夢幻なる絆

□リアルワールドへようこそ
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凪、少し残念に思う。



「それにしても未来は、本当に興味深いね。何をとっても不思議で仕方がない。これが夕凪の故郷」
「はい、そうです。気に入りましたか?」
「いいや。便利なのかも知れないが、私にして見れば住み難そうだ。空気も悪いしね」


混み混みの電車を降りて、ようやく街を歩きだした直後の会話。
ここに来るまですべてを熱心に見ていたから、これが帯刀さんの率直な感想だと思う。
それに薄々そう言われると思っていた。

確かに未来はあらゆる面で便利だけれど、環境は幕末と比べたら最悪に近い。
人間関係も覚めたものだし。
でも私にとっては慣れ親しんでる当たり前の世界。


「帯刀さんは嫌いですか?」
「そうだね。あまりここで暮らしたいとは思えない。だけど」
「だけど?」
「ここは夕凪が産まれ育った世界。夕凪のように好きになるように努力はしよう」
「ありがとうございます。私は帯刀さんの世界は、第二の故郷だと思ってます」


考えることなくズバッと言う帯刀さんだったけれど、ちゃんと私の世界だって理解してくれて前向きに言ってくれる。

そう思ってくれているだけで、私は嬉しかった。
帯刀さんが私のように、この世界も好きになってもらえるように頑張らないとね。


「夕凪は私とどっちの世界で暮らしたいの?」
「どっちでも構いませんよ。私は帯刀さんの傍にいられるのなら、どこだって構いません」
「なら何もない荒れ果てた地で、厳しい自給自足の暮らになるとしても?」
「はい、もちろん」
「・・・・・」
「帯刀さん?」


当たり前とばかりに帯刀さんの瞳を見つめながら力強くそう断言すると、帯刀さんの頬が一瞬で赤く染まり視線を泳がし私を見ようとしてくれない。
それは恥ずかしいと言う仕草そのものなんだけれど、私はそんなすごいことを言ってない。
本当に帯刀さんとならどこに行っても構わないと思ってる。


「夕凪はたまにすごいことを言って、私の恋心がっちり掴んだまま返してくれない」
「今ので?今のは極めて普通だと思いますが」
「普通じゃないよ。私は夕凪がいくら一緒でも、自給自足しないといけない辺境の地はごめんだね」
「帯刀さんはお坊ちゃま育ちですからね。私はどこだってついて行きますから」


信じられないとばかりに帯刀さんは帯刀さんなりの考えを言い、私はちょっとがっかりする物の物分かり良く言葉を返し笑みを浮かべる。

本当は帯刀さんにも、私とならどこだっていいと言って欲しかった。
まぁ何もかも捨てて私を取るって言わせるほどの魅力を備えてるわけじゃぁないから、こればっかりはどう考えたって無理な話。


「そう?ありがとう」
「どういしまして。それじゃぁ、うゎ〜綺麗い」


これ以上この件を話していたらわがままになりそうだったので、帯刀さんの機嫌も良かったから先へ急ごうとすると私の目にあるものが写る。

シンプルだけれどキラキラ光っているようで、私は無意識にそれに引き寄せられてしまう。
純白のウエディングドレス。


「夕凪、これは何?」
「洋風の結婚式に女性が着るウエディングドレスです。私小さい頃から憧れてたんです。いつか私だけの王子様と結婚する時に、こんな純白のウエディングドレスを着たいって」


何も知らない帯刀さんが私の背後から不思議そうに問うので、私は子供のように目を輝かせながら答えと一緒に子供の頃の夢をつい語ってしまった。
でも本当のことなんだから、帯刀さんになら構わない。
ただちょっと気に触ったかな?

「へぇ〜、だったらここでも夕凪が望む結婚式をやる?してもいいよ」
「しても良いって、そんなすぐに出来ませんよ。そもそも我が家にはそんなお金がないんです」
「お金?それなら私がなんとかするよ。いくら欲しいの?」
「・・・・。とにかくもういいんです。私達の結婚式は、もう終わりましたからね」
「それもそうだね」

気に触ったどころか乗り気になってしまった帯刀さんなんだけれど、世間知らず過ぎて私は頭を痛め強制的に話を終わらせる。

帯刀さんの心遣いは嬉しい。
私だって本当はこんなウエディングドレスを着て、帯刀さんとウエディングロードを歩きたかった。
でも結婚式の費用なんて、どこにもない。
ただでさえ帯刀さんとそれからシロちゃんが一週間来ることで、我が家の家計は火だるまになることほぼ確実・・・。
帯刀さんとの思い出を沢山作りたいから、けちけちしたくはない。
ボーナスすべて使う気満々だ。
だから例え五万以下で出来るとしても、無理な相談である。
ここの世界じゃ帯刀さんには悪いけれど、完全な役立たずで戦力外。


「さぁ帯刀さん、いざ出陣です」
「はいはい。そんな急がない。転けるよ」
「は〜、えきゃぁ!!」


気を取り直し元気良く気合いを入れて歩き始めた矢先、忠告も虚しくど派手に転けそうになるがいつも通り帯刀さんに受け止められ助けられる。
一体これでこう言う展開は何回目だろう。


「まったく・・・。だからいつも足下を気をつけるように言ってるでしょ?それから私の手を放さないこと。いいね?」
「すみません・・・」


まるで子供に言い聞かせるように帯刀さんは言って、私の手をギュッと握り今度こそ歩き出す。

さっきは贅沢に思って、すみません。
私は今のままでも、帯刀さんに愛されていて幸せです。



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