夢幻なる絆

□番外編2
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凪、風邪を引く。




朝起きたら熱っぽくって調子が悪かったので、掃除していた梅さんに言って布団から出ずに休むことにした。
どうやら数年ぶり風邪を引いたらしい。


「馬鹿でも風邪は引くんだね。それともなにか悪さでもした?」
「・・・ほっといて下さい」


しばらくすると帯刀さんがやって来て、物珍しそうに私の顔を覗き込み笑う。
頭痛もしてきて怒る気力もない私は、それだけ言って帯刀さんから背ける。

こんな時ぐらいは心配してれたって、罰は当たらないのに。
どうせ私なんて帯刀さんにとって、ただのはた迷惑な居候ですよ。


「・・・結構熱があるみたいだね」
「帯刀さんの手。冷たくて気持ちいい」


なんて少しだけいじけていたら、私の額に手を当てようやくことの重大さが気づいたらしい。
真顔になり心配される。
だから私は機嫌がすぐ直り、笑顔で素直な言葉を発していた。
それになんだか安心出来て、頭痛も少し和らぐ。


「そう?ならもう少しこのままでいてあげる。少し寝なさい」
「だったら私が寝るまで、こうしてて下さいね」
「それは・・・病人相手に本気になっても仕方がない。今日だけ特別だよ」
「はい、ありがとうございます。なんか帯刀さんと話してたら、少し元気になってきました」


却下されるのを覚悟で調子にのってそんなお願いをしてみれば、一瞬困惑した表情をしたはずなのに軽く笑われ意外にも許しがでる。
その優しさがますます嬉しくて、少しだけ元気が出てきた。

帯刀さんの手は魔法の手。
私の風邪を治してくれるみたい。


「なにか食べたい物はある?」
「アイスクリームが食べたいです」
「あいすくりーむ?」
「そう言えばアイスクリームはまだこの時代ないんだった。甘くて冷たい西洋の氷菓子のことです」


遠慮なく風邪を引いた時に必ずと言って良いほど良く食べていた食べ物が恋しくなり注文すると、帯刀さんにはアイスクリームが分からなかったらしく首を傾がれてしまいその意味に気づく。

アイスクリームが日本で販売されたのは、明治二年の横浜の馬車道通り。
つまり六年後の世界。
残念だけれど、今回は諦めるしかなさそう。

だから私は大まかなことだけ教えて大人しく目をつぶり、帯刀さんの言う通り一眠りすることにした。






「あれ、もう夕方?」


一眠する予定が、目が覚めるとすでに夕方になっていた。
おかげで大分体が楽になっていて、頭痛はなくなっている。
でもまだ体が熱く頭がボーとしているから、風邪はまだ治っていない。

・・・明日になれば治るかな?


「調子はどう?」
「おかげさまで大分良くなったみたいです」


そこへ何かを持ってきた帯刀さんがやって来てそう聞かれたので私は起き上がり答えると、私のおでこに自分ののおでこを重なり合わせ古典的な方法で体温を測られる。
今朝よりかは冷たくないけれど、それでもまだ冷たくて気持ちいい。


「熱も大分下がってるみたいだね。この分なら、すぐに良くなるよ」
「私もそう思います。所でそれはなんですか?ひょっとしてお見舞い?」
「そうだよ。なんだと思う?」
「う〜ん、小説とかですか?」

私が風邪だからなのか朝からすごく優しい帯刀さん。
私が冗談で聞いたことなのに、本当にお見舞いを持ってきたなんて夢みたい。
しかも上機嫌でそのお見舞いの品に自信があるらしく問われ返され、私も嬉しくて子供のようにワクワクしながら考える。
だけど私はその優しさが嬉しくて、なんでも良かった。

「はずれ。正解はあいすくりーむだよ。ほら。これでしょ?」
「え、本当だ。これどうしたんですか?」
「それは内緒。溶けないうちに早く食べなさい」

お見舞いの品は思いも寄らぬアイスクリームしかもウエハース付き。
私が一番欲しがっていた物。

入手場所が気になって聞いても教えてくれないのは気になるけれど、秘密と言われたらそれ以上聞けなくて言われた通り早速頂くことにした。
高級そうな銀のスプーンで少しだけ救い口の中に入れた瞬間、パッと広がる甘くて優しいのハーモニー。
未来のアイスと違ってちゃんと素材の味が生かされていて、なんとなくどこか懐かしい。


「すごく美味しいです。本当にありがとうございます」
「どういたしまして。ねぇ一口だけで良いから、私にもくれる?」
「え、いいですよ。はい、あ〜ん」
「ありがとう凪くん。美味しいよ」


何気なく帯刀さんにアイスを欲しがられたため、恥ずかしがることもなく食べているアイスを食べさせてあげると満足そうな笑顔を浮かべる。
その笑顔に私は更に元気をもらう。


それがどんなことを示しているかを自覚したのは、帯刀さんが好きだと気づいた後日のことだった。



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