夢幻なる絆

□4.新婚旅行
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「気分はいかがですか?」
「傷はズキズキしてまだ痛いですが、それ以外はおかげさまで大丈夫です」
「それは良かった。痛みも時期に治まります。念のため今夜は入院して下さい」
「はい、分かりました」

少しだけ頬を赤く染めた南方先生からの問診と指示に、言われた通り素直に私は受け答えした。
本当は入院するのが嫌だったけれど、それだけのことがあって今夜だけだから我慢。
そして助手であろう二十歳前半ぐらいの可愛い女性に着物を脱がしてもらい、南方先生の診察も受ける。
傷に巻かれているガーゼのような物を取る瞬間刺激が走り、横目でそれと傷口を見ると真っ赤に染まりまだぐゅじゅぐじゅの状態だ。
肩は真っ青に腫れていて、思っているよりも重症。
入院と言われてもしょうがない。

「では私は用事があるので、失礼させてもらいます。くれぐれも妻のことをよろしくお願いします」
「分かりました」
「え、もう帰しちゃんですか?」
「寂しい?」
「・・・はい」

突然帯刀さんから思いも寄らぬ話を切り出され、つい私は心のなすままに寂しがり確認にも頷いてしまう。

頭で分かっていても、せめて夜になるまで傍にいて欲しい。

「そう。私もだよ。それなら用事を済ませたらまた来るから、夕食は一緒に食べよう。それならいい?」
「はい、約束ですよ。指切りげんまんしてください」

同じ気持ちでさらにそう言ってくれたので、私は自然と笑みがこぼれ子供っぽく指を差し出す。

言うまでもなく南方先生と助手さんは、キョトンとして私を見つめる。
それはあまりにも、私がガキ過ぎる行動を取ったからだろう。
帯刀さんはおかしそうに笑うけれど、私を理解してくれすぐに小指を絡め合う。

「まったく夕凪は甘えん坊さんだね。はい、指切りげんまん」
「指切った。約束はちゃんと守って下さいよ。じゃないと南方先生に用意させてもらいますからね。いってらっしゃい」
「心得ておくよ。じゃぁ」

指切りが終わって私は冗談半分で笑いながら見送れば、帯刀さんも笑いながらそう答え今度こそ部屋から出て行った。


「あの〜南方先生、指切りげんまんとは一体どのような物なのでしょうか?」
「え、咲さん知らないんですか?」
「はい、聞いたことがございません」
「あ、そう言えば指切りげんまんってこの頃はまだなかったかも知れません。帯刀さんも知らなかったですし」

助手さんと南方先生の会話を聞いていてフッとそんなことを思いだし、私も視線を変え会話に加わる。
助手さんは大きな目を更に大きく開き首をかしげていた。
お人形さん見たくて可愛らしい。

「え、そうなんですか?咲さん指切りげんまんと言うのは、絶対に守って欲しい約束を小指と小指を絡めて約束することなんですよ」
「約束破ったら、針千本飲まないといけないんですよ」
「・・・・・」

優しい南方先生と違って私はちょっと意地悪で恐ろしい真実を付け加えると、助手さんは真に受けたらしく顔を青ざめ言葉をなくす。
そんな助手さんの反応があまりにも期待通りで、私とそれから南方先生も笑ってしまうのだった。



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