱ぎ捨て、帯刀さんとシロちゃんを探しに行こうとするとカウンター周辺にいた。
「さすがシロ。こう言う時だけ役に立つ」
「相変わらず小松帯刀の言い方はきつい。もっと我を感謝しろ」
「ありがとう、シロ」
「・・・・・・」
図書館を配慮してのことなのかご丁寧に小声で口喧嘩して、感謝のないお礼にシロちゃんは諦め口ごもる。
大人げないと言うか、なんと言うか。
「帯刀さん、シロちゃんお待たせしました。早く行きましょう?」
こう言う時はスルーが限ると知っているためわざなかったかのように話題を変え、帯刀さんの手を握り急いで出口に向かう。
「ここのオムライスすごく美味しいんですよ。覚めないうちに早く食べましょう?」
「そう?夕凪が絶賛するのなら、楽しみだ。では早速いただきます」
「我もいただきます」
図書館近くの行きつけのレストラン。
注文のオムライスがやって来て、二人にそう言い食べ始める。
昔ながらの素朴なオムライスは値段も五百円で、私は週二ぐらいで通っている。
オムライスは大好き。
「うん、美味しい。これが夕凪が大好きなオムライスね」
「はい」
「私よりも?」
「な何言ってるんですか?そんな比較できない物と、無理やり張り合おうとしないで下さい」
どうやら帯刀さんの口にもあったらしく喜んでいたら、いきなり分けのわかんない問いを問われ思い切りむせる私。
たまに帯刀さんは変な大人気ないことを、愉快げに問い私の反応を楽しんでいる。
そう言うのは相変わらずだ。
「それで答えは?」
「・・・そんなの帯刀さんに決まってるじゃないですか」
「ありがとう。ならご褒美に食べさせてあげる」
それでも問い続ける帯刀さんに私は仕方がなくそう耳元で囁けば、帯刀さんは満足そうな笑みを浮かべ人の目を気にすることなくオムライスをすくい口まで持って来る。
これがご褒美?
家の中でならともかく、ここはレストラン。
誰も見てないと思っていても、今朝のように誰が見てるか分からない。
知り合いが多いここでは、見られたら恥ずかしい。
「遠慮しときます」
「遠慮ね。ならもう二度と食べさせてあげないよ」
「え、それはイヤです・・・」
拒否をしても意地悪で卑怯なことを言われてしまい、私はそれにも首を横に振り泣きそうな声で拒む。
私は帯刀さんに食べさせてもらうのも、食べさせてあげるのもが好き。
でもやっぱりここでするのは、かなり勇気がいる。
「小松帯刀、凪の気持ちを少しは察してやれ。凪は、人目を気にしてるのだろう」
「人目?私が夕凪の夫だってことが、そんなにまずいわけ?」
「そんなことは絶対にありません」
せっかくシロちゃんが救いの手を出してくれたのに誤解の解釈をした帯刀さんは、私を鋭い眼差しで見つめ声も引くくなり機嫌を損ねる。
怖いと思いつつも、私は強く否定した。
帯刀さんは私の自慢の旦那様。
隠す必要なんてどこにもない。
「なら、口を大きく開けて」
「今の帯刀さん、とっても意地悪ですよ」
「・・・すまない。いつもと違う働く夕凪を見ていたら、遠くにいってしまいそうな気がして怖かった。だから・・・」
「帯刀さん・・・」
でもやっぱり恥ずかしくて強引に実行しようとする帯刀さんに思ったことを言えば、数秒の沈黙後らしくない何かを恐れている弱々しい答えが返ってきた。
こう言う反応をされると女性という生き物は、なぜか母性本能が働いてしまう。
「夕凪は私のこと愛してくれてる?」
「はい、もちろんです。世界で一番愛しています」
「ならその言葉を信じてあげる。だから口を大きく開けなさい」
「もう仕方がないですね。分かりましたあ〜ん」
もうここまで来ると断りきれなくなり、観念した私は言われた通り口を大きく開ける。
食べさせてもらったオムライスはいつも以上に美味しくて、気づいたら半分以上も食べさせてもらっていた。
それにいつの間にか元気も十分充電されていて、昼からの仕事も全力で頑張れそうな気がする。
その後やっぱりこの件で数人の知り合いからから、面白半分にかわれたのは言うまでもないだろう。