夢幻なる絆

□番外編2
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凪、女中になる?


「凪さん、お願いがあるのですか、宜しいでしょうか?」
「何かあったんですか?」

今日はどこに行こうかと考えていると困った顔の梅さんがやって来て、申し訳なさそうに話を切り出される。
それも珍しすぎることであり梅さんが私に何かを頼むなんて普通だったらありえない。
よっぽどのことがあると見たから、真剣になって何か理由を問う。

「実は女中の数人が風邪で寝込んでしまい、人で不足なんです。今日は大切な接客があって、出来れば手伝いをして欲しいのです」
「私に出来ることなら構わないけれど、何をすればいいんですか?」

理由を聞いていつもお世話になってるから恩返ししようとして、二つ返事で頷き内容を聞く。

いくら絵に描いたようなドジをかます私でも、何かできることはあるはず。
例えばそうだな。
・・・・・。
ゴミだしとか庭掃除とか買い物とか。

「旦那様のお世話と、接客時のお茶だし」
「絶対無理です。ありえないことをやらかして、お仕置きをくらいます」
「そんなこと言わないで下さい。凪さんが一番適任なんです」
「一番不適格の間違いじゃないですか?」
「違います」

私のことをよく知っているはずの梅さんなのになぜか重要な役割を指名されてしまい、考えることなく速攻断って見たものの自身をもって無縁の言葉を言われる始末。

梅さんも実は体調が悪くて、おかしくなってしまったんだろうか?
それともお呼びでない客だから、私と言う問題時を起用するとか?
うん、それならありえる。

「・・・どうなっても知りませんよ」
「責任はすべて私が取ります。では早速準備をしましょう」

そう勝手に結論付けた私は半分以上自棄をおこしながら承諾すると、梅さんは自身ありげに言って私の腕を掴みどこかに連れていかれる。

変に期待されると困ります。






「旦那様、お茶とお漬け物をお持ちいたしました」
「え、凪くん?・・・入っていいよ」
「はい、失礼致します」

梅さんに言われた通り失礼のないように女中らしく障子の前で確認すると声で分かっただろうか、少々戸惑う帯刀さんだったけれどすぐに我に戻り了解してくれ戸を開け入る前に頭を下げる。
大切なお客様だと言っていたから年配者達だと思っていたら、西郷さんと帯刀さんと年がそんなに変わらないなかなかの男性だった。

幕末はやっぱりイケメン多し?

「なんだ凪、女中の真似事か?」
「今日は人で不足で、駆り出されたんです」
「そうか。頑張れよ」

愛想よく西郷さんから弱冠興味本意で理由を問われ、笑顔で簡単にそう説明をすると激励される。

西郷さんは本当に良い人だ。
頼りになるお兄ちゃん的存在。

「西郷さんの知り合いですか?」
「まぁな。俺の妹分見たいなもんだ。こう見えて博識で御家老も一目おいている」
「西郷、何を馬鹿なこと言ってるの?私が凪くんに一目置いているはずないでしょ?凪くんは大馬鹿な上、すぐに問題を起こして私がその度に後始末しなければならない。とんでもない問題児だよ」
「なっ、そこまで言う必要ないじゃないですか?」

西郷さんの言い方が気に食わなかった帯刀さんは、勢いよく反論して私をここぞとばかり貶し上から目線であざ笑う。
それはすべて悲しい真実だけれど初対面の人に暴露される筋合いがなく、頬を膨らませすかさず文句を言う。
このぐらい言ったって、罰なんか当たらない。

「だって真実でしょ?用が済んだのならさっさと戻りなさい」
「言われなくてもそうします。それではどうぞごゆっくり・・・え?」

そんな私なんか相手にされるはずもなく門前払いされ私もこれ以上ここにいたくないからやることやってさっさと退散しようとしたら、例のごとくと言うかなんと言うか足を滑らせ帯刀さん目がけど派手に転ける。

ガチーン


「凪、大丈夫か?」
「ははい、帯刀さん、すみません」
「本当に凪くんは、学習が出来ない女性だね。私がいなければ、生きていけないんじゃないの?」

帯刀さんが受け止めてくれたから大事には至らなかったけれど、小言は最早呆れきっている。
馬鹿にされまくって頭に来る物の、ここは助けて貰ったこともありグッと堪えた。

「どうやら西郷さんの言う通り、彼女はあなたの大切な人らしいですね」
「え?」

どこを取ったらそうなるんだろうか?
私は貶されまくってるのに。

「だからどうしてそうなるの?そんなはずないでしょ?」
「だったら君、明日私と京見物に行かないか?」

話はとっても妙な展開になり帯刀さんから全否定された彼は、なぜか愉快そうに私を誘っている。

それはまさしくナンパたぐい。
でも私がイケメンにナンパされるなんて、天変地異が起きても無理な話。
だとしなら私は彼からも遊ばれているのだろうか?
それとも私から帯刀さんの情報を引き出そうとしている?

