夢幻なる絆

□番外編2
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凪、お世話係を任命される?



朝食を食べに広間に行く時、屋敷中が騒がしいことに気づく。
まだ朝だと言うのに、いつも以上に掃除をしていてピカピカだ。
まるで大事なお客様がやって来るような。


「凪さん、おはようございます。旦那様が広間でお待ちですよ」
「あ梅さん、おはようございます。帯刀さんが?私まだなんにも問題を起こしてないんだけど・・・」


そこへ梅さんがやって来て意味深なことを言われるけれど、身に覚えのない私は戸惑い不安が過ぎる。
帯刀さんが私を待っているのは、八割がた怒られる時だった。


「旦那様は凪さんと朝食を召し上がりたいだけだと思いますよ」
「だとしたらまた未来の話を聞きたいのかな?」


そんな私に苦笑しながら梅さんの予想を教えてくれ、だったらその可能性であろうことを考える。
そうでないと私と一緒に食べたいなんて思わない。
だったら今日はどんな話をしようかな?




「帯刀さん、おはようございます!」
「凪くん、おはよう。今日も相変わらず無駄に元気だね」
「褒め言葉に取っておきますね。それで今日はどんな話をご希望ですか?」


部屋に入るのと同時に元気良く挨拶を交わすと、そちらも相変わらずの皮肉付きの受け答え。
気に障るもそれをグッと堪え自分の席に座り、精一杯の引き攣る笑顔を浮かべ話の話題を変える。
朝食は鮭の塩焼きと味付け卵に南瓜の煮付けにワカメと豆腐のみそ汁。
どれも美味しそう。


「話はしなくていい。今日は薩摩の実家から義姉上が来るから、凪くんは義姉上のお世話係をしなさい」
「ああ、お近さんか。その人帯刀さんの婚約者ですか?いただきます」


素っ気なく断られてしまうがショックは全くなく、何食わぬ顔で真相を確かめ聞きだそうとする。
帯刀さんが誰と結婚しようが構わないけれど、どんな人と結婚するかは気になる。


「一応そう言うことにしてたね。未来ではそうなってるんだね?」
「はい。お近さんは帯刀さんの正妻です。婿養子になって、小松家の家督を継いだとか」
「そう。義姉上は可愛らしくて気が利く人だから。君と違って」
「でしょうね。だったらさっさと結婚すればいいじゃないですか?」


自分のことなのにまるで人事のようにサラリと言い皮肉も付けて来るので、私も興味ないよう煙ったそうに言ってやった。
そこでなんで私と比較するのか分からないけれど、武士の娘と比較され負けてもそんなに腹はたたない。
負けて当然だから。

でもなんでだろう?
ほんの少しだけ、胸がチクリと痛む。


「そしたら凪くんはどうするの?ここに居座る気?」
「え、いけないんですか?誰も新婚の邪魔なんてしませんよ」
「・・・凪くん、いい加減にしてくれる?鈍感にもここまで来ると、腹ただしいよ」


何かデリカシーのない反応をしてしまったらしく、突然帯刀さんはすごい剣幕で怒りだしてしまった。

いい加減にしてくれる?
鈍感・・・。


「あ〜すみません。私がここにいる事態邪魔で迷惑なんですよね?」
「そうじゃない。もういい」
「?」


考えることすぐにデリカシーのない発言をしてしまったことに気づき謝るが、否定されさらに怒ったのか無言で食事を取る。
訳が分からない。
そう言う年頃なのか?
ご機嫌伺いをするのも釈なので、私も黙ったまま食事を取ることにした。




そしてお近さんが訪れた。
小さくて可愛らしい人。


「お近様、初めまして。私は夕凪と申します。ここにいる間のお近様のお世話をすることになりました」
「帯刀さん、一体どう言うこと?私はもうそんな人はいらないと言ったはずよ。これからは一人でなんでもやるんですからね」
「まあまあ。凪くんは暇つぶしの相手になりますよ」


梅さんに教えられた通り行儀良くお近さんを出迎えそう挨拶すると、お近さんは頬を膨らまし帯刀さんに文句を言い出す。
内容がちょっと気になりながらもだまって聞いていると、帯刀さんは可笑しそうに酷いことを言って私をお近さんに差しだしのだ。

暇つぶしの相手?
私はギャグ要員か?
それとも逆襲?


