夢幻なる絆
□4.新婚旅行
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品川にある英国公使館に着いてすぐ帯刀さんは偉い人に呼ばれて、私は一人淋しく来客者室で待ちぼうけ。
さっきメイドさんが持ってきてくれたスコーンの一つは美味しく頂いて、紅茶はこれで二杯目。
早く戻ってきてくれないかな。
そんな時ドアが開く音がした。
「帯刀さん、お帰り」
「小松婦人。一人にさせてしまい、申し訳ありません」
「あれアーネストだけ?帯刀さんは?」
「小松さんはもう少し時間が掛かるそうなので、それまで私が小松婦人の相手をいたします」
「そうなんだ」
期待とは裏腹でアーネスト一人だけの登場に、私は少しだけ残念で肩を落とし紅茶を飲む。
するとアーネストは王子様スマイルのまま私の傍までやって来て、何も言わずに紅茶をカップに注いでくれる。
「ありがとう」
「紅茶は、気に入ってもらいましたか?」
「うん。私は紅茶のストレート派なんだよね。コーヒーは苦いからミルクをたっぷり入れないと飲めないんだ」
「小松婦人はコーヒーも飲んだことがあるのですか?」
「まぁね。たまにだけどね」
何気な過ぎる会話だと思い特に考えず当たり前のように答え、今度はスコーンを手に取り半分に割りクロテッドクリームと苺のジャムをたっぷり付け食べる。
これが美味しいんだよね。
「小松婦人?あなたは一体何者ですか?」
「はい?」
「どうしてそんなに西洋のことをご存知なのでしょうか?私はわざとメイド達に何も教えずに出してとお願いしました。そしたらあなたは当然のように紅茶を選び、スコーンの正しい食べ方まで良くご存知だ」
何かを核心したようにいきなり表情が険しくなり、言い逃れが困難な問いをマシンガンのように言って私を追い詰める。
まさかそんな罠があるなんて夢にも思わなかった私は、あまりのことに動きが止まり食べかけのスコーンボタッと落としてしまった。
イヤな汗がドッと流れ出す。
どうする凪?
どうやってこの危機を乗り切る?
「実は私クオーターなんだよね。母方の祖父がイギリス人で、幼い時西洋文化について教えて貰ったんだ」
「小松婦人は本当に嘘が下手ですね?日本は黒船が来るまで鎖国してたじゃありませんか?」
「・・・うっ、そうだった。私としたことが、なんたる初歩的なミス・・・」
とっさに付いた嘘は速攻見破られてしまい、ますます私は窮地に追い込まれ打つ手をなくす。
やっぱり南方先生の時のようにはいかない。
思えば最近の私何かを隠すのに、あらゆる嘘を付きまくっている気がする。
今まではシロちゃんのタメだったからまだしも、今回は明らかに私のため。
私がもっとしっかりしていれば、これは間違えなく免れたこと。
「小松婦人、白状して下さい」
「帯刀さんが戻ってくるまで待って下さい。私だけじゃ上手く説明できません」
「他人・・旦那さんに頼るなんて感心しませんね?あんまり小松さんのことばかり頼っていると、そのうち愛想つかれて離縁されてしまいますよ」
「・・・・・・」
駄目ながらも穏便に事を終わらせるため帯刀さんを待つことを言ったら、返ってきた冷酷な眼差しで酷過ぎるでも紛れもない図星の言葉が私の胸に容赦なく突き刺さる。
悲しくて苦しくて涙が一気に溢れ出し、テーブルの上に止め止めもなく零れ落ちてく。
私は帯刀さんに頼ってばかりで、いつも迷惑を掛けている。
アーネストの言う通りこのままでいたら、愛想つかれてしまうのは時間の問題なのかも知れない。