「それは駄目。なぜなら凪くんは君の手におえる女性ではない。大迷惑を掛けるのは、目に見えている」

どう反応していいのか分からず迷いに迷っている私の変わりに、帯刀さんは痛い真実を憎しみをこめズバリと言い切った。

今日の帯刀さんはとても意地悪です。
私は何か帯刀さんの気に触ることをやってしまったんだろうか?
だから帯刀さんは怒っているんだね。
思い当たる節はまったくないけれど、それはただ単に私が気づいてないだけ。
でもでも・・・やっぱりひどい。

「帯刀さんのバカ。大嫌い」
「おい、凪?御家老も言い過ぎですよ」

我慢できずに子供見たいなことを涙を流しながら言い捨て、呼び止める西郷さんを無視し部屋を飛び出す。
明らかにそれは女中失格の行動で、きっと私は後で帯刀さんに雷を落とされるだろう。
それでも私だって傷付く心を持っている。
あいにくそこまで言われても冷静に流せるほど、私は立派な大人なんかじゃない。
ただこれで帯刀さんは私を厄介者で嫌っていることが分かったから、私はもうこの家から出ていく。







「梅さん、今までお世話になりました」
「え、凪さん一体どうしたんですか?」

荷物をまとめて勝手場にいる梅さんの元に行きお礼を言うと、皿洗いをしていた梅さんは驚き目をまん丸くし私を見つめる。
そうなるのも無理もないかも知れないけれど、私は梅さんに止められても考えを改める
つもりはない。

「私もうあんな奴の顔なんか見たくないんです。とにかく最低」
「旦那様にまた何か言われたのですね?」
「そうだよ。お客様の前で私は馬鹿だのちょんだの虫けら扱いをして、自分でしか面倒見切れないってあざ笑うの。私だって大の大人なんだから、一人でもちゃんと生きていける」
「・・・旦那様も凪さんのことになると、途端に幼稚になるから困った人ですよ」

度々帯刀さんから酷いことを言われているのを知っている梅さんは、親身に聞いてくれて最後に苦笑し呆れる。
梅さん以外はけして言わないだろうそんな言葉。

こんなこと他の人達に言ったって、誰も信じてくれないだろう。
だって本当の帯刀さんは、女性の扱いをよく知っている大人の男性。
なのにいつだって私に対しては、ああ言う酷い態度を取ってくる。
優しい時もそりゃぁたまにはあるけれど、総合すると嫌なことの方が断然に多い。
だからこれからは、自立して一人たくましく生きていく。

「帯刀さんが私が嫌いだから、そうやって嫌味ばかり言うんですよね?嫌いなら嫌いってハッキリ言って、さっさっと追い出せば良かったのに・・・」
「凪さん、それは誤解です。旦那様はけして嫌ってなどいません」
「でも私は嫌い。大嫌い」

何を根拠にそこまで言うのか分からないけれど、とにかく帯刀さんの味方を梅さんは迷いなくする。
でも頭に来ている私は聞く耳持たずに、さっきと同じことを言い捨てた。
本当はそんな帯刀さんのことは嫌いじゃないけれど、今は本気で大嫌いだと思っている。

「凪さん、落ち着いて下さい。このご時世女性が一人で生きていくのは大変難しいことなのですよ」
「それはそうですが・・・」
「今すぐ旦那様を呼んできますから、一度良く話し合って下さい」
「・・・・・」

梅さんから厳しい現実を叩き付けられてしまい、これには私であっても勢いをなく渋々言うこと聞くしかなかった。

本当はそれでも私は平気だって言いたいけれど、現実を考えると無理かも知れない。
冷静に考えると働き先や住む所を確保してから、この家を出た方が間違えないんだよね?
でも私はもう帯刀さんに罵倒されたくない・・・。
これ以上傷付き・・・・何私はしんみりしてるんだろうか?
これじゃ私が帯刀さんに片想いしてる見たいじゃん。
そんなの絶対にありえない。




「凪くん、さっきはすまなかった。真実だとは言え、少しばかり言い過ぎた」
「なんですか、その謝り方?悪いと思ってないんなら、別に謝らなくても良いですよ」

すぐに梅さんがセッティングしてくれた帯刀さんの話し合いの場所だったけれど、帯刀さんのは謝罪している割りには私を馬鹿にしている言い方。
それが余計に腹が立ち早々決裂しそうな悪い空気が漂い始める。

話し決裂か?

「悪いとは少なからず思ってるよ。・・・それとも凪くんは私に逢瀬の誘いを邪魔されたされたから、それで怒っていたりするの?」
「は、どうしてそう言う話の展開にまで発展するんですか?あれはどう考えても逢瀬の誘いじゃないでしょう?」

そう思っていたのに意外にも帯刀さんはまだ少しムッとするけれどそれなりに反省してることが分かり、そしてなぜか真顔にそんなありえないことを問われてしまった。
いつもの帯刀さんなら間違えなく冗談なんだろうけれどなんだかそんな気はしなくて、驚き反射的に本音を軽く答えてみる。
それに帯刀さんはたまに訳の分からないことを言って、私を困らせきっとそれを見て楽しんでいるのだろう。
だったら今回も?

「相変わらず君は鈍感だね。でも君にまったくその気がないようだから、今回は甘味屋でなんでも奢ることで許してくれないだろうか?」
「本・・・仕方がないですね」

いかにも子供扱いの和解案にしっぽを振りかけそうになる物の、どうにか押し堪え渋々といった感じで了承した。
ただそれはもう帯刀さんには見透かされているようで、おかしそうにクスクス笑い出す。

これでまた確実に、私の印象ががた落ちだね。
それとももう低下はしないぐらい、奈落の底まで落ちている?

うっ・・・、私だから十分ありえるかも?




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