「話し相手ね。それならいいわ」
「凪くん、失礼のないようにするんだよ」
「分かってますって。ではお近様部屋までご案内します」


帯刀さんのいかにも馬鹿にした口調にムッとなりながらも、私はスルーして話を進めて立ち上がろうとした瞬間。
「え、キャァー」


誤って足を滑らしてしまい、立ち上がれず派手にこける。


ズドン



「痛テテェ」
「凪さん?」
「本当に君は期待を裏切らないね。ほら、手を貸しなさい」
「変な期待なんてしないで下さい。一人で起き上がれます」


くすくす笑いまたもや皮肉を言って手を差し延べる帯刀さんだったが、怒った私は手を払いのけ自力でなんとか立ち上がる。


「帯刀さん、大切な話があるんだけど」
「ならしばらくしたら、部屋に行きますよ。それまでゆっくりしてて下さい」
「ありがとう。待ってるわ。じゃぁ凪さん、案内お願いね」
「はい、分かりました。帯刀さんの馬鹿」


私とはまったく違う態度の帯刀さんにますます腹が立ちそう言い捨て、お近さんを部屋まで案内する。




「ねぇ凪さん、それ帯刀さんに見立ててもらった着物でしょ?」
「どうなんだろう?特に聞いてません」
「なら帯刀さんのことどう思ってるの?」
「身元不明の私を屋敷に置いてくれて良くはしてくれますが、皮肉屋で意地悪な人です」
「恋愛感情はある?」
「ないですよ。んな物」


お近さんは何を思ったのか意味深な質問をしてくるけれど、その度私は素っ気なくでも素直な返答をするだけ。
帯刀さんには感謝してある程度は尊敬してるけれど、恋愛感情なんてまったくもってない。


「だけど嫌いじゃないんでしょ?」
「まぁ、嫌いではないですよ」
「なら安心。凪さん、帯刀さんを宜しくね」
「?」


お近さんはクスクス笑いながらも温かい眼差しで私を見つめ、なぜか帯刀さんのことを頼まれてしまった。

それは浮気をしないようにだろうか?

そしてその後私はやって来た帯刀さんに追い出されてしまい、夕方頃お近さんはどう言う訳か泊まっている宿へと帰ってしまった。




「お近さんはどうしてここに泊まらなかったんでしょうね?」
「旦那さんを残して、自分だけが泊まる訳できないでしょ?」
「は、お近さんって結婚してたんですか?」
「当然でしょ?何を馬鹿なことを言ってるの?」


縁側で帯刀さんの晩酌の相手中何気なく問いて見ればさも当然と言うべく答えが返ってきて、驚きを隠せず混乱する私を帯刀さんは馬鹿にして私の顔を覗き込む。
間近で見る帯刀さんはイケメン過ぎで、鼓動が高鳴り体温が急激に上昇する。
好意がなくても、これが普通。


「・・・騙しましたね」
「私は一度も義姉上が、未婚だと言ってないよ。でも安心したんじゃないの?わが家から追い出されなくって」
「帯刀さんこそ残念でしたね。私を追い出すことが出来なくって」


変な理屈を言われた上に上から目線の台詞を言われるけれど、私はムッとし嫌みのつもりで強く言い返す。
今日は朝から散々ムカつくことばかり言われているから、イライラして腹の虫が納まらない。


「・・・君は本当に馬鹿だね。追い出したいんなったら、理由がなくてもすぐに追い出してるよ」
「た確かに・・・。帯刀さんが私をここに置いとく理由がない」
「そう。だから私の言うことを聞かないと駄目だよ」
「・・・・生意気なことばかり言ってすみませんでした」


結局最後はいつものように悲しき現実を突き付けられ、私は考えを改め土下座で帯刀さんに謝るしかなかった。




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