夢幻なる絆

□リアルワールドへようこそ
3ページ/12ページ

凪、シロちゃんに誘惑される。




「え、あなたは誰?」


帯刀さんの支度が終わりしばらく歴史の本を読みたいと言うことで、今度はシロちゃんをどうするか話し合おうと私だけ部屋から出た直後。
とんでもないオーラーを放している超お色気でイケメンの男性が椅子に座っていた。
以前京で見たことがある夢の屋さんになんとなく似ている。


「凪、我が解らぬか?」


聞き覚えがある男性の声は特徴のある口調でそう言いながら、私に近づき頬に手で触れて至近距離まで迫ってくる。

私この人知ってる?
ついさっきも会ったような。


「まさか・・・シロちゃん?」
「さよう。我はようやく人の子の姿になれた。この姿は、凪の好みだろうか?」


半信半疑で思い当たる名を問えば正解だったらしく、男性はそう私の耳元で甘く囁き何か温かい感触が頬に触れる。
たちまち心臓が高鳴り、体の体温が一瞬にして上昇。

私には帯刀さんと言う旦那様がいると言うのに、他の異性何私こんなにときめいて意識してるんだろう?
私の好みじゃないけれど帯刀さん以外の男性に面識がないから、こうやって誘惑されると真に受けてしまう。


「・・・シロちゃん、私は人妻なんだよ。こう言うことは良くないよ」
「と言うことは、凪は我を意識しているのだな?これではいつもの真逆だな。凪は柔らかくて可愛らしい」
「え?」


それでもどうにか理性を保ち拒否をしたのに、シロちゃんは何もかも知った口調で誘惑し続け私を抱きしめる。

シロちゃんの熱い吐息に、何か分からないけれど神経が麻痺してしまうような甘い香。
それにシロちゃんの温もりも、案外いいかも知れない。
そんな感じてはいけない感情に、私の本能に体が支配されてしまいそうだった。


「我は夕凪を愛してる。小松帯刀など捨てて、我の物になったらどうだ?我が世界で一番夕凪を幸せにすると誓おう」
「・・・シロちゃん・・・」


とどめの台詞で口説かれもはや私の理性は失われ、シロちゃんのことしか考えられなくなりすごく愛しくなる。

なんで私はシロちゃんのことが、こんなに愛しくてたまらないの?
明らかにこれは恋愛感情だ。

そして私とシロちゃんの二つの唇が一つに重なり合おうとした瞬間、ドアが乱暴に開かれ邪悪な帯刀さんが現れる。
まるで一部始終を知っているかのような殺気。


「シ〜ロ〜。私の妻から今すぐ離れなさい」
「断る」


怒りに満ちたもっとも恐ろしい声が命令するが、シロちゃんは聞かずに再び重なり合わさそうとする。
でも私は帯刀さんの声で我に返り、自分のやってはいけない過ちに気づく。

私はもう少しで裏切る所・・・もう裏切ってしまった。
帯刀さんに浮気はダメって言っているのに、私がしてどうする?
相変わらずその場のノリに流されやすい自分が情けなさ過ぎて呪いたくなる。


「夕凪?」
「シロちゃんのバカヤロー」


ゲシッ



涙が溢れ止まらなくなる私をシロちゃんは心配そうに顔を覗き込むけれど、私は無性にシロちゃんが憎くなり拳を作り顔面を殴りつける。
シロちゃんがあんな誘惑してこなければ、こんなことにならなくてすんだ。


「夕凪・・・?」
「夕凪って呼ぶな。夕凪って呼んで良いのは、帯刀さんだけ」
「・・・すまない。調子に乗り過ぎた」
「謝ってすむ問題じゃない。なんでこんな酷いことするの?」


自分にも非があるにも関わらずシロちゃんに責任を負わせ、怒りをぶちまけ泣きながら被害者ぶる最低な私。
私にも責任があるのに、それは棚に乗せてしまった。
するとシュンと悲しげな瞳で私を見つめ、謝罪し普段の姿へと戻って行く。


「そうだね。神の癖して人の心を操るなど、白虎は落ちるとこまで落ちぶれたらしい。夕凪、こっちにおいで」
「え、許してくれるんですか?」


間違えなく私達はこれで終わりだと覚悟を決めてたのに、帯刀さんはシロちゃんに対しては怒る物の私には優しく受け入れてくれる。


「許す何も悪いのはすべてシロ。純真な夕凪を、強力な媚薬で物にしようとした悪魔」
「・・・知ってたのか?」
「もちろん。そんな最低で情けないことまでして、あなたは夕凪の心が欲しいわけ?」
「そそう言われると、そんなまやかしの心など欲しくはない。・・・我は確かに愚かだった」


信じられない最低最悪な行いを帯刀さんは軽蔑するかのように呆れた口調で暴露すれば、今さらシロちゃんはそのことを身を持って自覚したらしく顔を青ざめ更なる反省し出す。

神様も時には、過ちを犯す?
だとしたらこれは大きな心で許すべき?

真相を知った私は本当ならもっと怒りが増すはずなのに、どうしてだろうサッと引いてしまい親近感を感じてしまう。
それも媚薬の効力かも知れないけれど、愛しいって訳ではなく同情。
私は過ちばかり犯しているから、許すことも時には必要。

だけどこのまま普通に許したら、またシロちゃんは同じ過ちを犯すかも知れない。
ちゃんと今以上に反省した後で、許した方が良いよね?


「そうあなたは夕凪の幸せを奪おうとした愚かな神。今日は罰として留守番だよ。自分が犯した過ちを良く考え深く反省しなさい」
「うん、私もそう思う。シロちゃん、いくらなんでもやり過ぎだよ。私の最愛の人は帯刀さんだって、いつも言ってるのに酷いよ」
「・・・・・・。・・・分かった」


そう厳しくシロちゃんをしかり続ける帯刀さんと一緒になって私も厳しく怒れば、シロちゃんはますます小さくなり数秒の沈黙の後寂しそうに頷く。


そして私達はシロちゃんを置いて、真夏の街へと繰り出すのだった。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